「肌の黒さは、男の強さ」そう豪語する男が今、格闘技界で旋風を巻き起こしている。
その名も武田光司。”漆黒のヘラクレス” という異名を持つ武田の持ち味は、被弾を覚悟の上で泥臭く相手に立ち向かっていく戦闘スタイルだ。その勇敢な姿勢には、否応なく彼を応援したくなるような、不思議な魅力がある。
MMAのデビュー以降、破竹の勢いで快進撃を続ける武田を支えるのは、過去にレスリングエリートとして日本の頂点まで上り詰めた圧倒的な自信と実力だ。
今回の記事では、そんな武田の人生を紐解いていき、彼の格闘家としての原点に迫っていく。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2021/03/21/64e4bf6e3f68db3ffd0581a2df7891b0a9e0c6c4_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
まずはプロフィールから見ていこう。
武田光司のプロフィール
名前 : 武田光司
生年月日 : 1995年8月13日
出身地 : 埼玉県草加市
身長 : 170cm
体重 : 71.0kg
戦績 : 16戦 15勝(4KO) 4敗
階級 : ライト級
所属 : BRAVE
獲得タイトル : 第9代 DEEPライト級王座
入場曲 : Super Star
バックボーン : レスリング
公式HP : −
Twitter : 武田光司 koji takeda
Instagram : Koji Takeda 武田光司
YouTube : 武田光司チャンネル
アパレル : −
ファンクラブ : −
レスリングエリートからDEEP王者へ
恵まれた才能と地道な努力で、レスリングエリートに
埼玉県草加市で生まれた武田は、6歳からレスリングを始める。地道な練習を重ねていく中で、武田の才能は早々に頭角を表し、小学5年生の時には初めての全国大会優勝を果たす。
中学でも全国制覇を成し遂げ、その後は名門の埼玉栄高校に進学した武田。武田は、レスリングの世界では珍しく、グレコローマンスタイルとフリースタイルの両方の試合に出場していた。2つのスタイルで試合に出て勝ち抜く選手はそう多くはない。
高校時代の武田の実力は、同世代の選手の中でも群を抜いていた。JOC杯カデット、全国選抜、インターハイ、全国グレコローマン選手権、国体といった全国タイトルを総なめにし、なんと高校5冠を達成した。武田は、レスリングエリートとして将来が期待される有望な選手になった。
高校を卒業した後は、オリンピック出場を目指し、専修大学に進学する。しかし、そこで武田は挫折を味わうことになる。
レスラーとしての限界、そしてMMAへの憧れ
高校時代は自他ともに認める実力があった武田だが、大学入学以降、思うような結果が得られなくなる。徐々に同世代の選手に負けるようになり、全国タイトルからも遠ざかってしまう。「オリンピック出場なんて、夢のまた夢じゃないか」武田はレスラーとしての限界を感じ、打ちひしがれてしまう。
狂った歯車に、さらに拍車がかかる。武田は学業へも集中できなくなり、大学1年次には留年が決まる。レスリング特待生として入学していた武田は、それまで学費などの面で優遇されていたが、留年によりその特待制度が受けられなくなる。武田は、逃げ出すように大学を中退した。
やることもなく、自分の人生に希望を持てずにいた武田だったが、そんな時に、ふと目にしたUFCに心を奪われる。会場の大歓声の中、男2人が猛然と殴り合う光景。その光景を前に、眠っていた勝負師としての感情が再び燃え上がろうとしていた。
「俺もUFCで戦ってみたい。あんな戦いを一度でもいいからやってみたい」
そうして、MMAへの挑戦を決意した武田は、元レスリング五輪代表の宮田和幸が主宰している総合格闘技ジム・BRAVEの門を叩き、プロを目指すことになる。
いざ、プロデビューへ
武田は宮田のことを「先生」と慕い、1から格闘技の基礎を教わった。かつてレスリングエリートとして活躍した武田の成長スピードには、やはり他の選手と一線を画するものがあった。2017年にプロデビューを果たすと、豪快なスープレックスで相手を投げ倒し、気づけばDEEP参戦後、無敗の5連勝。ここまでなんと、デビューからわずか8ヶ月だ。武田は、驚異の新人として注目を集めるようになる。
2018年6月には、宮崎直人との対戦カードが決定。伝統派空手をバックボーンに持つ宮崎は、DEEPライト級トーナメントでの優勝経験もある実力派のファイターだ。22歳の無敗のレスリングエリート・武田と34歳のベテラン・宮崎の試合は、世代交代の懸かる一戦だった。
両者譲らない、凄まじい殴り合いが繰り広げられたが、結果的に武田が判定勝利を挙げる。勝利した武田は、DEEPライト級チャンピオン・北岡悟への挑戦権を得ることになる。
チャンピオンへの挑戦
2018年10月、その日を迎える。北岡とのタイトルマッチは、DEEPの枠を超えた、国内MMAでも必見の対戦カードとして注目を浴びた。
試合は終始、武田の優勢で進む。途中から、武田の放つパンチで北岡の顔面は流血で真っ赤に。最終ラウンドでも、このまま武田のペースで進むかと思われたが、突如、北岡のフックが武田にヒットする。もろに食らった武田はダウン寸前の状態に。危なかったことは事実だが、武田の心は最後まで冷静だった。ジャブから体勢を立て直し、再び攻撃をヒットさせ、そこで試合は終了。判定の結果は、5-0で武田の勝利。プロデビューからたったの1年2ヶ月、8戦全勝のまま、第9代DEEPライト級の頂点へ上り詰めた。
武田は試合後、本音を吐露した。「毎日怖くて眠れなくて、泣いたこともあった。だけど、応援してくれた方々、強く押してくれる人たちのおかげでベルトが取れた。まだまだ僕は強くなりたい」
DEEPを制した武田への期待値は次第に高まっていった。武田は次のステージに進むだろう。そんな周囲の予想と呼応するように、武田は戦いの舞台を日本最高峰の舞台、RIZINへと移すことになる。
RIZIN参戦後の戦い
怪我との戦い
着実に実力と実績を積み上げてきた武田は、2019年4月、ダミアン・ブラウン戦で遂にRIZINでのデビューを果たす。
誰もが待ちわびた、待望のデビューだったが、舞台裏では壮絶な苦しみがあった。武田は、試合の1週間前に椎間板ヘルニアを発症し、救急搬送されていたのだ。万全にはほど遠い状態だったが、ファンのためにも武田は試合に挑むことを決断する。しかし、終始ダミアンにペースを握られ、0-3の判定負け。武田はMMAの舞台で初めての敗北を経験した。試合直後に、武田は手術を受け、一定期間の休養を発表した。
2020年9月、武田はRIZINの舞台に戻ってきた。相手は、修斗世界ライト級王者の川名雄生。久しぶりのRIZINでの試合だったが、王者による一戦は、2-1の判定で武田に軍配が上がった。これがRIZINでの初勝利になった武田だが、試合後には「もっと練習をしなくては」と、喜び以上に反省を口にしていた。
パンクラス王者・久米との一戦へ
2021年3月、武田の次なる相手は、パンクラス王者の久米鷹介。お互いに団体の看板を背負っている王者であり、まさに日本のライト級の頂上決戦だった。
試合前、武田は「タフな試合になる。久米選手も組みが強いが、自分も組みに自信がある。ハードな試合になる」と久米の実力を認めつつ、激闘を予感させていた。
第1ラウンド、開始のゴングが鳴る。序盤から武田と久米は、フルスイングで打ち合い、さらには得意のテイクダウンを仕掛け合う。久米が左フックや右のローキックなど、多彩な攻撃を対角線に散らせば、武田も負けじと右ストレートで応じる。1ラウンド終了間際に、武田は久米をコーナーまで押し込みフロントスープレックスを放ったが、ここで終了のゴング。両者互角の展開だった。
第2ラウンド、武田は久米のタックルに狙いを定め、スープレックスを決めにいく。しかし上手く決まらない。お互いが、お互いの泥臭く戦うスタイルを全面に出し合う展開が続き、第2ラウンド終了。
最終の第3ラウンド。勝利を掴み取るために、武田が攻勢に出る。久米からテイクダウンを奪ってパウンドを放てば、さらにジャーマンスープレックス、顔面へのストンピングを決めるなど、攻撃の手を一切緩めない。久米も必死に応じ、両者は終盤には腕をあげるのが精一杯なほど、死力を尽くしていた。
決着は運命の判定へ。最終ラウンドで久米を圧倒した武田に、レフェリーの点数が集まった。3-0の武田の判定勝ちで試合は幕を閉じた。このとき、武田の目には涙が浮かんでいた。「負けてもいいから力を出し切ろうという思いでやって、こういう結果が出てうれしい」と心境を語った。
さらに強い相手を求めていた武田。次戦で武田の前に立ちはだかったのは、人気のあの選手だった。
いざ、RIZINのエース・矢地との勝負へ
2021年9月には、矢地祐介との対戦が決まった。矢地は、元修斗環太平洋フェザー級王者で、RIZIN参戦後は怒涛の5連勝を飾るなど、格闘技界でも屈指の人気選手だ。近年は、朝倉未来やホベルト・サトシ・ソウザらに敗れスランプに陥っていたが、再起のために練習環境を一新し、勢いを取り戻しつつある実力者だ。
試合前、武田は「矢地選手はライト級のエースとしてRIZINに居座っている。勝ってエースの座を奪いたい。ここで負けたら、積み上げたものが全部なくなってしまう、何がなんでも負けられない」と堂々と宣戦布告をした。実際、武田のコンディションは仕上がっており、自信があった。
1ラウンド、開始早々に矢地の放った飛びヒザが、武田にヒットする。武田もすぐに応戦し、フックを放ち、その後は組みの展開へ。武田はアームロックを決めにかかるが、矢地はなんとか抜け出し、立ち上がる。武田の組みに対して、矢地が徐々にヒザを合わせ始め、ここで1ラウンド終了のゴング。
2ラウンドも、果敢に前に出る武田。矢地をコーナーに押し込みヒザを放つ。矢地もヒザを返してくるが、これが武田にローブローとなり、試合は一旦ストップ。再開後、ローブローの影響があったのか、武田は矢地のペースに飲み込まれていく。矢地にテイクダウンを奪われ、腕十字を仕掛けられるが、ここは武田が体を回す必死のディフェンスで抜け出す。
最終3ラウンド、武田が得意の組みで押し込もうとするが、対する矢地はテイクダウンを許さない。矢地には多彩な攻撃の引き出しがあった。右ジャブと左ストレートをテンポ良く放ち、武田の反撃の糸口を摘んでいた。
結果は、0-3で武田の判定負け。武田にとって、日本人選手との戦いでの初黒星だった。試合後のインタビューでは「負けた、それだけです。今回は自分が駄目だったなという風に思っています」と、言葉少なげに会場を後にした。
再起へ。キックボクサー、ベイノアとの黒肌対決
矢地に敗れた武田は、悔しさをバネに、所属ジムの主宰・宮田の下で技術の見直しを図った。
そして2021年12月31日、大晦日のRIZINへの参戦が決定した。対戦相手は、キックボクシングの世界で実績を上げてきた、ブラックパンサー・ベイノア。ベイノアは、RISEのウェルター級の王者に輝いたこともあり、MMAの世界でもポテンシャルの高さが評価されている選手だった。
試合前、武田は「僕にとっては大晦日デビュー戦。新鮮な気持ちで良い緊張感を持っている。
足元すくわれないように僕のできること全部出して完勝してやろうと思います」と意気込みを語った。
1ラウンドが始まる。オーソドックスにかまえるベイノアに対して、武田は強引に組みを仕掛ける。ベイノアは対抗できず、武田がマウントを取ってパウンドを振るう。そして、バックポジションからの腕十字を狙いにいく。ベイノアはなんとか抜け出し、1ラウンドを終える。
2ラウンドも武田の攻撃のスタイルは変わらない。ベイノアに組みを仕掛け、抱え上げる。すぐさま地面に叩き落として、優位な体勢から攻撃を重ね、ベイノアの体力を奪う。ベイノアもスタンドの状態ではローやミドルで応戦し、組みの展開にはさせまいとするが、武田のテイクダウン能力はそれを上回る。最後は、武田が腕十字で肘を締め上げて、ベイノアがタップ。圧巻の2ラウンドの一本勝ちだった。
「この勝ち方をずっと狙っていた」と武田は試合後に語った。「宮田先生と話して、この試合では組みに徹するMMAをして、一本で勝つと決めていた。大みそかの締めくくりに勝てて良かった」と安堵の表情で勝利を噛み締めた。
「RIZINで来年も活躍していきたい」最後にそう語った武田は、2022年もさらに強く、そして、さらに黒くなって快進撃を続けるのだろうか。
元UFCファイターとの一戦へ
さらなる強敵を求めていた武田だったが、2022年4月には、スパイク・カーライルと対戦カードが決まった。カーライルは元UFC所属で、現在はベラトールと契約している世界レベルのファイターだ。試合前、武田はカーライルとの対戦に緊張を隠せないでいた。「格闘技を始めたきっかはUFC。憧れている部分、プレッシャーを感じる部分とそれを乗り越えたいなという気持ちがある」と語り、重圧を力に変えて戦う姿勢を強調した。
1ラウンドは、UFCの選手相手に、武田がどんな戦いを繰り広げるのかに注目が集まっていたが、武田はレスリングの動きでカーライルを完全に封じていた。バックポジションからのスープレックスで優位なポジショニングを取り、しつこく膝を放ち続ける。スタンドではカーライルの軸足にカーフキックを打ち込み、ダメージを与えていた。武田の優位で1ラウンドは終了。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2022/04/17/4af00617d48e58acc9951a91b03512ab471793bb_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
2ラウンドも武田のペースが続くかと思われたが、カーライルからローブローをもらった直後に流れが一変する。武田はテイクダウンを狙いタックルに入るが、カーライルがそれを狙っていたかのようにカウンターを合わせ、ギロチンチョークでとどめを刺しにかかる。武田は、なすすべもなく完全に意識を失ってしまった。あっけなく試合は終了し、武田にとっては初めての一本負けであった。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2022/04/17/4af00617d48e58acc9951a91b03512ab471793bb_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)
試合後のインタビューでは「ひとつのミスでしっかり仕留め切るっていうのが、相手がうまかった。僕のミスです」と語り、負けを認めていた。
とはいえ、やはりローブローから流れが変わってしまったことは不運だった。むしろ、世界トップクラスのファイターに1ラウンドで圧倒した武田の姿は、彼がさらに上の世界で戦う姿を想像させる光景だった。
レスリングを辞め、MMAの世界に参戦した時から、武田の目標は一度もブレていない。
「UFCに出たい」その強い信念を胸に、MMAの舞台で戦い続ける武田の今後の活躍に、大きな期待がかかる。
武田光司の知りたいトコ!
黒さの秘訣とは?
武田といえば、”漆黒のヘラクレス”の異名からも分かる通り、肌の黒さがトレードマークだ。多いときは、なんと週に3~4回も日焼けサロンに通っている。ちなみに、中学時代に日サロに通っていた部活の先輩を「かっこいい」と思い、憧れたことがきっかけだそう。
ファンからは、格闘技界の「松崎しげる」とも呼ばれている。
まとめ
武田は、高校時代に全国5冠を成し遂げるほどのレスリングエリートだった。レスリングでのオリンピック出場の夢は叶わなかったものの、その時にはすでに、MMAの最前線で戦うのに充分な心と体を身につけていた。
たったの1年2ヶ月でDEEPの王者に輝き、RIZINでも快進撃を続ける武田は、まだ発展途上の選手だ。その才能は、まだ上限を知らない。
「UFCの舞台に立ちたい」そう公言している武田は、また今日も強くなる。漆黒のヘラクレスに日本中が熱狂する日も、そう遠くはないかもしれない。
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2022/07/31/953b21c3cc074c7f92dbdd14852a33a13f8be3a9.jpg(RIZIN公式HPより引用)
※アイキャッチはRIZINの公式HPより引用