不屈の闘志、強さ、ひたむきさ、人間性、全てを兼ね備えていると言ってもいい“UFC帰りの黒コブラ”ことストラッサー起一。
彼の格闘人生は波乱に満ち、決して栄光のチャンピオンロードを歩いているとは言い難いが、そのキャラクターやファイトスタイル、そして今も大きな夢を描いて挑戦し続けるその姿は多くの人々に支持され、RIZINでも人気選手の一人となっている。
そのニックネームからも分かるように、彼は世界最高峰の格闘技団体UFCで活躍した選手の一人でもある。一体彼はどのようにしてUFCに参戦し、そしてどんな経緯でRIZINのリングに上がったのか、今回はストラッサー起一を丸裸にしていこう。
ストラッサー起一のプロフィール
名前 : 国本 起一
生年月日 : 1980年5月1日
出身地 : 大阪 西成
身長 : 178cm
体重 : 77Kg
戦績 : 20勝9敗(2KO 10SUB)
階級 : ウェルタ―級
所属 : 総合格闘技道場コブラ会
獲得タイトル : 元HEAT総合ルール ウェルター級王者。
入場曲 : KIRA & 下拓「愛すべき者たちの為に」
バックボーン : ブラジリアン柔術
公式 HP : ー
Twitter : @StrasserKiichi
Instagram : kiichi_kunimoto
Youtube ストラッサー起一 [すとちゃんねる]
アパレル ー
ファンクラブ ー
今年で42歳になったストラッサーだが、未だ衰えを全く感じず、さらに円熟味を増しているように感じる。一体ストラッサーがどうやってここまで強くなったのか、ここからは彼のプロデビュー前にまで遡って彼の格闘人生を見ていこう。
スケーターからプロ格闘家へ
西成で逞しく育つ
1981年5月1日、ストラッサー起一は大阪の西成区で生まれる。ご存じの方も多いと思うが、西成は日本の中で治安が悪いと言う印象をもたれている事が多いが、当時は暴動が起きたり、当たり屋が居たりとかなりカオスな状況だったようだ。今では治安も当時に比べて良くなっている様だが、ストラッサーは今でもこの街の周辺を車で走る際は徐行運転になるそうだ。(笑)
そんな環境の中でたくましく育っていったストラッサーは身体を動かすことが好きで、様々なスポーツに親しんでいたという。中学までは野球に打ち込んだが、その後スケートボードに夢中になり、16歳から23歳までの7年間、プロのスケーターとして活躍する。
今でもスケートは時々やっていて、なかなかの腕らしい。
https://twitter.com/StrasserKiichi/status/1507984700765220868?s=20&t=9tYJ3P4y784ldM85iGjJlw
スケーターを引退した後、父の始めた事業を手伝い、実業家としても活動していたストラッサーだったが、そんな日々の中で、当時隆盛を極めていたPRIDEの試合を見て大きな感銘を受ける。
そして、体の強さには昔から自信があり、力比べや相撲などは同級生に負けたことがなかった事から
「これなら自分にも出来るかもしれない」と考え、総合格闘家を目指すようになる。
遅いスタート
通常24歳という年齢は、格闘技をスタートするには遅すぎるように感じるが、そんな常識をあっさり覆し、ストラッサーは格闘技を始めてからわずか1年半後の2007年2月4日、パンクラスのリングに国本起一の名でプロデビューを果たす。
だが、さすがにこの世界はそこまで甘いものではなく、ストラッサーはデビュー戦で鳥生(とりゅう)将大を相手に判定負けを喫した。しかし、鳥生もその後、キング・オブ・パンクラスに挑戦していることと、ストラッサーより1年以上前にデビューしていたことから、格闘技歴わずか1年半でこの強敵相手に判定まで持ち込んだだけでも、大健闘と言っていいだろう。
格闘技の厳しさを身にしみて感じたストラッサーは、なんと同年、本格的なMMAの技術を学ぶために単身渡米。この異常とも言える行動力の高さも彼の強さを支える特性だろう。
アメリカで本格的なトレーニングを続ける傍ら、ローカルの格闘技団体で2戦し、どちらも一本勝利で2勝を挙げる。
帰国してからは、アメリカのジムで世話になったデイブ・ストラッサーの名にちなんで、ストラッサー起一に改名。パンクラスを主戦場にコンスタントに試合を行いながら、その技を磨いていく。
2009年に入るといよいよそのフィジカルと技は一流の域に達し、KOでも一本でも決める決定力と、長期戦でもバテない驚異のスタミナを武器に、7戦5勝2分と、2年間無敗で勝利を重ねていく。
その勝ち星の中には元ウェルター級キング・オブ・パンクラスのURAKENという強豪相手との試合も含まれている。
プロのリングで活躍する中で、その黒光りした肉体と柔和な性格から“優しい黒コブラ”と呼ばれるようになる。
タイトル挑戦、そして振り出しへ
破竹の勢いで勝ち続けるストラッサーについにタイトル挑戦のチャンスがやってきた。
迎えるのは柔道、相撲をバックボーンに持ち、非常に強いフィジカルを持つ佐藤豪則(たけのり)。
佐藤は、2009年中盤から一年間、スランプに陥っていたが、トンネルを抜けてからそのポテンシャルが覚醒して、一気にキング・オブ・パンクラスに輝き、防衛も果たしている。
2012年3月11日に行われた試合は、非常に拮抗した激戦となったが、フィジカルの強い佐藤に何度かテイクダウンを奪われたことが響き、判定0-3の判定でストラッサーが敗れ、初の王座獲得とはならなかった。
実はストラッサーはこの試合をステップにUFCへの挑戦を目指していたのだが、この敗北により「振り出しに戻った」と語り、態勢を立て直すために、主戦場をHEATに移す。順調に2連勝し、3戦目で早くもタイトルに挑戦。対する石川史俊(ふみとし)を激戦の末に5R1:59肩固めで仕留め、初めてのタイトルを手にする。
だが、UFCからみればHEATも数あるローカル団体の一つに過ぎない。UFCに強いアピールをするためには、元UFCの選手に勝たなければならないと考えたストラッサーは「次の防衛戦の相手に元UFCファイターを用意してくれ。絶対、勝つから」と、HEATの運営に懇願する。
ストラッサーの強い思いに動かされ、運営は次の防衛戦の相手に元UFCファイター、エドワード・ファーロロットを用意した。ストラッサーは見事にファーロロットから1R1:55腕ひしぎ十字で1本を取って防衛に成功。
「これで負けたらまた振り出しに戻る」という強いプレッシャーがあったと後に語っているが、その重圧を見事に撥ね退けての勝利だった。
UFCにアピール出来るだけの実績も作り、そして山本KIDや堀口恭司のマネジメントをしていた敏腕マネージャーの石井史彦の尽力もあり、ついにUFCとの契約が正式に決定する。
ランニング中にこの吉報を電話で受けたストラッサーは一目もはばからずにその場に泣き崩れたと言う。
UFCデビュー
2014年1月4日、ストラッサーはついに、夢のオクタゴンのキャンバスに降り立つ。
デビュー戦の相手はルイス・ドゥトラ。数多くの団体で勝利を重ね、当時14戦して、敗北はたったの2回。さらにKOでも一本でも決める力のあるオールオールラウンダーである。
試合は意外な結末を迎えた。ドゥトラの強烈なフックを掻い潜って、果敢にタックルに行くストラッサーだったが、そのストラッサーの後頭部にドゥトラが肘を激しく4,5発と叩きつけたのだ。後頭部への肘は反則となっており、一旦試合は止められた。だが、ストラッサーのダメージが大きく、試合は続行不能と判断されたために、ドゥトラの反則負けという事で、ストラッサーとしては釈然としない中でのデビュー戦勝利となった。
大躍進
オクタゴンの中で真価を見せたいストラッサー。次戦ではブラジリアン柔術の達人、ダニエル・サラフィアンを迎える。サラフィアンは当時挙げていた8つの勝ち星中、何と7勝を一本で極めている、ホンモノの柔術家である。しかもミドル級からウェルタ―に階級を落としてくるという事で、フィジカルの強さ、圧力も当然これまでとはレベルが違うだろう。かつて佐藤豪則にグラウンドで苦戦を強いられたストラッサーに勝ち目はあるのか。
ストラッサーはこの試合に向けて、東京に出稽古に向かい、UFCで大成功を収めている“サンダー” こと岡見勇信の元でトレーニングを積む。今できる事に全力で打ち込み、準備してきたストラッサーは試合前にこう語る。
「向こうもボクの夢を奪いに来ると思いますけど、ボクは自分の夢を絶対に潰したくないんで、彼の夢を奪いにいきますから。裏街道という言い方は違うかもしれないですけど、雑草魂でここまでやってきたんで。真実は一つで、強いものは強い。そしてボクは自分を強いと思ってるんで。それをホンマに証明するだけですね」
このコメントから、もう余計な言葉は不要、後はオクタゴンの中で魅せる。という彼の意志が伝わってくる。
このトレーニングが実を結び、試合では柔術の達人、サラフィアンとグラウンドで互角以上に渡り合い、サラフィアンの身体を上手くコントロールしてバックを取る。足を絡ませサラフィアンの身体を固定すると、渾身の力を込めて後ろからサラフィアンの首を締め上げる。
完全に極まったリアネイキドチョークに柔術の達人も堪らずタップ。あまりにも鮮やかな一本勝ちに観客は大興奮。ストラッサーはこの試合でパフォーマンス・オブ・ザ・ナイトを獲得した。
ストラッサーは試合後「自分は自分のことを信じて、今までやってきたので。日本の次世代は僕やと思っているので、次の9月の日本大会、僕を使ってください」と力強くUFCにアピール。ストラッサーの熱い試合に魅せられたUFC側もこれを承諾し、2014年9月、なんとUFC大会日本開催でのストラッサーの凱旋試合が実現する。
前試合での高いパフォーマンスを受けて、当然相手のレベルも上がってくる。今回は5連勝という破竹の勢いでUFCに参戦し、デビュー戦も勝利したリチャード・ウォルシュを迎える。ウォルシュはブラジリアン柔術黒帯を持ちながら、勝ち星の多くはKOで勝ち取っていると言うハードストライカーだ。
この選手の印象をストラッサーは
「リチャード・ウォルシュはプレッシャーを掛けてくる選手ですね。打撃でプレッシャーを掛けて、組みたいんでしょうね。基本的に自分がやってきたことをやることです。ただ、今回はプレッシャーを掛ける、掛けられるというところでの勝負になってくると思うので。打撃で相手をコントロールして、そのなかでテイクダウンを交えながら、一本を極めたいです。自信は勿論あります」と語り、強敵相手にも勝算が充分にある事をアピール。そして、
「結果を出せないと格闘技を続けられないので、結果を出したいです。僕ら格闘家は内容も問われるんですけど、結局結果は白か黒なんで。しっかりと白がついてきているので、今回の試合でも結果を出したいです」と前回同様、シンプルな言葉で男らしく締めくくった。
2014年9月20日、さいたまアリーナで試合は行われた。
お互いに距離を取る展開から距離を詰めたウォルシュの強烈な右フックでストラッサーがダウン。すぐさま立ち上がったものの、ウォルシュが一気にラッシュを畳みかける。予想通りの激しいウォルシュの打撃により、鼻から出血するストラッサー。
2R、ウォルシュがジャブでプレッシャーをかけて、ケージを背負うストラッサーに連打を打ち込む。何とかグラウンドに持ち込みたいストラッサーだが、柔術黒帯を持つウォルシュはテイクダウンディフェンスもかなり高く、簡単には倒せない。このラウンドもストラッサーはウォルシュの激しいプレッシャーに苦戦する。
3R、だがここからストラッサーは息を吹き返す。ウォルシュのタックルを突き放して左右のフックからダブルレッグ、ケージまで押し込んでボディにヒザ蹴りを突き刺す。
さらに前に出るストラッサーがウォルシュをケージに押し込み、スタンドでは、フック、ロー、ジャブと攻めるウォルシュに対し、ストラッサーはタックルを合わせてついにテイクダウンし、立ち上がろうとするウォルシュのバックにつく。
しつこくストラッサ―がリアネイキッドチョークを狙い、後ろから攻め立てていく中で試合は終了。非常に難しい判定となったが、スプリット判定でストラッサーに軍配が上がった。
大きな試練
いよいよ、ストラッサーの名がUFC内でも囁かれるようになり、次戦ではUFCに参戦後、物凄いペースで試合を重ね、デビューから一年の間に怒涛の5連勝。あっという間にUFC年間最多勝記録を持つロジャー・ウエルタに並んだニール・マグニーだ。マグニーはフルラウンドを戦って勝利する事も多いタフガイで、同じようにフルラウンド戦って相手が疲れたところで優勢に立っていくタイプのストラッサーとってやりにくい相手だ。
快進撃を続けるマグニーの勢いは凄まじかった。飛距離のあるパンチでストラッサーを金網の端まで追い込み、飛び膝を叩きつけ、組みつかれても積極的に打撃でプレッシャーをかける。常に打撃で圧倒するマグニー。試合を通してストラッサーが優位に立ったのは、テイクダウンに成功しトップポジションを取った1分だけだった。
3R序盤、膝蹴りでスリップしたマグニーにグラウンド勝負を持ち込むが、逆にバックマウントを取られ、自身がサラフィアンにやったように、リアネイキドチョークを極められ無念のタップ。UFC初黒星となり、ストラッサーの連勝は7で止められた。
その後、ストラッサーにとって更に大きな試練がやってくる。2015年8月、リー・ジンチャンとの試合の為に調整していたストラッサーが練習中にマットでスリップし、かねてから痛めていた膝に前十時靭帯と半月板の損傷という、大怪我を負ってしまう。
ファンからはこの後の進退も危ぶまれたが、ストラッサーは自身のブログで次のように述べた。ブログ記事は、こちらから→「試合欠場のお知らせ」
“前十時靭帯からの復活してる選手は沢山いてます。
だから僕も絶対に復活できると思ってます!
今は前向きに考えています。
諦めたらそこで終わり!!!
自分の可能性は一番自分が分かってます!
僕は絶対にUFCで成し遂げます!”
ストラッサーは、大怪我を負ったものの前向きな声明を出してファンを安心させた。
だが、35歳という年齢でのこの大怪我。そう簡単に完治というわけには行かず、次のオクタゴン復帰まで実に2年5ヵ月もの期間を要した。
もちろんストラッサーはその間ただ怪我の回復を待っていただけではない。常に格闘技と向き合い、出来る事は全てやってきた。2017年6月10日、ザック・オットーを相手に復帰戦が決まり、久々の試合への意気込みをストラッサーはこう語る。
「2年半ぶりくらいの試合になる訳ですが、怪我をしてその間に培った強さを次の試合で魅せつけたいと思います。対戦相手のアウベス選手は、アグレッシブで前に出て来る選手なので、シッカリ潰して自分発信の試合をして一本、KOで勝ちたいです。ファンの皆さんへ。久々の試合になります。今まで表舞台からは遠ざかっていましたが、復帰戦は必ず勝利して、世界に『ストラッサー起一ここにあり』を魅せつけたいと思います。応援どうぞ宜しくお願い致します」と、晴れやかな顔で語った。
対戦相手のオットーは、全力でフックを振り回してプレッシャーをかけていき、相手に隙を作らせて一本を取ると言う、非常に厄介な選手だ。
試合序盤はオットーのヘビーショットを被弾しながらも、ストラッサーがテイクダウンを狙いに行くが、さすがにブラジリアン柔術黒帯のオットーは簡単には転んではくれない。2Rで初めてテイクダウンを取るが、激しいトップの取り合い、主導権の奪い合いの中で最終ラウンドへ。ややオットーが優勢な印象がある中、ストラッサーは気合いを入れ直し、ブザーがなって間もなく捨て身の勢いでシングルレッグからのテイクダウン。パウンドを決めながら徐々にポジションを移動し、ラウンド後半にバックマウントを完成させ、会場が歓声に包まれる。
千載一遇のチャンスだったが、ストラッサーの決死の攻撃の際に出来た隙をついてスウィープされ、立ち上がる事を許してしまう。まもなくブザーが鳴り試合は終了。やはり長いブランクを挟み、勘を取り戻すのが遅れたか、後半に調子を取り戻したものの、1-2のスプリット判定で復帰戦を勝利で飾る事は叶わなかった。
決して悪い試合内容では無かったが、日本でのUFC市場の低迷もあり、日本人をUFCに参戦させるメリットが薄いとして、ストラッサーはこの試合を最後にリリースされてしまう。
RIZINデビュー
因縁の対決
リリースはされたものの、UFCでしっかりと爪痕を残し、長いブランクから復帰してもこれだけの動きが出来るストラッサーをRIZINが放っておくわけがない。
帰国したストラッサーにすぐにRIZINからオファーが飛び込み、2017年年末の大イベントで、“UFC帰りの黒コブラ” としての電撃デビューが決まった。
迎えるのはRIZINデビュー戦でダロン・グルックシャンクから一本を取り、次戦でも負けはしたが“お祭り男” 矢地祐介と好勝負を繰り広げた北岡悟。実は北岡は、ストラッサーがUFCに挑戦する際にSNSで批判的なコメントをアップしていたらしく、両者の間にはまだその因縁がくすぶっていた。
試合前会見のフェイスオフで、向かい合った両者は互いに殺意の籠った目で相手をにらみつける。ボソボソと小声で何かを言い合い、まさに緊迫した空気だったが、なんとか何事もなく会見を終えた。
試合直前に意気込みを聞かれると「特にない。観ろ、試合を」と殺気を放ちながらリングに向かう北岡悟。一方、対戦相手のストラッサーストラッサーはリラックスしつつも「今日はバッチリやったります」と気力は充実していた。
試合が始まる。過去の因縁をふり払うようにストラッサーが積極的に前に出て行く。北岡戦の4か月前に新しいボクシングコーチと出会い、打撃が大きく進化したと言うストラッサー。確かにパンチのキレ、正確さともに以前よりグレードアップしている。
かなりいいパンチが北岡にヒットしているはずだが、北岡は構わずに前に出て打ち返す。2R、互いの意地をかけたどつき合いの中、ストラッサーの鋭く伸びた右ストレートが北岡の顔面を貫き、ダウンした北岡に全体中をかけた強烈なパウンドを浴びせ、確実にダメージを与えていく。ストラッサーが試合のペースを握る中で、北岡も足関節やギロチンで一発逆転を狙ったが決定的な場面は訪れず試合は判定へ。
全体的にペースを握り続けたストラッサーが3-0で勝利した。
試合後にマイクを取ると、「会場の皆さん、ストラッサーと申します。本日はありがとうございました。そして北岡選手、今回75キロという契約体重で受けていただいて感謝していますし、あの人は本当の男だと思います。ありがとうございました。そして榊原さん、今回はKOできませんでしたが、五味選手と矢地選手の勝者と72キロで戦わせてください。絶対に期待に応えるんでお願いします」と、北岡へのリスペクトも示し、試合前の因縁が演出だったことをインタビューでも明かした。
北岡の口からも
「向こうは試合後『失礼いたしました』みたいなことを言ってくれたんですけど、勝ったのは彼なので、ボクは、『謝ることはないですよ』っていう感じでした」とストラッサーの様子が語られており、因縁はキレイに解消されているようだ。
RIZINデビューそしてUFCからの凱旋試合で熱いファイトを演じ、見事に勝利したストラッサーは、2018年8月にもRIZINに出場し、住村竜市朗を相手に1R終了間際に肩固めで一本勝利している。
だが、群雄割拠のライト級やバンタム級と違い、RIZINウェルター級は選手層が薄く、ストラッサーと対戦する相手がなかなか見つからない。結局期待していた大晦日のイベントへの出場オファーはなく、悶々とした気持ちの中で、再びストラッサーの中に世界挑戦の想いが蘇ってくる。
再び世界へ
世界挑戦への想いは日に日に大きくなり、ついにストラッサーは年明け、ベラトールとの交渉を始める。帰国後の好成績もあり、見事に契約を勝ち取り、2019年7月12日、ストラッサーのベラトールデビューが決定した。
まもなく40歳を迎えようとするストラッサーだったが、ベラトールでの目標について聞かれると
「もちろんチャンピオンです」ときっぱり答え、さらに
「キャリアの集大成ですし、素晴らしい舞台だと思います。もう気持ちも入って、日々の過ごし方、見え方が変わりました」と、この大舞台で自分の全てを見せる決意を明かした。
ストラッサーはベラトールデビュー戦で、超一流のレスリング力とパワーを持つエド・ルースを迎える。
ルースはベラトールに参戦してから7戦6勝5KOと圧倒的な強さとKO率を誇っている。寝技はもちろんの事、打撃戦もめっぽう強いという、弱点の見えない強敵に、ストラッサーはどんな試合を見せるのか。
1Rからストラッサーはルースの圧倒的なパワーを前に苦戦を強いられる。パンチで勝負したいストラッサーだが、金網に押し付けられ、ダブルレッグでテイクダウンを奪われ、自分のスタイルを出すことが出来ない。パウンドを受けながらも立ち上がり、クリンチ状態から離れ、ストラッサー得意の打撃戦の展開になるが、スイッチしてタイミングをずらしてからルースが放った右のオーバーハンドをモロに喰らってダウン。さらに上からプレッシャーをかけられ続けた所でゴング。
2Rでは、互いの拳が激しく交錯するが、ルースの長く鋭いジャブが何度もストラッサーの顔面を捉え、ペースを奪われていく。ラウンド後半、流れを変えようとタックルにトライするストラッサーにタイミングよくルースの左の蹴りがヒット。キャンバスに崩れていくストラッサーに激しいパウンドを加え、ストラッサーが何も出来なくなったところで試合はストップ。ストラッサーの人生をかけた大舞台で、まさかのTKO負けを喫してしまった。
この試合の敗因を後にストラッサーは語る
「これは今さら、こんなことをいうと言い訳になってしまうのですが、集中できていなかったです。入場のときもフワフワしてしまって。ケージにはいると、自分が倒れているシーンが浮かんできてしまって……。そんなことが頭を過ったところで試合が始まったんす、その時点から慌ててしまって自分が積んできた動きができずに、すぐにスタミナもなくなってしまいました。もちろん相手の強さもあるのですが、慌てて試合をしてしまっていることは自分でも感じながら戦っていたんです。で、1Rが終わった時点で物凄くガス欠してしまって……。そんな状態では絶対に勝てないという試合をしてしまいました」
と、かなり悔いの残る試合内容だったようだ。
失意の底へ
次戦、ネイマン・グレイシーと対戦する予定だったが、約1週間前にグレイシー側から突然試合をキャンセル。急遽代役のジェイソン・ジャクソンとの試合が組まれる。
当時無敗で連勝を続けてきたネイマンに対して、綿密な柔術対策をしてきたストラッサーにとっては寝耳に水だ。
これに関しては
「エド・ルース戦がああいう結果に終わったので、反省点を踏まえて精神状態も良く、グレイシー狩りしてやろうと思っていたんですけどね。ネイマンとの試合が飛んだことで、一瞬へこみました。でも、気持ちをすぐに切り替えることができたので、ジャクソンを倒すだけです」
と気持ちを切り替えて、試合に臨んだ。
試合は打撃が得意なジャクソンがグイグイ距離を詰め長いリーチでストラッサーを初回にノックダウン。ジャクソンのパワーと圧力に終始圧倒される。途中で関節を狙ったり、バックを取ったりと良い部分もあったが、試合終了前にはストラッサーの起死回生を狙う飛び膝を掴まれ、キャンバスに投げられてしまい、最後まで突破口を掴むことは出来なかった。試合は0-3の判定でジャクソンの勝利。痛恨のベラトールデビュー2連敗となってしまった。
この敗戦がよほどこたえたのか、しばらくの間、ストラッサーはリングからも、ケージからも姿を消した。だが、時々トレーニングをする姿をSNSにアップしており、決して闘志が消え去ったわけでは無いようだった。
帰って来た黒コブラ
それから約2年後、長い沈黙を破り、RIZIN TRIGGER 1st の出場者のリストにストラッサーの名前が載った。古くからのファンの多くはこの復活を待ち望んで居た事だろう。
対戦相手は11歳年下の川中孝浩。DEEPやBREVEなど、様々な団体を渡り歩き、手塚基伸やレッツ豪太などの実力者を破って来た勢いのある選手だ。
ストラッサーは久々の試合へ向けて気合が入っていて
「今回に関しては徹底的に潰しに入ろうと思っているので、気を抜くつもりはなく全力で潰しに行こうと思っています。あと自分も15-6年のキャリアで今が一番強いので、プロとしての試合を皆さんに見せたいと思います!」と、これまで以上にアグレッシブな闘志を見せた。
この闘志は試合でも発揮される。
2021年11月28日に試合は行われた。ゴングが鳴ると勢いよく前に出て、ミドルキックや右フックを決めていくストラッサー。川中も負けじと組みつくが、交互にテイクダウンを取り合う激しい展開。
ラウンド後半、頭に血が上ったか、川中が一発でも当たれば頭が吹っ飛びそうな大振りのフックを振り回しながら前に出る。ストラッサーはこの拳筋をしっかりと読み、強烈な右カウンター。川中は膝から崩れ落ちるがなんとか持ちこたえる。ストラッサーはここに猛烈なラッシュを畳みかけ、右のヘビーショットで77Kgの川中の身体をマットに叩きつける。追撃する素振りを見せながら、一瞬の隙にすかさず肩固めを仕掛け、これが完全に極まって川中は勢いよくタップ。2年の沈黙の間に更にスケールアップした姿を多くの観衆に披露し、そして初めてのファンにも、「日本にはこんなに強いやつがいるんだ」という事をアピールした。
試合後にマイクを取ると
「榊原さん、また近いうち僕の戦う場所を用意してください。(娘に)パパ勝ったぞー!」と、勝利の喜びを露わにし、まさにこの試合を”TRIGGER”として、更なる大舞台に出ようと言う意気込みも感じられた。
ストラッサーの波乱の格闘人生、そして華々しい復活。さらに熱い試合内容もあって、4か月後の2022年3月20日、RIZIN本戦でのカードが組まれた。対戦相手は、ストラッサーと同じく過去にUFCに挑戦している、阿部大治である。阿部はUFC、ONEと渡り歩いたが、結果を残せずに失意の中帰国。だが、熱い世界の壁と向き合った経験が活きて、国内で連勝を重ね、RIZINのリングに辿り着いた、ストラッサーと同じ苦労人だ。
その長身と長いリーチから放たれるパンチは非常に強力で、12勝中7KOという高い決定力を持つ。
試合前から「元UFC対決」というこのカードに多くの注目が集まった。
会見では
「前からやってみたかった選手なので、どっちがウェルター級で強いか証明したいと思います」
と阿部が意気込みを見せると
「自分はずっと海外でやってきて10年ぶりに地元・大阪で試合が出来るということで気合いが入っています。阿部選手にひとこと言いたいので。明日は100%で俺をKOしに来いよ。全力で心を折って潰してやるから思い切り来い!」と、兄貴風を吹かせて余裕を見せた。
だが強烈な一発を持つ阿部が相手だけに、一瞬でも気を抜けば試合をひっくり返されかねない。
試合が始まってすぐに、阿部の強烈な右フックが、大きく鈍い音を立ててストラッサーをなぎ倒す。グラウンドでは阿部に隙を与えなかったが、立ち技に戻るとやはり阿部の強烈なプレッシャーと打撃のテクニックに苦戦する。テイクダウンに成功しても阿部はすぐに立ち上がり、なかなか自分のプラン通りに試合が運べない。阿部の打撃での攻勢は続き、最終Rでは阿部の方からテイクダウンを取り、上から膝と鉄槌で攻め立てる場面も。結局最後まで阿部がペースを握ったままゴング。
判定は0-3で、打撃でも寝技でも攻勢に出た阿部に軍配が上がった。
試合後のインタビューでストラッサーは、
「最初の1R、右をもらったのが今回の全てだったかなぁと、試合を振り返って思います。最初もらった時点でもう何が起こったかわからなくて、目の焦点が合わなくて」と、最初の一撃で勝負が付いていたことを明かした。
そして「今負けて、凄く悔しいです」と正直な自分の気持ちを語りつつ、「自分自身納得いってないんで、僕はまだまだ諦めないです。ウェルター級のベルト巻くまで諦めないです。自分が無理と思うまで諦めないです」と覚悟を決めた口調で語り、まもなく42歳になろうとするこの男の言葉は、多くの格闘ファンの胸に響いた。
今のところ次の試合は決まっていないが、ツイッターを見ていると、相変わらず格闘技に真っ直ぐで、自分を磨き続けているストラッサーの姿が垣間見られる。
真っ直ぐでパワーある方とお話しさせて貰うとモチベーションが心底から漲る❗️
時が来るまで自分の真剣を磨き続けるよ。 pic.twitter.com/MkHombDcsm— ストラッサー起一 (@StrasserKiichi) September 12, 2022
このツイートからも、しっかりと次の試合を見据えて自らを研ぎ澄ませているのは間違いない。
古くからのファン、そしてRIZINでの彼の熱いファイトに魅了されたファンも、今もなお進化し続けるストラッサーの次のファイトが待ち遠しくて仕方ないだろう。
そんな“UFC帰りの黒コブラ” ストラッサーストラッサーからは、まだまだ目が離せない。
ストラッサー起一の知りたいトコ!
ストラッサー起一に奥さんはいる?
ストラッサーは強くて漢気もあり、初期のニックネームが“優しい黒コブラ”だったように思いやりもあって、さらに会社経営もしていて、見た目も精悍という事で、さぞかしモテるのでは無いかと思うが、実は既に結婚して妻との間に女児を授かっている。
ストラッサーは、2018年の11月、RIZINでの2勝目を挙げた後に自身のブログで結婚を報告している。
奥さんもとても綺麗な方で、ブログでは幸せそうに家族3人写真をアップしている。
ブログの内容はこちら→「STRASSER KIICHI KIICHI KUNIMOTO ケージの中には夢があんねん」
ストラッサー起一は格闘技界のご意見番?
ストラッサーは格闘技に勤しむ傍ら、Youtubeでの発信にもかなり力を入れている。その中でも、生真面目で漢気にあふれるストラッサーの、格闘技界で起こる様々な事件に対する意見は多くの注目を集めている。
特にスダリオ剛がレフェリーの制止も効かずに追撃を続けた件には怒りを露わにして
「もっと強い選手とやらせてくれと聞いて尚更ムカついた。自分が反則して倒れている相手がいるのによくそんな事が言えるな」と語り、さらに「国内のヘビー級選手にも負けない自信がある。だからスダリオを倒したい気持ちがあります」とまさかのスダリオとの対戦まで要求している。
2022年9月、超RIZINでのごぼうの党の党首、奥野卓志による、花束投げ捨て事件についても、持論を語り、多くの支持を得ている。
ストラッサー起一は動物好き?
2018年の北岡戦後にマイクで、2週間前に天国に旅立った、元野良猫で4か月生活を共にしたという“チクワ”の存在を明かし「チクワありがとう!」と慟哭していたストラッサー。
チクワは元々捨てられていた猫で、それを拾って“チクワ” と名づけ、天寿をまっとうするまでしっかり育て上げた。
チクワに関するストラッサー起一のブログはこちら→「ちくわの生きた証」
このエピソードからも分かるが、ストラッサーはかなりの動物好きなようで、現在も猫を飼っていたり、家族と牧場に遊びに出かける等、動物と触れ合う機会を大切にしている。心から動物を愛するその優しい心も彼の人気の理由の一つだろう。
まとめ
ここまで“UFC帰りの黒コブラ” ストラッサー起一のストーリーを見てきたが、いかがだっただろうか?
スケーターからプロの格闘家に転身し、父の会社を手伝いながら、ひたむきに格闘技に打ち込み続け、HEATのウェルター級王者に。更なる高みを求めてUFCに渡り活躍を見せるも、怪我と取り巻く状況が重なり無念のリリース。その後RIZINで大活躍を見せ、再び世界の壁に挑戦するが、力を発揮できずに失意の帰国。だが、その闘志は消える事無く、今も彼はRIZINのベルトに向けて挑戦を続けている。
ただ、やはり2022年現在でもウェルター級の選手層は薄く、まだ同階級の王座は創設されていない。だが逆に言うと、ストラッサーがRIZINウェルター―級初代王者となる可能性も大いにあり得るわけで、彼を応援するファンや、中高年の人々に大きな期待を抱かせる。これからまたどんな進化を見せて我々を驚かせ、そして夢を与えてくれるのか、彼の未来への期待はまだまだ尽きる事はない。
そんな“UFC帰りの黒コブラ” ストラッサー起一をこれからもみなさんと応援していきたい。
※アイキャッチはRIZINの公式HPより引用