華々しい戦績を引っ提げてRIZINに参戦し、2戦目でいきなり元RIZINフェザー級チャンピオンの斎藤裕と、互角の闘いを演じた”コーカサスの雷”ヴガール・ケラモフ。
蛇のようにしつこく、勝つためならどんな手段も選ばない徹底的に勝利にこだわる姿勢に賛否両論あるものの、そのこだわり故に彼は、毎回見る者の身体も心も熱くさせる本当の勝負を見せてくれる。
これまでの勝ち星のほとんどが2R以内の一本もしくはKO勝利。まるでバトルサイボーグかの如く、打撃も寝技も一流!
彼のとてつもない強さの起源は一体何なのか?今回はヴガール・ケラモフを丸裸にしていこう。まずはプロフィールからどうぞ。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2021/06/13/9f43c0cf9f7982eff464d254bacf6edf68049f0d_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
ヴガール・ケラモフのプロフィール
名前: ヴガール・ケラモフ Vugar Karamov
生年月日: 1992年2月20日
出身地:アゼルバイジャン・バクー
身長: 175cm
体重: 66.0kg
戦績 : 16勝4敗(6KO 7SUB) 2分 1他
階級 : フェザー級
所属: ORION FIGHT CLUB
獲得タイトル : ー
入場局: Abu Ali 「My Love」
バックボーン : 柔道・ウーシュー散打・コンバットサンボ
公式HP : ー
Twitter: @VKeramov
Instagram: vugar_karamov
YouTube: vugar karamov ※本人の名前だが公式かは不明
アパレル : ー
ファンクラブ : ー
今年でちょうど30歳と、まだまだ伸び盛りな“コーカサスの雷” ヴガール・ケラモフ 。
彼がどのような格闘生活を経て今に至るのか、ケラモフのデビュー当時から見ていこう。
総合を始めてたった一年でプロデビュー
まずはケラモフの生い立ちから少し紹介していこう。アゼルバイジャンで生まれ育ったケラモフは、アマチュア時代にコマンドサンボやウーシュー散打を習得し、なんとウーシュー散打イスラム選手権で優勝した実績を持っている。
もうこの頃からケラモフの格闘技センスは飛びぬけていたようだ。
そして2011年 19歳から総合格闘技を始め、なんと20歳にはもうプロのリングに立っていたという。デビュー戦は2012年4月6日、CISという大会で、対戦相手はオレグ・ボリソフという選手。
ここでは0-3で判定負けと、デビューしていきなりプロの洗礼を受ける形となった。
しかし、その5か月後ケラモフは悔しさをバネに大きな進化を遂げる。
ケラモフ大躍進
格闘エリート、ケラモフを待っていたプロの洗礼から5か月間、一体その間にどんなトレーニングを積んだのだろう。まるで初戦の敗北が悪い夢だったかのように、2012年9月
から2013年6月まで、怒涛の4連勝!しかもすべて1RでのKO勝利、もしくは一本勝ちである。この当時の試合の動画がYoutubeにも残っているが、スキンヘッドの屈強な選手が手も足も出ず、ケラモフの唐突な飛びつきからの三角締めで瞬殺。
そしてケラモフの恐ろしさを顕著に感じられるのは、2013年5月28日のバイラム・ウグルとの一戦。前半ヘッドロックを極められ危ういシーンもあったがその後頭を抜くと一瞬の隙を見て腕を取り、全体中をかけての腕ひしぎ。
その姿からは「腕をへし折ってやる!」というケラモフの明確な意志さえも感じる。地上波では流せないレベルのひしぎっぷりだ!
自分が格闘家だったら、こんな恐ろしい選手と試合が組まれたら、尻尾を巻いて逃げ出すに違いない。
誰も手が付けられない、まさに”コーカサスの雷”
その後の2戦では精彩を欠いたか、相手のレベルが上がったのか、2戦連続で判定負けを喫する。だが、ケラモフの本当の覚醒はここからだった。
なんと2015年から2019年までの4年間、電光石火の10連勝!!さらに特筆すべきは、1試合の判定と、もう1試合の不戦勝を除いてすべてが1本勝ち、もしくはKO勝利なのだ。
Youtubeで“vugar karamov” と検索すると、海外でのケラモフの試合のハイライトシーン集を見る事ができるのだが、これがまたとんでもなくエグイ。あらゆる方向から飛んでくるミサイルのような強烈なパウンド、レフェリーが止めるまでは相手が失神してもほどかないチョークスリーパー、とんでも無い体勢から突然キメてしまう関節技。これはあの氷の皇帝”ヒョードル”を思わせる、命の危険を感じるレベルの残酷さだ。
Youtubeで視聴できるWWFC12でのリネト・サイバエフ戦がまたすごい。1Rは互角に戦い、終盤にはリネトからパウンドの嵐を浴び、さらに三角締めが極まった状態でゴングに救われたケラモフだったが、2R目からは完全にブチギレモード。
グラウンドから立ち上がろうとするリネトに強烈なフックを喰らわせると、そこからは無慈悲なパウンド地獄。リネトが下からケラモフの足を極めかけていてもお構いなしにパウンド&パウンド。更にはリネトに下から抑えられて横に伸びた腕を、力づくで90度に曲げて無理やり全体中をかけた肘をお見舞いするという無慈悲さ。1Rでパウンドの嵐を受けても、何事もなかったかのように無表情だったケラモフに対し、リネトはこの肘を受けて苦悶の表情を浮かべる。
この時点でほとんどリネトは戦意喪失しているように見える。現にこの後スタンディングでケラモフの強烈なコンボ喰らった後、リネトは足が痛いと訴えて試合はTKOとなった。
ケラモフの勢いはとどまる事を知らない。2019年11月25日、アメリカでNo.2のMMA団体ベラトールで、グスタボ・ワリッツァー相手に、パウンドのラッシュによって1RでのKO勝利。
さすがにこの目覚ましい活躍は日本の格闘技界にも注目され、ケラモフはまさしく雷の如く、日本の、RIZINのリングに降臨する事になる。
ついにRIZINへ進出!
華々しい戦績を引っ提げて、ケラモフは2020年2月22日、RIZINの舞台に降臨した。
対戦相手は、あの山本”KID”徳郁の姉である山本美優の夫、カイル・アグォンだ。
開始ゴングが鳴ると、始めはスタンディングで牽制しあうも、すぐにケラモフがしかける。
カイルの足を取り、さらにもう片方の足をかけてテイクダウンし、そこから次々とパウンドを浴びせる。その後もスタンディングでの打撃戦でうまくカウンターパンチを当てるなどして試合を優勢に進めていく。
しかしカイルもやられっぱなしではない。2R前半にコーナーでケラモフに足を取られた状態から勢いよくグラウンドに引き込み、体勢が崩れたところに三角締めを極めて一気に試合を終わらせようとする。だがケラモフは、その持ち前の強力なフィジカルで無理やり首を引っこ抜き、その体勢から再び次々にカイルにパウンドを浴びせる。
3R、ケラモフは途中で目じりのあたりから出血するも、大きなダメージは無いようだ。ただ、両者スタミナの消耗が激しく、お互い大きな勝負には出られなくなっている。そんな中でもケラモフは、ショートパンチ、膝、肘、蹴りと、多彩な打撃のバリエーションで細かくダメージを与えていき、結果3-0でケラモフの判定勝利となった。
一本勝ちとはいかなかったものの、デビュー戦でその実力を日本格闘技界にアピールしたケラモフ。
次戦ではあの朝倉未来をも一度は退けた斎藤裕とのビッグマッチが組まれるのだが、この試合が大変な物議を醸すことになる。
大きな物議を醸した2戦目
舞台は2021年6月13日 RIZIN 28。1R開始後、少しの間様子を見合っているかと思うと、斎藤のローに合わせるようにケラモフが前に出て押し倒し、そこから強烈な左の連打を浴びせる。
ラウンド後半、ケラモフは大外刈りで斎藤をリング外に投げ飛ばしてしまう。起き上がった斎藤選手の目じりから血が流れ、出血量が多いため一旦試合はストップ。カットの原因は確定していないが、恐らく投げる直前に組み合っていた際、偶然のバッティングでカットしたようだ。
試合再開後早々に、今度はケラモフのローが斎藤の急所にヒットしてしまい再び試合はストップ。さらにラウンド終盤には、グラウンド状態から斎藤選手に故意か偶然か、サミングをしてしまい審判から注意を受ける。またロープを握ったり、ショーツを掴む等の反則行為を複数回行い、2Rではついにケラモフにイエローカードが出される。
その後ケラモフは何度もテイクダウンを奪い試合をリードしていくが、斎藤もロープ際で足を掴まれながらも立ち上がると言う驚異の身体能力を見せ、ケラモフに決定的なチャンスを与えない。
勝負は判定に持ち込まれる。試合内容だけ見ると、テイクダウンを何度も奪ったケラモフが優勢に見えたが、イエローカードが効いたのか、判定は1-2でケラモフの敗北となった。
このジャッジにケラモフ陣営はどうしても納得がいかなかったのか、試合後に控室前でケラモフに「センキューベリーマッチ」と声をかける斎藤に対し、トレーナーのトフィック・ムサエフは「あなたは本当に自分が勝ったと思いますか?」と問いかけた。
憤りが収まらないケラモフは試合二日後に、ツイッターでも斎藤選手に直接「You yourself know that you lost to me “ 私に負けたという事はお前自身がわかっている”」とコメントしている。
you yourself know that you lost to me!
— Vugar Karamov (@vugar_karamov) June 14, 2021
一連の反則行為やケラモフの態度を受けて、Youtubeにアップされているこの試合の動画にはケラモフへの批判コメントが相次いだ。
一方斎藤選手は、試合後にケラモフについて「とにかく荒い。ダーティー。ショーツを握られてたり、(脇を)差されているというより、ガシッと握られてる。細かいところで随所で“そういうことするんだ”という感じでした 」「1Rにクラッチを取れて、(相手が)ロープを掴まなければテイクダウンは取れたから、ダーティというより反則」 と苦言を呈した。
元RIZINフェザー級王者、斎藤に対し優勢に試合を進めたとはいえ、格闘ファンにダーティーなイメージを植え付けてしまったケラモフ。
次戦では正々堂々と実力の差を見せつけ、そのイメージを払拭したいところ。
パンクラス王者と汚名返上の一戦へ
斎藤戦から10ヵ月後の2022年4月、そのチャンスはやってきた。
相手はパンクラスバンタム級暫定王者、中島太一。
試合が始まるとガンガン前に攻めるケラモフに対して、中島はコツコツとカウンターを当てていく。その後、ケラモフのローブローで一旦試合はストップ。再開後、ケラモフは圧倒的な圧力で中島をグラウンドで支配し、三角締めによって中島にタップする余裕も与えずに一気に締め落とした。
この試合で再びケラモフは自信の強さと恐ろしさを日本人にアピールし、斎藤戦で受けた汚名を返上した。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2022/04/17/496fcd70aa093982cee89ffe800aa7bc47157f55_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
試合後、中島は「僕のパンチ力が足りなかった」「組力は強かったですね、そこの印象は(自分の想像を)上回っていました」とケラモフの強さを認めている。
一方、ケラモフは「相手の攻撃が効いたつもりは全くない」と実力の差をアピールした。
フェザー級のニューホープと落とせない一戦
次戦の予定は2022年7月31日 RIZIN37。負傷して欠場が決まった白川陸斗に代わって、弱冠21歳の若手のホープ、山本空良(やまもとそら)との対戦が決まっている。
山本も前試合でカイル・アグォンを破っており、若さと勢いから大番狂わせもあり得るこの試合。いよいよケラモフの真価が試されるところだ。今後のケラモフからも目が離せない。
ヴガール・ケラモフの知りたいトコ!
トフィック・ムサエフ選手が練習パートナー
ケラモフの練習パートナーを務めるのは、なんとRIZINライト級トーナメントチャンピオンでありアゼルバイジャンの英雄、トフィック・ムサエフ。二人はアゼルバイジャンに二つ目のベルトをもたらそうと誓い、ムサエフは全力でケラモフを支えている。
ケラモフは親日家
ケラモフは、その無慈悲なファイトスタイルとは裏腹に実は親日家で、コロナ禍で来日出来なかった際は「私は日本のみんなとRIZINを心から愛しています。もうすぐすべてが元に戻り私が日本のファンの前で戦える日が来ることを信じて頑張ります 」
と声明をだしている。また日本語も勉強しているようで、時折り日本語でのツイートをアップしている。
https://twitter.com/vugar_karamov/status/1515617308882108418?s=20&t=ezmZwGKPZnCYpje0cPCQAg
まとめ
ここまで”コーカサスの雷”ヴガール・ケラモフのストーリーを見てきていかがだっただろうか?
群雄割拠のRIZINバンダム級に稲妻の如く降臨した新たな刺客、ヴガール・ケラモフ。RIZINバンダム級は今後、さらなる混沌の戦国時代となっていくであろう。荒々しいファイトと手段を選ばない戦闘スタイルで賛否両論あるケラモフだが、何が何でも勝ちにこだわるその想いには胸を打たれる部分もあり、私個人的には大好きな選手の一人だ。
なによりもケラモフの試合は純粋に面白い。常に一本、KOを狙っていく、判定なんて眼中にない、本当の命の削り合いを魅せてくれる。彼のファイトにこれからも多くの格闘技ファンが魅了されていくことだろう。そんなヴガール・ケラモフの活躍を、これからも皆さんと一緒に見守っていきたい。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2022/04/17/f4eec4c4023a303453cd554e3c3f327fd1601382_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
※アイキャッチはRIZINの公式HPより引用