勝っても負けてもお祭り騒ぎ、常に見るものに驚きと衝撃を与えてくれる矢地祐介。勝ち負けはもちろんだが、「面白い試合にする」「自分が試合を楽しむ」という事にこだわり、挑発を受けて正面から打ち合う、試合開始と同時に相手目がけて飛び込む等、ド派手な試合を繰り返す矢地に”RIZINのお祭り漢”という通称は非常にマッチしている。
彼は未だ「最強の選手」とは言えないかもしれないが、プロの格闘家としては「最高の選手」である事は間違いないだろう。そして、荒削りな技と勢いだけでも多くの強敵を破ってきた矢地が、今は本格的に格闘技を見つめ直し、更なる自己の改革を試みている。将来「最強で最高の選手」と呼ばれる日も近いかもしれない。
そんな矢地がどのような戦いを経て”RIZINのお祭り漢”と呼ばれるまでになったのか、彼の格闘人生とその「祭り」の様子を語りながら、矢地祐介を丸裸にしていこう。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2020/09/27/b32af8a922bc0cf0e6e1f140846ad7ad601f5359_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
矢地祐介のプロフィール
名前 : 矢地祐介
生年月日 : 1990年5月13日
出身地 : 東京都文京区
身長 : 176cm
体重 : 71.0Kg
戦績 : 23勝13敗(6KO 2SUB)
階級 : フェザー級⇒ライト級
所属 : KRAZY BEE⇒フリー
獲得タイトル : 第5代修斗環太平洋ライト級王座 第3代PXCフェザー級王座
入場曲 : Dragon Ash 「ROCKET DIVE」
バックボーン : 総合格闘技 ブラジリアン柔術
公式 HP :ー
Twitter : @usk_yachi
Instagram : usk_yachi
YouTube : 矢地祐介 Yachi Yusuke
アパレル :ー
ファンクラブ: ー
30歳を超えた矢地。荒削りだった技がどんどん洗練され、パワーと勢いだけではなくメンタルやテクニックも一流に近づきつつある矢地祐介。彼がどんな格闘人生を歩んできたのか、まずは彼の幼少時代から見ていこう。
野球少年からプロ格闘家へ
1990年5月13日。東京都に生まれ幼少時代は野球に打ち込み、サッカーも数年やっていたというスポーツ少年矢地。高校は野球での推薦も決まっていたというのだから、素晴らしいプレイヤーだったと推測できる。しかし、その推薦を蹴って矢地が選んだのは、格闘家への道だった。中学3年でキックボクシングジムに入門するが、「やるなら最強の格闘技をやりたい」とわずか2ヵ月で退会し、MMAを習う事を決意。あの山本”KID”徳郁が主催するKRAZY BEEに入門する。
プロデビューからの快進撃
高校卒業後すぐの2019年4月10日にプロデビューを果たした矢地は、あっという間に修斗のライト級新人王を獲得。その後負けが込む時期があったが、2011年12月18日から怒涛の4連勝で修斗環太平洋ライト級のベルトを手中に収め、次戦で初防衛に成功。
そこからPXCに主戦場を移し、初戦は敗れたものの、再び連勝を続け、2015年3月13日、今度はPXCフェザー級のベルトをかけて、キム・ジャンヨンに挑む。ここからは試合の様子も詳しく語っていこう。
試合が始まると、すぐに矢地はテイクダウンされ、キムの圧倒的なパワーとレスリング力によってグラウンドで制圧され続ける。なんとか立ち上がるも、キムにケージに押し付けられ劣勢が続きラウンドが終了。
2R、矢地はタックルに注意しながらコツコツと打撃を当てていく。しかしキムはジリジリと距離を詰め、足を取ってテイクダウン。さらに矢地の腕を取り、腕ひしぎの体勢に。一時完全に腕が伸び、勝負あったかと思われたが、なんとここから矢地は身体を二転三転と回転させ、腕を振りほどく。キムはここに全力を注いでしまったか、その後動きにキレが無くなり、スタンディングで軽く打ち合った後にラウンド終了。
3R、明らかにスタミナ切れを起こしているキムに対して、矢地がグイグイ前に出る。左飛び膝をヒットさせ、一瞬よろめいたキムに強烈な左ストレート。ダメージを受け後退するキムに矢地はマシンガンの様に左右のフックを打ち込み、さらに首を掴んで膝を叩きこむ、そしてまた左右のフックからの膝と、地獄のループを繰り返す。キムが完全に戦意を喪失しここでレフェリーストップ。矢地は圧勝し、文句なしの王者となった。
最強の壁との対峙
しかし次戦、これまでに無い強敵が矢地の前に立ちはだかる。現UFC世界フェザー級王者、パウンド・フォー・パウンド・ランキング2位。総合格闘技では世界最強レベルと言ってもいいであろう、アレクサンダー・ヴォルカノフスキーである。
当時、様々な格闘技団体を渡り歩き、タイトルを奪っていたヴォルカノフスキー。次に白羽の矢を立てたのがPXCのベルトだった。矢地がどうこの怪物に立ち向かうのか、関係者から大いに注目を集めた。
試合が始まるとヴォルカノフスキーは執拗にテイクダウンを狙う。矢地はそれに対して膝で抵抗。寝技に持ち込みたいヴォルカノフスキーと立ち技で勝負したい矢地とのせめぎ合いで1Rは終了。
2Rに入ると流れがやや矢地の方に動く。小外掛けでテイクダウンを取り、パウンドを落とし、さらにバックマウントを完成。絶好のチャンスかと思ったがヴォルカノフスキーはなんとか立ち上がる。その後は距離をとってミドルキック、左ボディストレートと矢地はボディを中心に攻め、ヴォルカノフスキーのスタミナを奪っていく。後半も矢地はテイクダウンを奪い腕ひしぎを狙うが、ヴォルカノフスキーは立ち上がり強烈なフックを返して2R終了。
3R、ヴォルカノフスキーの強烈なフックに矢地は流血。互いにテイクダウンを取り合うが、相手に決定的なチャンスは与えない。だがラウンド終盤、激しいバトルの中でスタミナを失ったか、矢地はついにマウントをとられ、強烈なパウンドの連打を喰らってしまう。
4R、再びヴォルカノフスキーがテイクダウンを取り、肘や拳でのパウンドで矢地を更に痛めつける。ダメージもかなり蓄積されスタミナも失っている矢地、スクランブルの状態から腕を取られアームロックを仕掛けられる。必死に耐える矢地だが、なんとヴォルカノフスキーはここから三角締めへ。完全に虚を突かれた矢地は抵抗する術もなく、ここで力なくタップ。一回目の防衛にして矢地はPXCのベルトを奪われてしまった。
その後はパンクラスで3戦し、なんと今やRIZINフェザー級チャンピオンのクレベル・コイケとも闘っている。結果は3R序盤でクレベルにチョークスリーパーを決められ一本負け。だが当時のクレベルは殆どの相手から2R以内に一本を取っていた事から、矢地は善戦した方だろう。
そして格闘技の試合を「祭り」だと捉える矢地は、主戦場を本当の祭りが行われるRIZINへと移す。
”お祭り漢”のRIZINデビュー
2016年12月29日。矢地のRIZINデビューは、お祭り漢らしい衝撃的なものだった。
対するはマリオ・シスムンド。
試合が始まるやいなや、矢地がいきなり飛び膝で突っ込んで行き、一瞬ひるんだシスムンドの顔をつかみ、強力な右ひざを叩きつける。一瞬倒れかけるシスムンドだが、何とか踏ん張り、パンチを返していく。だが矢地がさらに勢いよくフックの連打を浴びせ圧倒。さらに一旦離れたところから再び飛び膝を喰らわせ、たまらずマットに転がったシスムンドに容赦ないパウンドを浴びせたところでレフェリーストップ。
ここまでわずか19秒。電光石火の衝撃的KO勝利でRIZINのデビューを飾った。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2016/12/30/28fcf076b7266ae1e553fc6ad80330daa72c19a6.jpg(RIZIN公式HPより引用)
そして続くRIZIN2017、横浜大会では、戦車のような強靭でタフな身体と破壊力をもつダロン・クルックシャンクと対戦。試合は拮抗した打撃戦を見せたが、1R後半、突進しながらパンチを打ってくるダロンに完璧なタイミングで右ストレートを合わせ、まさかの失神KO! 衝撃の展開に、会場はまさにお祭り騒ぎとなった!
さらに同年7月、同じくダロンを破っている北岡悟と対戦。1R後半で矢地の強烈な左フックが北岡の顎を貫き、そこを皮切りに壮絶なフックでのラッシュで畳みかける。さらにハイキックを決め、それでも踏ん張る北岡に追撃を加え続ける。意識があるのかどうかも分からず、北岡がフラフラと立っている様子に、矢地もやや戸惑いつつ攻撃を続けていると、ようやくレフェリーが試合を止め矢地のTKO勝利となった。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2017/07/30/44c07305a8aea24096804fc13a423a6acfea615d_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
レジェンドとの死闘
次々と華々しいKOで勝利を重ね、高い評価を得た矢地。2017年大晦日、ついに日本格闘技界のレジェンド、五味隆典とのビッグマッチが組まれる事になる。
1Rが始まると同時に、シスムンド戦を彷彿させるような、飛び込みながらのハイキックが五味の顔面を捉える。これが効いたと見て、矢地は一気に試合を終わらせるべく猛ラッシュ。五味の頭を抱え執拗に膝を叩きつける。
しかし五味曰く「膝は一発も入っていない」と言う。矢地も「この時すごい動いて、的絞れなかったっすもん」と言ってる事から五味の発言は強がりでは無いのだろう。PRIDEチャンピオンはディフェンスも恐ろしいほどに高度である。しかし矢地の猛攻は止まらず、その勢いに押され後退する五味の顎に綺麗に左ストレートが入り、五味は一瞬マットに尻もちをつく。
しかし五味はすぐに体勢を立て直し、立ち上がる勢いも利用しての強烈な右フックを矢地のテンプルに叩きつける。
この状況でこんな反撃が出来る選手はそうそう居ない、本当に恐ろしい選手だ。そこから五味の嵐の様なフックとボディのラッシュを喰らい、矢地はマットに倒れこむ。
この時矢地は「気づいたら寝てたって感じです」と後に語っているように、意識はほとんど無かったそうだ。
さらにマットに転がった矢地の顔面を、五味の鉄槌の雨が襲う。しかもこの時五味は、興奮していたせいかわからないが、矢地の顔面に頭突きまでしてしまう。もういつレフェリーストップがかかってもおかしくない状況だが、必死で矢地は五味の腕を取り、決死の三角締めを試みる。しかし五味に頭を抜かれ、再びパウンドの雨が矢地に降り注ぐ。矢地は五味の腕を取って凌ごうとするが、そこに五味が2度目の頭突き(笑)。
この頭突きについて五味は後に「これはプレッシャーかけてるだけじゃないですか(笑)」「頭突きも3つ目のパンチって言う人も居ますからね」と、苦しい言い訳をしている。
パウンドの嵐や頭突きに耐え抜いた矢地は、五味の腕を取り、足を首に回して、ついに三角締めを完成させる。完全に極まった五味は一旦矢地を持ち上げてマットに叩きつけるが、高さが足りず技をほどく程の衝撃は与えられない。最後は堪えきれずタップし、まさかの、大晦日での、大逆転一本勝ちとなった。
五味に強い憧れを持っていた矢地はリングに駆け寄り、五味の前で泣きながら膝をつく。五味はそんな矢地の頭をポンポンと叩きながら「格闘技界を引っ張って行ってよ」「キツイ事どんどんやってね」と矢地を激励した。
そしてリング上、マイクで「大晦日、判定じゃだめだよ一本じゃなきゃ!」と過去の五味の名言を言い換えたパフォーマンスで会場を沸かせた。
RIZIN戦国時代
RIZIN参戦から怒涛の4連勝。しかも全てが劇的KO勝利というド派手な結果を残し、一躍RIZINのスター選手に躍り出た矢地だったが、格闘技の人気が再燃し始めた2018年頃から、世界の強豪が続々とRIZINに集結しはじめる。
五味に壮絶な逆転KO勝利を果たした矢地が次に迎えたのは、2018年5月6日RIZIN.10にて、元UFC選手のディエゴ・ヌネス。ここで矢地はRIZINで初めてフルラウンドで戦い、苦戦の末スプリットで判定勝利。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2018/05/06/33a47320695322739eb83d88cdec7b17e8929bbb_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
更に3か月後のRIZIN12では、様々な団体に出向き試合を行い、無傷の8連勝中しかも全試合KOまたは1本勝利、若さも勢いも実力もある、ルイス・グスタボを迎える。
1R、相手の情報が少ないため、始めは様子見の矢地。そこにグスタボは「じゃあ教えてやろう」と言わんばかりに、いきなり強烈なハイを見せる。これが想像以上のパワーだったのか、矢地はなかなか前に出られず、グスタボの一発一発の強烈な打撃に防戦一方。グスタボは打撃を警戒する矢地に対してタックルをあっさり決めてテイクダウン。そこに見るからに思い鉄槌を落とし「ドスン!」という低い音が会場に響き渡る。
一旦立ち上がり、組みついてからの飛び膝を入れるが、そこからコンビネーションには繋がらない。なんとかスタンディングでの打ち合いで活路を見出したい矢地だが、さすがにヴァンダレイ・シウバにその才能を見出されただけあり、グスタボは打撃も一流だ。矢地は立ち技でも終始押され気味のまま1R終了。
2R、打ち合いでは不利と見たか、矢地はラウンド序盤からグスタボの膝を喰らいながら捨て身のタックルでテイクダウンに成功する。しかし寧ろ下からのグスタボのプレッシャーに押され何もできずに跳ね返され、再びスタンディングに。スタンディングでもグスタボはグイグイ前に出て、シウバ仕込みの強烈なフックや膝を次々に矢地にヒットさせる。
グスタボのカミソリのようなキレのある攻撃を何発も受け、矢地の額が切り裂かれ血にまみれ、ドクターチェックが入る。試合は続行となったが、焦りがでたか、矢地は無理やり前に出て大振りなパンチを振り回し、グスタボを仕留めにかかる。
しかしグスタボは冷静にそのパンチを見切り、右のフックで矢地の顔面を完璧に捉えると、矢地はマットにうつ伏せに吹っ飛び、その倒れ方が明らかに危険と見て、レフェリーが追撃しようとするグスタボと、マットの上で伸びている矢地の間に飛び込み、試合はストップ。
負け方もまたお祭り漢らしいというべきか、衝撃のKOでRIZINでの初黒星を喫した。
試合後矢地は「一歩ずつまたやっていかなきゃな、これが今の俺の実力なんで」と潔く負けを認め、謙虚な姿勢で今後への気持ちを語った。
大晦日、元UFCファイターと激突!
前試合の強烈なKO負けにもめげず、矢地は4か月後の2018年大晦日、RIZIN14に参戦する。
だが次の試合の相手も、元UFC選手で総合格闘技団体MMCライト級チャンピオン、当時挙げている24勝中、14勝がKO勝利というゴリゴリのストライカー、ジョニー・ケースと、簡単に勝たせてくれる相手ではない。
1R、序盤から矢地のローに合わせて、ケースの長いリーチから繰り出されるワンツーがヒットし、矢地は一瞬マットに転がる。すぐに立ち上がるもケースに組みつかれマットに叩きつけられテイクダウン。しかし、なんとかケースとの間に両足を入れて撥ね退け立ち上がりふたたびスタンディングに。打ち合いは不利かと見られていたが、矢地は冷静にケースの動きを見て左右のフックを入れ、カウンターをステップして避けるなど、善戦を見せる。終盤は両者大きな動きは無く1Rは終了
しかし一発一発破壊力のあるジョニーの拳を受け矢地の瞼は腫れあがり、2R開始前にドクターチェックが入る。なんとか試合は続行とみて2R開始。前回からの教訓か、ここで熱くならずに冷静さを保ち、ケースの猛攻を避けながら細かくローを入れて攻撃の糸口を探るが、途中テイクダウンを取られ強烈なパウンドを喰らう等厳しい展開が続く。
ラウンド終盤に入り、ケースをコーナーに追い詰めて左ハイキックを出すが、戻し際にケースの左右のフックが矢地の顔面を捉える。このフックがかなり効いたか、矢地は後退してジョニーとの距離を取ろうとする。ケースは追いかけながら攻撃を続け、コーナーに追い詰めると、回って逃げようとする矢地に左右のフックをヒットさせ、同時に矢地の瞼から血が吹き出す。再びドクターチェックが入り、試合続行不能と判断され、矢地のTKO負けとなった。
試合後の矢地は大荒れ。控室に戻る途中「2連敗か、もう辞めようかな」といじけ気味につぶやいたが「ガキが何言ってんだよ」と陣営のスタッフにたしなめられた。
矢地を気にかけて試合に足を運んだ五味隆則は、「まあ、負けた選手になかなかかける言葉がないよね。俺がバリカンで切ってやるよ」「トレーニングは見てやるよ。やる気があればね」と五味らしいエールを送った。
ビッグネーム、朝倉未来とのバチバチ喧嘩マッチ
2連敗はしたものの、RIZINの舞台を大いに盛り上げた矢地は次戦、さらなるビッグマッチが組まれる。その相手は、Youtubeで「喧嘩自慢」シリーズが大バズりし、RIZINのリングでも4連勝。しかも前戦では、矢地が敗れたグスタボに勝利と、知名度も実力も絶好調、あの朝倉未来である。
試合前から両者は舌戦を繰り広げる。矢地が「そもそも(朝倉が)気に喰わないし、人としてね」と言うと「(矢地の様に)チャラチャラしてるヤツは嫌いですね」と返す朝倉。
更に矢地が「コイツ声震えてるな、無理してかましに来てるなって思った」と言うと、朝倉は鼻で笑いながら「まぁ良いんじゃないですか?そうやって、勘違いが糧になるなら」と一笑に付した。
「過去一気合が入ってる」と、この試合に賭ける気合を見せている矢地が朝倉をどう攻略するのか、注目が集まった。
2019年7月28日RIZIN. 17 試合直前、リング上で朝倉が一瞬握手をする素振りを見せるも、矢地はそれを相手にせず朝倉が手を引っ込める。矢地は相当キレているようだ。
試合が始まると、矢地はローを出して少しずつ朝倉の足を奪う作戦に出る。しかしそのタイミングを読んだ朝倉は、体重をしっかり乗せた強烈な左ハイキックをカウンターで矢地の胸に叩きつける。
矢地はマットに尻もちを突くが、すぐに立ち上がり再び立ち技での展開に。
矢地の癖をしっかり研究してきた朝倉は、ここからカーフキックを中心に試合を組み立てていく。朝倉が徐々に攻勢をかけていき、単発ではあるが、強烈なボディブローや右フックを当て始める。矢地がコーナーに詰められるも、飛び膝で反撃したところでゴングが鳴り2Rへ。
2Rからグラウンドに持ち込もうという作戦を立てていた矢地だが、相撲で鍛えた強靭な体幹と腰を持つ朝倉は簡単には倒せない。そしてコツコツと朝倉が打ち続けたカーフキックが効き始め、矢地の動きにキレが無くなってくる。立ち技では厳しくなってきた矢地は、朝倉と打ち合うと見せかけてタックルに行き、朝倉をテイクダウンに行こうとするが、それでも朝倉は背中をマットにつけない。朝倉を掴んだままコーナーに押し込んでいくが、朝倉曰く「僕この時全然力使ってないんですよね」と、押し込まれているように見せて矢地に力を使わせていたという。一つ一つの行動が理にかなっており、朝倉の格闘IQの高さが伝わってくる。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2019/07/28/0b9eda84b2e704453349e450ee508513be6c8cf0_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
終盤では朝倉にコーナーに追い詰められ飛び膝を喰らうが、その足を取って矢地はテイクダウンを狙う。しかしそれでも朝倉はビクともせず、諦めて距離をとろうと背を向け走り出した刹那、偶然朝倉のストレートが矢地の後頭部を打ち、矢地は審判に抗議。ここで2R終了。
3Rに入っても朝倉は執拗にカーフキックを打ち矢地の足を奪っていく、矢地は度々タックルを仕掛けていくが、足の踏ん張りが効かなくなってきているせいもあり、逆にテイクダウンを取られ、鉄槌を喰らう。
グラウンドで勝負はつかず、スタンディングに戻って互いの隙を伺いながらの細かい打撃戦が終盤まで続くが、試合終了15秒前、朝倉が笑みを浮かべながら両腕を広げ「来いよ、喧嘩しようぜ」と言わんばかりに挑発する。
良くも悪くも単純な矢地はこの挑発に乗り、ここからは両者距離を縮めて、作戦も駆け引きも無い、真正面からの漢の殴り合い! 矢地が殴れば、朝倉も返す。
矢地も負けじと朝倉のパンチにカウンターを合わせる。激しい乱打戦の中、ラスト2秒で矢地の大振りの右フックに朝倉が左のカウンターを当て、矢地がマットに転がりここでゴング。「こういう戦いが見たかったんだ!!」と言うファンの想いが、大きな歓声となって会場を埋め尽くす。
完璧な作戦で試合をリードし、最後にはダウンも取った朝倉が3-0で勝利した。悔いを残すことなく全力で戦った両者は試合前のわだかまりを忘れ、笑顔で抱き合い、「ありがとう」と言葉を交わし、観客は熱い戦いを見せてくれた両者に、等しく労いの声と拍手を送った。
控室では矢地を気にかけてくれる先輩、五味隆則が「特訓してやるから来い」と声をかけ、タメで矢地と同じ元KRAZY BEEの堀口恭司は「泣くんじゃねえ、漢だろ」と笑いながら矢地の肩に張り手をかまし、不器用ながらも伝わってくる二人の愛に、矢地の目から大粒の涙がこぼれた。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2019/07/28/7cc799d2a4766d753f42c20d7b0d42fb240d2020_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
連敗脱出、帰ってきた”お祭り男”
毎回素晴らしい試合を見せつつも、3連敗を喫し後が無い矢地だが、次戦は2019年12月29日、アメリカで2番目に大きい総合格闘技団体ベラトールとRIZINが共同主催する、ベラトールJAPANに出場。
対する上迫博仁と激しい流血を伴う打撃戦を繰り広げ、3RワンツーからのサッカーボールキックでTKO。久々の勝利を手にした矢地は最高の笑顔を観衆に見せ、実況アナは「帰ってきたお祭り漢ー!!」と絶叫した。
連敗をストップし、勢いに乗りたい矢地。次戦では今やRIZINの台風の目となっているボンサイ柔術の筆頭選手、ホベルト・サトシ・ソウザと2020年8月9日、RIZIN22で拳を交えたのが・・
1R序盤からホベルトは低い姿勢のタックルに行き、力ずくで矢地をマットに寝かせ、そこから稲妻の様なパウンドを矢地に次々と叩きつける。上からの圧力と強烈なパウンドに心を折られ矢地は何もできず、あっけなくTKO負けを喫する。
あまりの力の差に試合後の会見では「いやあ、完全にやられたな、ボコられたなって言う気持ちですね」と言い訳をする余地も無い様子の矢地。今後の展望については「どうすればいいのか、試合に関しては考えられてないかな」とホベルトとの歴然とした力の差を見せつけられ、絶望感を漂わせた。
しかしそのたった一カ月後に大原樹里と試合を行い、善戦するも1-2のスプリット判定負けとなり、再び連敗となってしまう。試合後には「言葉が出ない、何もかも落胆している、とにかく悔しい」と辛い胸の内を明かした。
直近6試合で1勝5敗と、味わった事の無い挫折から、矢地は9か月間リングから離れるが、やはり黙って祭りを見ているような漢では無い。この間、矢地はKRAZY BEEを巣立ち、朝倉未来のジム、トライフォースや青木真也の元に出稽古に赴き、一から格闘技というものを見直していたのだ。
長いトンネルからの脱出へ
そして2021年6月27日、RIZIN29の舞台で、米国第3の総合格闘技団体PFLで活躍した川名TENCHO雄生を、3-0の判定で下し念願の連敗脱出に成功。試合後インタビューで「連敗を脱出した気持ちは?」と聞かれると「連敗してました?僕?」と、いつもの調子を取り戻し、健在をアピールした。
再び勢いに乗りたい矢地は、勝利の感覚が消えないうちにと、川名との試合の3か月後に、若く、非常に、いや異常と言えるほどにタフなDEEPライト級王者、武田光司と対戦。
武田は、矢地が判定で敗れた大原樹里を二度も倒している実力者。事実上、RIZINライト級の日本人トップを決める戦いに矢地も気合が入る。
試合のゴングと同時に、矢地はマリオ・シスムンド戦の時のように、飛び込みながらの膝を出し、見事にこれをヒットさせ武田の出鼻をくじく。
しかしフィジカルに勝る武田は矢地に組みつくとコーナーに押し込んで塩漬けにする。さらに、接近戦での打ち合いから組み合うと、そのまま矢地を持ち上げ、裏投げでマットに叩きつけサイドポジションを取り、矢地の腕を掴んでアームロックの体勢に。
これは完全に極まったに見えたか、審判が「ギブアップ?」と矢地の戦意を確認する。だが矢地は腕をぐにゃりと曲げられたまま、審判に試合続行の意志を表示する。そして徐々に体勢を変え、見事にアームロックを外して立ち上がり、客席から感嘆の声が上がる。その後は組みついてから武田の顔面に膝をモロにヒットさせるなど、矢地もしっかり応戦する。
2Rに入ると再び武田が矢地をコーナーに押し込み塩漬けにするが、矢地は上手く武田との間に隙間を作りコンスタントに膝を当てていく。1Rのアームロックからの脱出と言い、確実に組み、寝技の成長が伺える。途中ローブローの中断を挟むも、終始コーナーでの攻防が続いたが、ラウンド最後に武田の膝の打ち終わりを狙って矢地が小外刈りでテイクダウン。武田は綺麗に背中をマットに着き、そのまま腕ひしぎを狙うがここでゴング。
3R前半も武田コーナーに矢地を押し込み、矢地は細めに膝を当てていく展開。だが終盤に差し掛かると、武田は自らを鼓舞するように吠えながらパンチを繰り出し、矢地もそれに応えて気合を入れながら拳を叩きつける。ラスト1分は両者アグレッシブに打ち合うが決定打は無く、試合は終了。2Rのテイクダウンや3Rのコーナーで細めに入れた打撃が評価されたか3-0で矢地の勝利。そしてリング上で、リベンジとRIZINライト級のタイトルをかけて、年末にホベルト・サトシ・ソウザへの挑戦をアピールした。
縮まった世界との距離
その願いは実現し、2021年12月31日 RIZIN.33にて、矢地は前回全く歯が立たなかったホベルトと再び拳を交える。
ホベルトに生まれ変わった自分を見せたいところだが、1R始まってまもなく、ホベルトが矢地のローに対して強烈なカウンターフックを放ち、すぐさま足も取られてコーナーに尻をつく。一度グラウンドになると蜘蛛のようにしつこいホベルト。次々にサブミッションを仕掛けて来るが、以前よりグラウンド技術が遥に高くなっている矢地は、なんとか猛攻を凌ぎきりスタンディングへ。
そしてコーナーでの膠着状態から素早く小外刈りをかけて、あのホベルトを見事にテイクダウン! これにはコロナ禍で声援を制限されている観客たちも思わず声を上げる。「あの時のお返しだ」と言わんばかりに矢地はパウンドを仕掛けるが、ホベルトはその腕を取り三角締めを狙う、だが矢地はすぐにそれに気づき身体回転させて技を避ける。非常にハイレベルの攻防が続く中、ホベルトが激しいパウンドの連打を始めたところで1R終了。
2R、矢地のローに合わせて再び矢の様な左ストレートを放ち、懐に飛び込んでからのテイクダウンに持って行くホベルト。
グラウンドでは目まぐるしく体勢を変え、次々に技を仕掛け、サブミッションに矢地の意識が向いた所でパウンドを繰り出すという、息もつかせぬ猛攻をしかける。
ホベルトに好き放題にはさせまいと、矢地も両足をホベルトの片足に絡めて動きを制限し、必死に抵抗する。スクランブルから矢地が上になり、腕を取られてはいるものの、危機は脱出したかと思ったら、ホベルトは身体を回転させ、まるで何が起こったかもわからないうちに、腕ひしぎ十字を決めてしまう。あまりの完璧な極まりっぷりに矢地も即座にタップ。魔法の様なホベルトの技に観客の驚きの声が会場に響いた。
ボンサイ柔術の奥深さにはまだ一歩及ばなかったが、試合後インタビューで「負けてこんな事言うのもあれなんすけど、手ごたえ感じた部分もたくさんあった」と語り、前回の対戦時からの成長を感じたようだ。そして負ける度に泣きじゃくり、弱音を吐いていた矢地が、今回は「彼にやり返すチャンスをもらえるまでは、一つずつ勝って行こうと思ってるんで」と、強気の姿勢を見せ、精神面での大きな成長も伺えた。
因縁の相手、グスタボとのリベンジマッチへ
負けはしたものの、海外強豪勢への手ごたえを感じたか、次戦はグスタボへのリベンジを賭け、RIZIN TRIGGER 3rdに出場。
試合が始まり序盤は距離を取りながら単発で膝やワンツーを当てに行く。グスタボの攻撃もしっかり見えていて順調な滑り出しだ。ラウンド後半に差し掛かると、、グスタボも前に出て、大振りのフックやミドルキックでプレッシャーをかけて来る。どっちが優勢ともつかぬまま1Rは終了。
だが2Rに入るとグスタボは一気にギアを上げて来る。矢地の懐に一気に踏み込んでラッシュをしかけ、その圧力にたまらずしゃがむ矢地の上から、パウンドやボディへの肘を連打。猛攻が続く中で矢地はなんとか立ち上がり、体勢を立て直そうとするが、グスタボのプレッシャーは続く。後ずさりする矢地の顎に右ハイキックを叩きつけると、一気に踏み込んでワンツー。この右が顔面を完璧に捉え、矢地はマットに沈んでいく。追い打ちをかけようとするグスタボをレフェリーが慌てて止めて、グスタボのTKO勝利となった。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2022/04/16/762af6b71ceb16c25663a38cafc0a8125b388d16_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
圧倒的な世界の壁に絶望を感じ「また何も見えねーよ。先が見えない」と弱音を吐く矢地だったが、それでも気持ちを落ち着かせ、冷静になると「まだ懲りずに、ひたむきにガンバっていくと思うんで。またね、復活劇を楽しみにしておいてもらえればと思います」と語り、まだ消えぬ闘志を見せた。
海外の怪物達が集結するRIZINライト級。パトリッキー・フレイレやトフィック・ムサエフなど、まだ拳を交えていない怪物たちも控えている中、それでも敢えてこの世界の壁への挑戦を続ける矢地。何度も何度も矢地の口から発せられてきた「もう先が見えない」という言葉。しかしその闇の中を突っ走り、何度も我々に光を見せてくれた矢地は、きっとまた絶望から立ち上がり、ライト級の日本総大将として、いつか海外の怪物相手に「祭り」を起こしてくれるはずだ。
そんな”RIZINのお祭り漢”矢地祐介からはまだまだ目が離せない。
矢地祐介の知りたいトコ!
矢地祐介の彼女はあの美人女優!?
明るく素直な性格と、漢らしさを持ち、オシャレな印象もある矢地はさぞかし異性からモテると思われる。そんな矢地は現在、美人女優として数々の映画やドラマに出演している川口春奈と交際しているという噂だ。詳しい馴れ初めは明らかにされていないが、川口自身スポーツや格闘技が好きで、矢地の試合を観戦したことがきっかけと言われている。
何かある度(主に敗戦時)、知名度や二人の年収差などを指摘されたり、「ヒモ男」「別れろ」等と叩かれる事もあるが、二人の愛はお金や知名度で計れるものではない。是非二人がいつか堂々とゴールイン出来るまで暖かく見守っていてほしい。
矢地祐介の愛車はピストバイク
矢地の乗っている車については不明だが、矢地がピストバイクという愛車を乗り回している事はYouTubeでも公表している。ピストバイクというのは元々は競技用自転車だったのが、ストリートカルチャーとリンクして一般的にも乗られるようになったもの。
ピストバイクはハンドルやペダル、ホイールなど細かいパーツを自分好みにカスタマイズ出来て、自分だけの愛車を作れるという事で、ハマっている人も多いのだとか。
矢地は車よりも自転車愛が強いようだ。
おにゅー‼️https://t.co/3MgaAkzJXx pic.twitter.com/wFN8TiNsfk
— 矢地 祐介 Yusuke Yachi (@usk_yachi) October 23, 2020
RIZINをきっかけに戦い方が激変した?
RIZINでは”お祭り漢”と称され、ド派手な試合を繰り広げてきた矢地だが、実は戦績を見ると良くわかるとおり、RIZIN参戦前はKO決着など殆どない「判定決着マン」だったのだ。
RIZIN参戦前後には、実は矢地に大きな変化が2つあったという。
一つはフェザー級からライト級に階級を上げた事。そして「自分の為ではなく、皆の為に戦うという意識改革」がもう一つの理由だと矢地自身のブログで語っている。
ただ勝つためではなく、観ているみんなを喜ばせる戦いをする。”RIZINのお祭り漢”という称号はこの大きな改革によって手に入れたモノなのだ。矢地はSNSの他にもブログを運営しており、矢地の考え方や日常生活を垣間見る事が出来る。
矢地祐介のオフィシャルブログ:「毎日ヤッチ舞い」(外部リンク)
まとめ
ここまで”RIZINのお祭り漢”矢地祐介のストーリーを見てきたが如何だっただろうか?
振り返ってみると矢地は幸か不幸か、RIZIN参戦前から本当に世界最強レベル強豪達と凌ぎを削り合ってきた。その中で何度も絶望と挫折を味わったが、矢地は何度でもその淵から這い上がって来る。そしてその度に心も身体も強くなり、いよいよ矢地は格闘家として本格化してきたと言えるだろう。
今後も強豪外国人選手が暴れまわるRIZINライト級で、矢地は日本人の誇りを背負い、世界の壁に何度でも挑戦していく事だろう。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2021/06/27/f58c925e142cbd7ddc05d178b47e0b6ae63ed4f9_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
いつかまた矢地が、世界のトップファイター相手にジャイアントキリングを起こす事を期待して。皆さんと一緒に、次の大きな「祭り」の準備をしつつ、矢地祐介を見守っていきたい。