―――――伊澤星花。2021年大晦日まで、この名前を知らなかったファンは多かったのではないだろうか。
この2021年大晦日というのはRIZIN.33が行われた日。伊澤星花がRIZINでデビューした日だ。当時24歳になったばかりの伊澤は、日本で最もメジャーなMMA興行にデビューした日に、当時RIZINスーパーアトム級王者の浜崎朱加を撃破した。
ちなみに浜崎朱加は対日本人戦において無敗の女王だった。より驚くべき事実は、この伊澤星花がプロMMA選手としてデビューしたのがこの日からたった1年前の、2020年10月31日だということ。
彗星のように、もとい、ビッグバンのように突如爆発したこの伊澤星花についてここから解剖していく。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2022/04/17/fc64547af22a9ebaa8cd24282592b6ee295313b2_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
名前 :伊澤星花
生年月日 :1997年11月1日(24歳)
出身地 :栃木県
身長 :160cm
体重 :49.0kg
戦績 :9戦 9勝 0敗
階級 :アトム級、ストロー級
所属 :フリー
獲得タイトル :DEEP JEWELSストロー級暫定王座(2021年)
第3代DEEP JEWELSストロー級王座(2022年)
第4代RIZIN女子スーパーアトム級王座(2022年)
入場曲 :夢(THE BLUE HEARTS)
バックボーン :柔道、レスリング
公式HP :なし
Twitter :@starflower2525
Instagram :starflower.1101
YouTube :伊澤星花と風我の姉弟ch
アパレル :なし
ファンクラブ :なし
超新星誕生まで
プロデビューまで
栃木県に生まれた伊澤は、幼少期から柔道とレスリングを習うアスリートの卵。試合後に泣きじゃくる今の姿からは想像がしにくいが、本人曰く、中学はいつも白紙でテストを出すような問題児。思ったことをすぐに口に出してしまう性格から、よく友達と喧嘩をするなどやんちゃな中学生だったようだ。一方でレスリングでは、全国中学校選手権を優勝するなどの実績を残しており、すでに努力家な一面を伺うことができる。
高校に進学すると、レスリングをやめて柔道に専念。中学時代、柔道とレスリングばかりで、勉強はそっちのけ。しかし、レスリングをやめて時間ができたことにより。高校ではオール5の成績を残す。柔道では高校2年生の時にインターハイ3位という実績を残すなど、まさに文武両道である。高校3年生の頃には、多くの柔道の強豪校から推薦があったが、教員免許が取れる東京の大学、ということで東京学芸大学に進学。
大学では、3年時に東京学生柔道優勝大会女子5人制で、大学史上初の優勝を達成するなど、中学高校大学と常に輝かしい実績を築き上げた。
そして、大学院に進学した2020年から、本格的にMMAの道へ進むことを決意。同年10月にプロデビューを果たすこととなる。それが、後に日本格闘技界にその名を轟かせることとなる、偉大なファイターの誕生の瞬間だった。
※画像URL:https://mygeneration-movie.jp/wp-content/uploads/2021/12/izawaseika-zyudo.jpg(マス・シアターより引用)
日本格闘技史上最短?プロ3戦でのタイトル獲得
2020年10月にプロデビューを果たすと、格上の選手を組みで圧倒。柔道とレスリングで培った力を発揮する結果となった。
一見すると伊澤は、非常に細く見えるが、力が非常に強く、無尽蔵なスタミナで相手に休む暇を与えずに攻め続けることができる。加えて、試合の展開が非常に早く。相手が、伊澤の仕掛けを対処した後、一息つく間もなく次々と打撃やタックルを繰り出すため、時間が進むとどんどん消耗してしまう。デビュー戦こそ、打撃が未熟な一面も見せたが、2戦目にはその打撃も急成長を遂げた。
その成長スピードの速さも伊澤の強みの一つと言えるだろう。その2戦目では、DEEPストロー級暫定王者の本野美樹とノンタイトルで対戦。組みだけでなく、打撃でも暫定王者を支配すると、わずか2戦目で暫定王者を破る金星をあげた。
そして次戦は、本野美樹と暫定王座をかけての再戦となった。これが伊澤の初めてのタイトルマッチとなるが、再び、伊澤の青天井のポテンシャルを見せつけた。
「打撃でも寝技でも圧倒する」
試合前に語った通り、開始早々打撃で仕掛けると、いとも簡単にテイクダウン。一度は立たれるものの、力強く再びテイクダウンを奪うと、そのままアームバーでリベンジに燃える本野を一蹴した。わずか3戦でのタイトル獲得ーーー おそらくこのスピードでベルトを獲得した選手は、日本にはいないのではないだろうか。
1戦目、2戦目、3戦目と、明らかに毎回レベルアップした姿を見せた伊澤だったが、4戦目に試練が待ち受ける。
その4戦目の相手はパク・シウ。後にRIZINでRENAから勝利する強豪ストライカーである。
この試合で伊澤は、素早いタックルでコントロールするも、打撃でパクに徐々に主導権を奪われる。最終的には、テイクダウンで試合を有利に進め、判定で勝利を手にするものの、2Rにはパンチで一瞬崩れる様子を見せるなど、大苦戦となった。試合後、伊澤にいつもの笑顔はなく、涙を流しながらの退場となった。
※画像URL:https://livedoor.blogimg.jp/ladygo1999/imgs/b/e/be76760e.jpg(ブログ “Lady Go!” より引用)
この悔しさが伊澤を更なる強さへ、次のステージへと成長させたのかもしれない。
RIZINでの戦い
王者、浜崎との2度の戦い
パク・シウという強豪を乗り越えた伊澤は、プロキャリア5戦目で、RIZINスーパーアトム級王者の浜崎朱加と対戦。
試合前の下馬評は圧倒的に浜崎。いくら超新星といえど、世界で戦いタイトルを勝ち取ってきた浜崎を相手にするのはまだ早い、というのが大筋の意見であった。
しかし、実際に試合が始まると、伊澤は互角以上の戦いを見せる。上を取られパウンドを浴びる場面もあったが、組みの展開で浜崎から有利を取り、「もしや…」という雰囲気の中、試合は第2Rを迎える。
第2Rに入ると早々に、伊澤が下になる展開。浜崎はトップキープに苦しみ、下からの蹴り上げなど、伊澤の素早い仕掛けに苦しみ、消耗している様子が垣間見える。そんな消耗が見える浜崎に対し、伊澤は仕掛けを止めない。浜崎の一瞬の隙をついて、三角で捉えると、パウンド、肘の嵐。なす術なく打撃を受け続ける浜崎に対して、レフィリーがストップを宣告した。
大金星をあげた伊澤は、タイトルをかけて、再び浜崎と対戦。
2戦目は、組みで圧倒する展開。ちなみに試合中、伊澤の圧倒的な組みの強さに対して、ネットでは「イザワエフ」という造語が生まれていた。これは、UFCなどで猛威を振るうタゲスタンの選手たちの名前が、「エフ」で終わることが多く、伊澤の組みの強さが、それほど強烈なインパクトを残したことを表している。
また、伊澤は、理想とする選手に関して、元UFCライト級王者のハビブ・ヌルマゴメドフの名前をあげている。「イザワエフ」はまさに、そうした伊澤の理想が、実際に試合で体現されているからこそ生まれたワードである。
3Rには、珍しく動きが落ちた伊澤に対して、3Rには浜崎がアームバーで捕らえかける場面もあったが、見事なエスケープで事なきを得る。その後はグラウンドで互角の展開を繰り広げるものの、1、2Rを圧倒した伊澤が判定で勝利を修め、見事RIZINスーパーアトム級王座を獲得した。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2022/04/17/ea6eb1c1f05d07eb44307c2f295067f802fac0eb_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
見事な勝利で浜崎を返り討ちにした伊澤だが、試合後のマイクでは大号泣。喜びや、安堵の涙に見えたが、その涙について試合後インタビューでこう語っている。
「3R目の途中で自分が下になっちゃった時に、ちょっと心が折れかけちゃって、それが悔しくて喋ってたら涙がこみ上げてきました。」
プロデビュー6戦目にして国内メジャータイトルを獲得する偉業を達成した直後の話である。伊澤が、どれほどストイックな選手であるかということが現れている。
RIZIN女子スーパーアトム級ワールドグランプリ参戦。
見事プロデビュー6戦目で、国内メジャータイトルを獲得した伊澤だが、更なる戦いの舞台として、RIZIN女子スーパーアトム級ワールドグランプリへの参戦が発表された。
対戦相手はブラジルの新鋭、ラーラ・フォントーラ。グレイシー柔術直径のブラジリアン柔術のスタイルで、決めの強さを武器とする強豪である。
試合が始まると、開始早々ラーラが伊澤を引き込む。柔術を武器とするラーラに三角締めで捕まった伊澤は苦しい体勢を強いられる。しかし、ここは焦らずに冷静に三角を外すと、持ち前のアグレッシブさ、素早い仕掛けで上を取り返す。そして、そのままギロチンで捕まえ、万力で締め上げるとラーラは力無くタップ。伊澤がまたもやRIZINに衝撃を与えた。
「MMAって人に魅せる競技だと思うので、そこでもう一つ上がっていきたいと自分は思います」
試合前の伊澤の言葉だ。まさに伊澤は、”魅せる”MMAを体現し、ラーラを切って落とした。
「5年後には世界一になってやめたいと思います」
現在、世界最高の舞台はUFCだ。伊澤は25歳。MMAは30前半〜中盤が最も成熟した年齢といえる。数々の日本人ファイターが打ち砕かれてきた、”世界一”という称号を本当に手にするのではないかと期待をしてしまうのは決して私だけではないはずだ。
デビューわずか3戦でタイトルを獲得し、6戦目でRIZINのベルトを獲得した伊澤には、日本は狭すぎるのかもしれない。これから世界で羽ばたく伊澤の姿が楽しみである。
伊澤星花の知りたいところ
婚約者はDEEPバンタム級チャンピオン!
伊澤は、現役総合格闘家でDEEPバンタム級暫定チャンピオンのCOROと交際していることを明言。ブログ「格闘家COROと伊澤星花の日常オフィシャルブログ」にて、その仲睦まじい様子を記している。
また同ブログ内で沖縄旅行中に婚約指輪をサプライズでもらったことを報告。直後に紛失して大号泣する騒動があったようだが、お互いに幸せそうで何より。なお、沖縄旅行中にもトレーニングの予定を組んでいるなど、徹底的にストイックである。
現役大学院生!文武両道のスーパーウーマン
伊澤は現在、現役の大学院生であり、東京学芸大学大学院教育学研究科に通っている。大学は東京学芸大学出身、高校は作新学院を卒業している。
2015年のTwitterにはオール5の成績をツイートしており、高校時代から勉強はかなりできた様子。
東京芸大に進学した理由としては「教員免許が取得できるから」である。伊澤には中学の頃に教員にという夢ができたそうだ。
「後5年で世界を奪ってやめる」と明言しており、世界最強という夢と、幼き頃からの夢を両方追いかけているのかもしれない。
まとめ
ここまで”超新星”伊澤星花について紹介してきたが、いかがだっただろうか。
柔道とレスリングで培った組みの強さと、落ちない運動量で、まさにあの「ハビブ・ヌルマゴメドフ」のように相手を支配していくスタイル。驚くべきはまだ、プロデビューからわずか2年しか経っていないということ。柔道やレスリングのバックボーンがあったとしても、投打極をこの短期間で王者になるまでの完成度に仕上げたことは、決して才能という言葉では片付けることができないだろう。
幼い頃から柔道、レスリングに向き合い、高校時代にはおそらく苦手意識があったであろう勉学にも励み素晴らしい成績を残し、旅行中にもトレーニングに励むこの姿勢。そしてベルトを獲得した直後にもかかわらず、自分の試合中の姿勢について、涙を流すこの努力の結晶が、今の伊澤を作り上げているということができるだろう。
今後はRIZINで大暴れし、さらには世界で大活躍する伊澤が、日本の格闘技ファンの新たな希望の星となることは間違いないだろう。
※アイキャッチはRIZINの公式HPより引用