2018年大晦日、突如RIZINのリングに降臨した”コーカサスの死神” トフィック・ムサエフ。
当時全くノーマークだったムサエフは衝撃的なKOで次々にRIZINトップファイターを撃破し、あっという間にRIZINライト級の頂点に君臨した。
巧みにスイッチし、相手の勘を狂わせるファイトスタイル。対戦相手の顔面に何の躊躇もなく、殺意を漲らせて叩きつけるパウンド。観ている者にさえ”死” を身近に感じさせる、ムサエフの鬼気迫るファイトは、多くの格闘ファンが魅了され、ベラトールに移籍した今でも彼を応援し続けている。
その強さだけではなく、試合とは対照的な、対戦相手をリスペクトし感謝する紳士な態度、このギャップの虜になっている者も多い。
彼がどのような経験を経てRIZINに登場し、そしてどのような功績を残してきたのか、今回は”コーカサスの死神” トフィック・ムサエフを丸裸にしていこう。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2019/12/31/eb10d516a348038218ba59730a86c40d4839c62b_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
トフィック・ムサエフのプロフィール
名前 : トフィック・ムサエフ
生年月日 : 1989年12月15日
出身地 : アゼルバイジャン
身長 : 178cm
体重 : 71Kg
戦績 : 19勝4敗(15KO 2SUB)
階級 : ライト級
所属 : チーム・アルファメール
獲得タイトル : RIZINライト級グランプリ優勝
入場曲 : Abu Ali 「My Love 」
バックボーン : 空手、テコンドー、レスリング、散打
公式 HP : ー
Twitter : @Tofiq__Musayev
Instagram : tofiq__musayev
Youtube ー
アパレル ー
ファンクラブ ー
RIZINのトーナメントを圧倒的な強さで制し、ベラトールでもあっという間に注目選手となっているトフィック・ムサエフ選手。彼の格闘人生を、まずは彼のRIZINデビュー前から見ていこう。
RIZINデビュー前
ムサエフのデビュー前については、非常に情報が少ない。1989年12月にアゼルバイジャンで生まれ、12歳の時に空手を始め、後にカンフー、テコンドー、散打も学んだ、という所までは明らかになっている。
23歳でMMAプロデビューし、キャリアの初期こそ勝ち負けを繰り返したが、その後は世界中を回り、圧倒的な強さで連勝を重ねる。2016年には中国で行われた散打の大会で優勝を果たし、翌年にはキックボクシングの試合でも勝利している。
そして驚くべきはその全てが、KO勝利、しかもほとんど1R以内での圧倒的勝利という点だ。
格闘技の大きな団体の無いアゼルバイジャンで生まれた、あまりに突出した才能が、より強い選手、より大きな舞台を求めて世界を彷徨い、辿り着いた舞台が、日本の、RIZINのリングだった。
RIZINのリングに”死神” 降臨
炸裂する死神の鉄槌
2015年から9連勝、全試合KO勝利のトフィック・ムサエフ。大きな大会の出場経験こそないが、その圧倒的な勝ち方から、注目選手として2018年大晦日のRIZIN.14 に迎えられた。
迎えるのは第7代修斗環太平洋ウェルター級王者、大尊伸光。
ムサエフは公開計量で、その見事に研ぎ澄まされたその肉体を披露し、関係者を感心させた。
一方大尊は、前年R-1優勝者、アキラ100%の芸を模倣し、大事な部分をお盆で隠し、尻を丸出しにして登場。周囲が苦笑する中、ムサエフは眉一つ動かさず、冷静に計量を終える。
2018年大晦日、ムサエフのRIZINのデビュー戦のゴングが鳴る。
1R、オーソドックススタイルで向き合う両者。踏み込むタイミングを伺いながらムサエフのバックキックを交わす大尊。ムサエフがフェイントを混ぜながら左フックやワンツーと徐々に距離を詰め、攻勢を強めていく。変則的にスイッチし、攻撃パターンを変えていくムサエフに翻弄され、大尊はなかなか手が出ない。
2R、引き続きムサエフは頻繁にスイッチして大尊のペースを崩していく。大尊が攻めあぐねている隙をついて、右ストレートからタックルの流れで大尊をコーナーまで押し込んでいく。さらにムサエフの圧力は増していき、再び右ストレートからタックルの流れで大尊を倒してパウンドから頭を連打。ハンマーのように降り下ろすムサエフの殺意の籠った鉄槌の連打が大尊の顔面を破壊。大尊がグッタリしたところでレフェリーがストップをかけ、ムサエフはRIZINデビューを衝撃のTKO勝利で飾った。
このあまりに無慈悲な鉄槌、殺意さえ感じるファイトスタイルから、ムサエフは”コーカサスの死神”と名付けられた。
この圧倒的な勝利を受け、2019年6月2日、RIZINでも大活躍しているダロン・グルックシャンクとの試合が組まれた。
ダロンはムサエフと同様に非常にアグレッシブなファイターで、パンチでのKOが多いムサエフに対し、キックでのKO率が高い。反面グラウンドの強い選手を苦手とする傾向があるため、バチバチの打撃戦が期待される。
試合前のインタビューでは「とても強い対戦相手で、彼と対戦出来る事を嬉しく思います」と、強敵と対戦出来る喜びを語り、「ダロンはスタンドでの戦いを得意としているが、僕も負けずにスタンドでの戦いを見せます」
と、真っ向からダロンと打ち合う姿勢を見せた。
試合が始まると、お互いステップを踏みながらフェイントを掛け合う展開。ムサエフは今回も左右のスイッチを繰り返しながらプレッシャーをかけていく。ダロンは飛び込んで右フックを狙っていくが、ムサエフはこれを見切る。前蹴り、ローで距離を測るムサエフ。互いの隙を探り合う緊張感のある時間が続き、1R終了。
2R、ムサエフの蹴りに合わせてダロンはバックブローを合わせる。ムサエフはコーナーに詰めてテイクダウンを狙うが、ダロンが堪える。
ムサエフが強烈なミドルキックをダロンに入れると、すぐにダロンも鋭い左のミドルを返す。ムサエフのキャリアでここまで強烈な攻撃を受けたのは初めてだったのだろう。ムサエフはダロンの攻撃に警戒を強め、ダロンも同じく様子を見る展開となって両者手数が減り、レフェリーより注意が与えられる。
ここからムサエフがやや距離を詰めてワンツーを出すようになると、良いパンチがダロンにヒットし始める。ダロンも負けずに飛び込んでフックを放つが、ムサエフの反応が速く、見切られる。
ラウンド後半、ダロンのミドルキックを取り、スクランブルからムサエフが上をとると、死神の鉄槌をダロンの顔面に、一発一発、殺意を込めて降り降ろす。ダロンは下から蹴り上げて逃げようとするが、ムサエフが凄まじい圧力をかけパウンドを落とし続ける。最後はサッカーボールキックを放ち、2R終了。
3R、ムサエフはダロンをコーナーに詰め、凄まじい速さで、ワンツーとキックのラッシュコンボを仕掛ける。スイッチを繰り返すムサエフの変則的な攻撃に対し、なかなか手が出ないダロン。ラウンド中盤でムサエフがタックルに行き、ダロンの背中をマットにつける。ダロンは何とか立ち上がるが、ムサエフは再びテイクダウン。ダロンの足に身体を挟まれながら鉄槌を落としていくが大きなダメージには繋がらない。残り10秒の合図を聞くと、ムサエフは、ダロンの息の根を止めるかの如く、がむしゃらに、全身全霊でパウンドを叩きつける。一発でも当たったら命が危ういほどの勢いだったが、ダロンは何とかクリーンヒットを避け、試合終了。
判定に持ち込まれたが、強烈なパウンドとテイクダウンが評価され、ムサエフが3-0で勝利した。
RIZINライト級頂点を目指して
RIZINのリングでも、観るものをゾクゾクさせる激しい戦いを見せ、勝ち続けるムサエフは、RIZINライト級最強を決めるトーナメントへの出場も勝ち取る。
準々決勝で拳を交える元UFC選手、ダミアンブラウンは、キックボクシング、空手をバックバーンに持ち、打撃を得意としながら、数多くの試合を一本で決めているオールラウンダー。RIZIN参戦以来2連勝で、しかもダロン・クルックシャンクや武田光司というRIZINライト級トップレベルのファイターを打ち破っているという強敵だ。
試合は2019年、10月12日に行われた。
1R、ムサエフは左右にステップしながら強烈な左ミドルを当てていく。ダミアンは前進してプレッシャーをかける。ムサエフのキックがローブローとなり、一時中断。再開後、ムサエフは足を使いながらスイッチして、的を絞らせない。ムサエフの左ミドルが何度かヒットすると、ダミアンの右肘と脇腹が赤く染まっていく。
ダミアンはパンチを出しながら距離を詰めていくが、ムサエフはパンチと左ミドルで応戦してダミアンを撥ね退ける。さらにローに見せかけたムサエフの強烈な左フックがヒットし、ダミアンは一時マットに倒れる。
ダミアンが立ち上がってからも、次々とフェイントを混ぜてのフックやローがヒットし、ダミアンのパーツを一つずつ破壊していく。
ムサエフがガードの上から左ハイをヒットさせるとダミアンはふらついて後退。さらにコーナーへ詰めると、ギアを上げて更に強烈なパンチの連打を叩きつける。ダミアンは組みついて逃れようとするが、ムサエフは直ぐにそれを撥ね退け、猛烈なラッシュ!ダミアンが崩れ落ちたところでレフェリーがストップし、試合終了。
ムサエフはリング上で雄たけびを挙げ、「アゼルバイジャン!!」と高々と母国へ向けて勝利を宣言した!
ダミアンは試合後インタビューで「結果が結果なので真摯に受け止めます。実は対戦相手が決まった時はおおっ!と思っていました。このトーナメントのダークホースは誰かと聞かれたらムサエフ選手と思っていたので」とムサエフの実力には早くから気づいており、素直にムサエフの強さを認めた。
ムサエフは「優勝に向けて確実に準備します」と、静かながらも虎視眈々と優勝を狙う姿勢を見せた。
この準々決勝の後、試合前にムサエフが予想した準々決勝、自身の試合を抜いた3試合の予想を全て的中させた事が、ネットで少し話題になった。
特にジョニー・ケースが、ボンサイ柔術最強の男、ホベルト・サトシ・ソウザに勝つと予想し、的中させたのは凄い。ホベルトがプロのキャリアで負けたのは、2022年9月現在、この一戦だけなのだから。
この観察眼と洞察力もムサエフの強みの一つと言っていいだろう。
元UFCファイターと“本物対決”
ムサエフは同年大晦日のRIZINライト級、準決勝に出場。
相手は、ホベルトを破ったジョニー・ケース。
試合前のインタビューでムサエフは、非常に好調だと語り「3Rまで行かないと思います。早めにフィニッシュします。どの様にフィニッシュするかは状況によります」と勝利を確信している様子だ。
一方、ケースは「ムサエフは非常に危ないキックボクサーだが、自分の持ち味を出してゲームプラン通りにすれば勝てる」ムサエフより上回っているところについては「頭脳面だと思う。自分は戦略的に戦い、試合を客観的に見ながら戦うことができて、トータル的に試合を進められる」と語り、優勝候補の筆頭と目されていることについては「当然です」と自信を漲らせた。
試合は1R序盤から両者の蹴りとパンチが激しく交錯する。蹴られたら、蹴り返し、殴られたら殴り返す、どちらも一瞬で試合をひっくり返す破壊力を持っているだけに緊迫した打ち合いが続く。
ジョニーの左ストレートに、ムサエフがその破壊的な拳をカウンターで叩きつけ、ジョニーはコーナーまで吹っ飛ぶ。
一気に決めようと飛び込むムサエフだが、なんとジョニーはそのムサエフを抱えてテイクダウン。一旦ピンチを逃れる。だが、スタンディングに戻ってすぐに、ムサエフのショートフックが効いてケースは再びコーナーに飛ばされる。今度こそ逃がさぬと、ムサエフが猛烈なラッシュ。
マットに転がったケースに死神の拳を4発叩きつけたところで試合は止められ、ムサエフがTKOで勝利し、このハイレベルの攻防と衝撃のTKOに会場は熱狂した。
入場シーンのジョニー・ケースの写真が格好良すぎ….RIZIN歴代最強イケメン。 https://t.co/c1s719imB6
— 笹原圭一 (@sasaharakeiichi) January 4, 2020
“死神” VS “狂犬”
トーナメント開始前、ほぼノーマークだったムサエフが、優勝候補大本命のジョニー・ケースを圧倒し、いよいよトーナメントの行方は分からなくなってきた。
決勝の相手はベラトールから送り込まれたパトリッキー・”ピットブル”・フレイレ。無冠ではあるが、長い下積みから力をつけて、いつベラトールライト級の王者になってもおかしくない、ハードストライカーだ。パトリッキーにとってはキャリア初のタイトル、ここは絶対に負けたくない。
だがムサエフにとっても、長い間大きな舞台を求め世界中を渡り歩き、ついに辿りついた大きなタイトルへのチャンス。ムサエフの覚悟も半端では無いだろう。
2人の豪傑が、互いとプライドと格闘人生をかけ、日本のリングで激突する。
一発で試合を終わらせる破壊力を持つ両者、やはり互いの攻撃を警戒して距離を取り合い相手の出方を伺う。1R後半から勝負は激しさを増す。ムサエフが左右の連打を畳みかけると、パトリッキーもその剛腕を振り回して応戦。互いにダメージを受けながらも一歩も引かずに打ち合う。
ラウンド終了間際、ムサエフがテイクダウンを取り、所かまわず強烈なパウンドを、恐ろしい回転の速さで打ちおろす。あわやKOかという所でゴング。
2Rも激しい攻防が続く中、ムサエフのテイクダウンを逃れようと、手押し車の状態で逃げたパトリッキーが、場外に落下するアクシデントが発生。それほど1Rでのパウンドの恐怖が脳裏に焼きついているのか。
数分試合が止められた後、試合は再開。
ラウンド中盤、ムサエフがテイクダウンを取り、立ち上がって逃げようとするパトリッキーを無理やり押し倒し、バックをとってあらゆる角度からパウンドを浴びせる。
ムサエフの攻撃は容赦なく続くが、ようやくパトリッキーが立ち上がったところでゴング。
最終ラウンド、序盤にムサエフが左右のストレート&フックで猛ラッシュを仕掛ける。
この連打にパトリッキーも後退せずに応戦。ラウンド中盤、ムサエフが前のめりになりながら捨て身の左右フックの連打。一発一発に殺意を込めて、一気に勝負を決めに行く。何発かいいパンチを当て、パトリッキーの分厚い身体を後退させる。パトリッキーが反撃しようと前に出たところで、スリップしてマットに倒れ、そこにムサエフがパウンドを連打。本気で命を奪いかねない、死神の鉄槌を息する暇も無く落とし続ける。パトリッキーは立ち上がってくるが、もう目立った攻撃をする余力は無く、試合終了。
結果、3-0の判定でムサエフが勝利した。
リング上でマイクを持ったムサエフは「アゼルバイジャンの大統領の誕生日であるこの日に、この勝利を我が国と国民に捧げる」そして「RIZINの関係者と日本のファンの皆さんにも心から感謝致します」と語り、観客席からは労いの拍手とエールが送られた。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2019/12/31/dd6be41942d3c14b71d52b9ff26d786b613ffc60_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
試合後のインタビューでは、「非常に強い選手でした」とパトリッキーの強さを認めた。そしてコーチから「みなさんにお伝えしたいのは、トフィックは手を骨折していましたがそれを隠して準決勝・決勝と試合をしました。この状態で勝つことが出来たのは、それだけ彼が頑張ったということです」と
ムサエフが怪我を押しての試合だったことを明らかにした。
だが、実はパトリッキーの方も準決勝で右手の甲を骨折しており、この試合は手負い同士の勝負だったことがわかった。
その状況でこれだけの死闘を演じるのだから、世界トップレベルと言うのが如何に恐ろしいのかが窺い知れる。
ここに来てムサエフは実力もキャリアも絶頂を迎えるが、その後1年半もの間、格闘技の世界から姿を消す。
母国の為に立ち上がるムサエフ
実はアゼルバイジャンはアルメニアとの間で紛争が絶えず起きており、祖国を愛するムサエフは自ら志願して兵役へと身を投じたのだ。
この時期を振り返ってムサエフは「私は軍隊に入隊し、戦場へ向かいました、まるで映画の様な惨状でしたが、すべて現実の出来事で、常に死と隣り合わせで、友人が次々と死んでいくのを見るという、とても辛い経験でした」
と、戦争の悲惨さを伝えている。
※画像URL:https://cdn.asianmma.com/wp-content/uploads/2021/06/Tofiq-Musaev-military.jpg(asianmma.comより引用)
その後、2020年11月にアゼルバイジャンとアルメニアが一時停戦。
大晦日のRIZIN26への参戦が期待されたが、コロナ影響、そしてアゼルバイジャンの軍隊がムサエフを手放したくないという事情も重なり、実現されなかった。
柔術の天才とライト級タイトルマッチへ
だが翌年初め、RIZIN28でホベルト・サトシ・ソウザとRIZINライト級のベルトをかけて対戦する事が決まると、既に世界にその名を轟かせていたムサエフの復活のニュースは、瞬く間に米国や故郷のアゼルバイジャン、その他の国々で報じられた。
迎えるは、ホベルト・サトシ・ソウザ。RIZINトーナメントでジョニー・ケースに敗れるも、更に実力をつけ、2戦連続、日本の強豪選手の矢地祐介、徳留一樹を1RでKO勝利。そのあまりの強さに、徳留が試合後に引退をほのめかした程だ。
試合前インタビューでは「長期間戦争に参加し、練習が出来ませんでしたが、去年11月には通常の練習に戻りました。今のコンディションはとても良いので、見応えのある、良い試合をしたいと思います」
と、久々の試合に静かに闘志を燃やしていた。
対するサトシは「柔術だけじゃなく、私はMMAの選手になりました。RIZINのベルトを日本に戻したいです。私はそれに一番集中しています」とコメントした。
記者から「自分がムサエフ選手に勝っている点はどこですか?」と質問が及ぶと、サトシは「彼は打撃が凄く強い。チャンスがあればグラウンドへ行きたいが、打撃が凄くてグラウンドが出来ないと思うので、打撃を良く練習しています。でも本当の私のプランは極め。下からでも上からでも、柔術の選手なのでどこでも良いです。極めたい」と、打撃で応戦しつつ極めを狙う作戦を明かした。
試合は2021年6月12日に行われた。
試合が始まると、ホベルトがいきなり足を取りに行き、振りほどこうとするムサエフに蜘蛛の様に絡みついてグラウンドに引き込む。「打撃の練習をしている」と打撃でも付き合うような事を匂わせてのこの展開。
ひょっとするとこの戦いは試合前会見から始まっていたのかもしれない。そうだとすると、本当にホベルト・サトシ・ソウザは恐ろしい選手だ。
ムサエフは何とかしてこのアリ地獄から抜け出そうともがく。
だがもがけばもがくほど隙を作り、アリ地獄の餌食となってしまう。ムサエフという一流ファイターも例外ではなく、一瞬の隙に首を両足で挟まれ、そのバネの様な足で首を締められ、1R1:12、ホベルトの三角締めによるTKOであっけなく試合は終了した。
7年ぶりの敗戦がよほど応えたのか、試合後のインタビューには応じず、ムサエフは失意の中帰国した。その際にツイッターに動画を挙げ、「自分が真のチャンピオンだということを証明するために、また戻ってきます。そして皆さんに勝利を届けたいと思います」と、次の対戦への意欲を日本のファンに伝えた。
そんな中、2022年1月、ムサエフのベラトールへの参戦が報じられた。
このニュースに合わせてムサエフは「日本のファンの皆さん、いつも親切に私の事を応援してくださりありがとうございます。今、私はBELLATORリーグのファイターですが、近い将来、日本で試合できるようになることを願っています。 また近いうちにお会いしましょう!」と、日本のファンに向けて、別れの挨拶の感謝の気持ちをツイート。多くのファンがこれを祝福し、ムサエフを快くベラトールへ送り出した。
ベラトールでも見せる、死神の鉄槌
4月にベラトールでのデビュー戦が行われる予定だったが、対戦相手のザック・ゼインが直前になって、理由不明で試合のキャンセルを発表(UFCやベラトールではこういう事が頻繁に起こる)。ムサエフのベラトールデビューは一旦白紙になる。
だが、チャンスは突然やってくる。7月22日のベラトール283に出場する予定だった選手が急遽怪我によって欠場したため、代替選手としてムサエフが選ばれたのだ。
しかもその負傷した選手というのが、RIZINでムサエフと激闘を演じたパトリッキー・”ピットブル”・フレイレだと言うのも不思議な縁だ。
パトリッキーの代替、本来はタイトルタイトル防衛戦の予定だったという事で、ムサエフはベラトールデビューにも関わらず、ベラトールライト級ランキング1位のシドニー・アウトローを迎える事になる。
シドニーは元ライト級王者のマイケル・チャンドラーにも勝利し、グラウンド能力が非常に高い実力者。試合前にムサエフは
「常に強い相手、有名なファイターと戦いたい」、そして「歴史を作りたい」と語り、「私は勝つためにやってきたのだ」と強敵に臆することなく堂々と答えた。
対戦相手のシドニーは「タイトル戦では無くなったので非常に落胆はしている。でも、いろいろあったが、運営が相手を用意してくれて、感謝している。とにかく戦える事が嬉しい」と、”アウトロー”という名前に似合わず非常に紳士的な態度で答えた。
試合が始まると、序盤からムサエフが全力で拳を振り回す。強烈な右フックがシドニーの顎を打ちぬくと、シドニーの足がスパゲティのようにぐにゃぐにゃと揺れる。それを見てムサエフは一気に勝負を決めに行く。追い打ちを懸けるようにショットガンの様な右フックを顔面に叩きつけると、シドニーは力なくマットの上に崩れ落ち、追撃するまでもなくレフェリーが試合をストップ。
What a vicious 27 second finish from @Tofiq__Musayev at #Bellator283 pic.twitter.com/Rs3ZppeBLa
— Scott Coker (@ScottCoker) July 23, 2022
タイトル挑戦予定だったランキング1位のファイターを、ベラトールデビューのファイターが秒殺KOという、衝撃のニュースは一瞬にして世界中を駆け巡った。
試合後インタビューでは、「僕のプラン通りでした。あなたが見た様に、私はノックアウトで試合を終わらせるつもりでした」「シドニーをリスペクトしていますし、戦ってくれて感謝しています」と真摯に応え、次戦では、快進撃を続けるヌルマゴメドフとの対戦はどうかと聞かれると、
「それは私のプランには無い。私はパトリッキーと再戦したい。私の故郷のアゼルバイジャンで戦えたら最高だね。パトリッキーはインタビューで私と再戦したいというような事を言っていた。是非やろうじゃないか」
とパトリッキーとの再戦への強い希望を表明した。
Tofiq Musayev calls for title shot with Patricky Freire after 27-second KO at Bellator 283
完全に”死神” にロックオンされたパトリッキー。ここまで言われて逃げるわけには行かないだろう。
ベラトール降り立った死神と、ベラトールの狂犬の対決が実現したら、MMA界隈は大いに沸き立つであろう。両者の試合を見ている日本のファンもこれには大いに注目するはずだ。
パトリッキーの弟、パトリシオもいつまたフェザー級からライト級にやってくるかわからない。まさにベラトールライト級は戦国時代。モンスター達の集まる地獄のような階級となった。
その地獄で笑うのは死神か、狂犬か、または新たなるダークホースか、ベラトールライト級戦線からも、”コーカサスの死神” トフィック・ムサエフからもまだまだ目が離せない。
トフィック・ムサエフの知りたいトコ!
トフィック・ムサエフは結婚している?子どもは?
ムサエフの妻と思われる人物は公には露出していないが、ムサエフの幼き娘と息子は何度もSNSに登場している事から、結婚している事は間違いないだろう。息子はムサエフそっくりで、一緒に居るときのムサエフの顔は、ファイターでは無く、愛に満ちた何処にでもいる一人のパパである。
#FathersDay photo ❤️ pic.twitter.com/X9hG6xbRd0
— Tofiq Musayev (@Tofiq__Musayev) June 21, 2022
❤️❤️❤️ pic.twitter.com/MAVFdHYsBw
— Tofiq Musayev (@Tofiq__Musayev) December 31, 2021
トフィック・ムサエフはダンスが得意!?
ツイッターにアップされていたとある動画。その動画では2人の男性がとんでもない足さばきでダンスを踊っている。その一人に見覚えがあると思いよく見ると・・・なんとムサエフではないか!
このダンスはペルシアンダンスと呼ばれているらしく、アゼルバイジャンの民族舞踊だそうだ。
こんな足さばきから生まれるミドルキックは、それは凄まじい破壊力だろう。ムサエフの強さの秘密は、こんな所にもあったのだ。
ムサエフ賞金未払い事件
2023年6月23日、アゼルバイジャンのネットニュースにアップされた、本人から証言を得たというニュースが、日本の格闘技界に激震を起こした。
その内容は、昨年のRIZINライト級GPの優勝賞金1500万円がムサエフに支払われず、3試合契約に口頭で同意したがそれを破棄し、オファーのあるUFC、Bellator、ONEへの参戦を検討しているというもの。
このニュースにはRIZINと深い関わりをもつ高田延彦も反応。
朝からトフィックムサエフの件。心底驚いた。嘘であってくれ。これが本当だったら俺は号泣する。命がけで闘う未来ピカピカのファイター、RIZINの王者だぜ。俺個人の人脈で事実を絶対に確認する!他の選手についても心配でたまらない。俺への数年分の未払いとは次元が超絶違うだろ。メシが喉を通らん。
— 髙田延彦 (@takada_nobuhiko) June 23, 2020
だがその後、ムサエフ自身が「最近、私と私の将来についての噂が増えてきました。誇張したものが大半を占めています。全額を受け取りましたので、今後のご協力をお願いします。第二の故郷にすぐに戻れることを願っています」と、記事の内容を否定し、一応この件は収束となった。
だが、その後もこの件に様々な憶測が飛び交い、Youtubeで意見を表明したり、ブログで考察するものが幾人もいたが、真相は闇の中だ。
まとめ
アゼルバイジャンで生まれ、空手、テコンドー、散打など、あらゆる打撃系の技を学び、プロデビュー。そしてより強い相手を求めて世界中を回っている中で辿り着いたRIZINのリング。この舞台で見事の大きな成果を残したムサエフはベラトールで更に大きなミラクルを引き起こした。
この男についているのは”死神” か”幸運の女神” か・・・じきにその答えが分かる日が来るだろう。
ムサエフについてるのが死神であろうが女神であろうが、彼のファイトが観るものを熱くさせ、試合が出来る事に感謝し、相手をリスペクトしつつも、全力で相手を破壊しに行くその姿勢に、私達は畏敬の念を抱かずにはいられない。
そんな、多くの人間に愛される”コーカサス死神” トフィック・ムサエフをこれからも皆さんと応援していきたい。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2019/10/12/eb4bf17ee3d6a03bfcf8c0e0ba54470f66619602_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
※アイキャッチはRIZINの公式HPより引用