週に3日、90分しか練習しない格闘家がいる、と聞いたら、誰でも手を抜いていると思うだろう。ではそれが週5日8時間働くためで、妻と二人の子供がいるとしたら? 仕事と子育てをしながら、わずかな時間を縫って続けた趣味で、フェザー級トップの選手と渡り合っているとしたら?
そんな選手、いるはずがない。そう思うのも当たり前である。摩嶋一整のことを知らないのならば。
※https://jp.rizinff.com(RIZIN公式HPより引用)
摩嶋一整のプロフィール
名前 :摩嶋一整(まじま かずまさ)
生年月日 :1991年10月16日
出身地 :山口県周南市
身長 :170cm
体重 :66.0kg
戦績 :18戦 14勝(1KO 12SUB) 4敗 0分
階級 :ライト級→現在はフェザー級
所属 :毛利道場
獲得タイトル :第3代Rebel FC フェザー級王者
入場曲 :IRON HORSE -No Mark-
バックボーン :柔道
公式 HP :─
Twitter :─
Instagram :摩嶋一整
YouTube :─
アパレル :─
ファンクラブ :─
柔道エリートから Rebel FC 王者へ
柔道育ち、MMAに憧れて
摩嶋が格闘技の道を歩き出したのは、わずか3歳のころ。兄の後を追う形で柔道を始めた。
摩嶋は、3歳から高校三年までの約15年間の青春時代を、柔道と共に生きてきた。
高校は野球の強豪、山口県立南陽工業高校。この柔道部時代には、インターハイと国体にも出場した。特に寝技を好み、試合で相手の骨を折ってしまったことが何度かある。
幼いころから鍛え上げられた、まさに柔道のエリートと言える。そんな摩嶋が、20歳になって柔道を離れ、総合格闘技を始めたのは意外なことに思える。その背景にはどんなドラマがあり、どんな夢を見ていたのか?
本人が語るところでは、毛利道場に入門したのは「最初は趣味のような軽い気持ちで」だという。元々総合格闘技に憧れがあり、尊敬する選手には山本”KID”徳郁選手の名前を挙げている。
ちょうど家の近所に毛利道場があった。総合格闘技に興味があったし、寝技もあるし、運動不足も兼ねて……という理由で入門した。これが摩嶋の総合格闘家としての第一歩である。それが後に、地元山口を背負って戦うRIZINファイターになるとは、おそらく彼自身も想像していなかったであろう。
摩嶋は卒業後の18歳のときから、地元の工場で機械の修繕の仕事をしている。週五日、朝8時から夕方17時まで。これは現在に至るまで変わらない。仕事が終われば家庭に帰り、妻と共に子供二人の世話をする。
その合間を縫うようにして、仕事終わりに週3日、1日1時間半の練習を毛利道場で行っている。摩嶋本人が語る通り、格闘技の専門家というよりは、サラリーマンが趣味でやっていると言ってもいい。かつて朝倉未来が1日に1、2時間程度しか練習をしないと言って驚かれたことがあったが、それよりもさらに短い練習時間である。
15年で鍛えられた柔道の経験値もあってか、同門の選手からは入門してすぐ「アイツはヤバい。強い」と噂された。そして短い練習時間にも関わらず、摩嶋はめきめきと実力を伸ばしていく。
入門から三年後の2014年、「修斗なら柔道に近い部分もあり有利なのでは」との道場の勧めもあって、第21回全日本アマチュア修斗選手権大会に出場。初出場ながら3位の成績を収める。翌年2015年にはライト級新人王を獲得した。
勝利に伴って、少しずつ強い選手との試合が組まれていった。一度ジャックナイフ・ツネオに敗北したが、それ以外は無敗。2018年初めになると、11勝1敗という戦績を築き上げていた。そしてついに、Rebel FC 7────シンガポールを拠点とする、アジアのMMA選手のための大会────にて、フェザー級タイトルマッチに挑む。
Rebel FC フェザー級タイトルマッチ
迎えた2018年4月。摩嶋はRebel FCのフェザー級王座の座を賭けた戦いに挑んだ。
対戦相手の現王者、ホドルフォ・マルケス選手は、リオ・デ・ジャネイロ出身の選手である。バックボーンにムエタイと柔術を持ち、打撃とサブミッションの両方に優れる強豪である。
1R。開始数秒、様子を伺う摩嶋に対し、マルケスが仕掛ける。いきなり右の二連打から左のローキックを放つ。摩嶋は、最後のキックは半ばもらったような形になりながらも、蹴られた足をそのまま掴んでタックルを仕掛けた!
マルケスは掴まれながらも、足を摩嶋の首にかけようとしたり、パンチを繰り出すなど抵抗する。摩嶋はパンチを受けながら、マルケスの身体を宙に持ちあげ、のしのしと数歩歩き、ケージの端にマルケスの背を叩きつけた。そして押さえ込みにかかる。
上を取り攻める摩嶋と、逃れようとするマルケス。摩嶋は、極めるには至らないものの、マルケスを逃がすことなく、合間でパンチや肘を浴びせていく。ダウンを奪ってからのラウンド終了までの4分半、終始摩嶋が上を取る展開が続いた。
2R。やや慎重な立ち上がりのマルケスに対し、摩嶋が飛び蹴りから仕掛ける。マルケスは蹴られた足を掴みにかかるも、摩嶋は躱して互角の組み合いとなる。数十秒の攻防の後、摩嶋がマルケスを投げ、またもダウンを奪った。
足を立て態勢を戻そうとするマルケスに対し、摩嶋は逃がすまいとしながらパンチや肘を浴びせる。1分ほどの攻防があり、摩嶋がうまくバックを取ったところで投げるようにマルケスを横倒しにした。最後は摩嶋がチョークを極め、タップ。
レフェリーが試合終了を告げると、摩嶋は天に向かって大きく吠えて、頭からつっぷすようにリングに伏せた。両手で顔を抑えている。肩が上下するのは上がった息のせいなのか、勝利に震えて泣いているのか。セコンドである師匠の毛利昭彦が飛び込んできて、肩を抱いてくしゃくしゃと笑う。
カメラのフラッシュの中、摩嶋はベルトを巻かれる。どこかすっきりしたような、恥ずかしそうな笑顔でそれに応えていた。
こうして、摩嶋は第3代Rebel FC フェザー級王者となった。
RIZIN 参戦後の戦い
摩嶋がRIZINに参戦するのは、周囲から見ても自然なことだった。Rebel FC フェザー級王座を獲得した後、2勝を積み重ねたことで、戦績は14勝1敗0分と驚異的なものになった。しかも14勝のうち12勝は一本勝ちで、1勝はKO、判定による勝利は1回のみである。次第に「隠れた実力者」として評価されるようになっていた。
また、本人にとってもRIZIN参戦は望むところだった。最初は軽い気持ちで始めた総合格闘技も、やってみたら「やっぱりはまった」と語る。勝利が積み重なるにつれて、気づけば「いつかUFCの舞台で戦いたい」と思うようになっていた。もはや単なる趣味では済まない熱力で、強くなることを望み、強い相手と戦う舞台を求めていた。
“修斗王者”とのRIZINデビュー戦
摩嶋のRIZINデビューは、2020年8月10日、RIZIN.23での斎藤裕との戦いになった。
対戦相手の斎藤裕は、第10代修斗世界フェザー級王者。アマから数えて約10年間の修斗経験があり、修斗プロになってからは17勝4敗2分。
斎藤は試合前のインタビューで「衝撃的な試合を見せたい」と語る。「RIZIN初参戦だが、とにかくインパクトが求められると思っている。フェザー級を盛り上げていきたい」と。
対する摩嶋はこう語る。「自分が参戦することによって、フェザー級の戦いが面白くなるのではないか」「初戦で国内のトップクラスの選手と戦えることが楽しみ」「斎藤選手を倒して、自分の実力と、毛利道場という強いジムがあることも知ってもらいたい」と。
地元山口を背負って立つという覚悟が伺える。もちろん、そのフラッグとパンツには、スポンサーである地元山口の企業のロゴが輝いている。
試合開始、1R。お互い牽制のように手を出し合う。摩嶋の左を避けると同時に、斎藤が右のストレートを合わせた。摩嶋は食らいながらも斎藤に掴みかかる。しかしその勢いを利用してむしろ斎藤が摩嶋を投げる。ダウンには至らず摩嶋は立ち上がり、立っての組み合いに。組み合ったまま摩嶋が斎藤をコーナーに追い込み、1分ほど攻防が続く。足を掛けて倒れ込むと斎藤が上に。摩嶋はどうにか態勢を立て直すと、離れ際に斎藤が立とうとするところにタックルを仕掛けた。
足を掴んだまま斎藤を倒し、今度は摩嶋が上を取る。背後を取り、後にマウントポジションを取る。態勢を維持しながら、極めるには至らないものの顔とボディにパンチを浴びせていく。斎藤は何度か態勢を戻す機会を見つけては動くが、そのたびに摩嶋がダウンさせ直す。後半3分は摩嶋が上を取る展開のまま終わり、1R目終了のゴングが鳴った。
2R開幕、斎藤の右のボディがヒット。その後、斎藤が左手を出したところに摩嶋がタックルを仕掛けるが、斎藤はこれを大きく退いて避ける。摩嶋は斎藤の左足首に触れるも掴むには至らず、一人リングに突っ伏す形に。立ち上がり際、斎藤のサッカーボールキックが摩嶋の顔面を捉えた。摩嶋の顔が、首から身体ごと揺さぶられる。
よろめいたところに斎藤が打撃で追撃するが、摩嶋はそれを受けながらなおも組みついていく。一度斎藤の態勢を崩すも、右の膝蹴りを顔面に受け、レフェリーストップ。試合終了となった。
かくして、摩嶋のRIZINファイターとしてのキャリアは、敗北から始まることになった。本人の戦績を振り返っても、2014年にジャックナイフツネオに破れて以来、6年ぶり・12試合ぶりの敗北である。
ただし今回の相手は特別だった。斎藤裕は、摩嶋戦の次の試合で朝倉未来を破り、RIZINフェザー級初代王者となった選手である。
試合内容を見ても、1Rは摩嶋が優勢な時間が長かった。得意な寝技の形に持ち込み、そして抑え込み続けることができた。結果は負けだが、ファンからは「摩嶋の寝技は強い」と一定の評価を得ることができた試合になった。
寝技師対決、クレベル戦
続く試合は約半年後の2021年3月、RIZIN.27でのクレベル・コイケとの試合になった。
クレベルは祖父に日本人を持つブラジル人で、7歳のころ柔道を始めた。18歳のころから同じく日系ブラジル人の柔術仲間であるホベルト・サトシ・ソウザらと共同生活をしながら腕を磨いている。26勝5敗。
クレベルの特徴は、ボンサイ柔術をバックボーンに持つ寝技の強さにある。特に、MMAでは肘打ちありのルールでは相手に上を取られることは危険な行為とされる中で、相手の下にいる状態でのディフェンスや極め技の技術が高く評価されている。
試合前のインタビューで、クレベルは「相手が強いけど、心配ない。一本勝ちでもKOでもいいから、勝ちたい。できれば柔術、ボンサイの柔術をやりたい」と語った。
また、お互い得意とする寝技に関しては「摩嶋はバックとか腕十字だけ。私は上でも下でも極められる。バリエーションがある」とも語った。
対する摩嶋は、「寝技も打撃も強い選手なのでやるのが楽しみ」「寝技の攻防をみんな期待していると思うので、それを見せたい」と語った。またクレベルと自身の違いについて、「組みの展開、テイクダウン、抑え込む力、キープ力とかは(自分が)上回っている」とも語った。
共に、寝技に関してはトップレベルの選手である。ストライカー対グラップラーなら、いかに寝技に持ち込むか、そうさせず捌いて打撃で仕留めるかという対決になる。しかし互いにグラップラーとなると、寝技に持ち込み組み合った後にこそ、激しい駆け引きが待っている。良く知ったファンにこそ、注目される一戦となった。
試合開始。1R、互いに牽制を散らしていく。お互い打撃を撃ち合うが、クレベルのほうが手数が多く、摩嶋はどちらかというと掴みにかかる様子を伺っている。クレベルが深く踏み込んでの左ジャブから右の蹴りを繰り出す。摩嶋はもらったように見えたが、その蹴りだした足を掴んでクレベルの態勢を崩す。両者倒れ込み、立ち上がりざま摩嶋がクレベルを掴んで、立っての組み合いに。
背後に回ったように見えた摩嶋に、クレベルが首投げをきめる。派手に回りながら、だが摩嶋は投げられた勢いのまま回転し、逆に上を取った。組み合ったままどうにか立ち上がったクレベルを、摩嶋はコーナーへ押し込み、攻防の末に足をかけて再度テイクダウンを取る。
上を取ったもののクレベルの防御が巧みでなかなか展開が進まない中、摩嶋はパンチや肘を浴びせていく。途中クレベルが仕掛けた腕ひしぎから逃れたところに踏みつけを狙うなど、テイクダウンからの3分半は終始摩嶋が上を取って抑えたまま、1Rは終了した。
2R。ある程度打撃を当てに行くクレベルと、捌きながらタックルの機会を伺う摩嶋という構図になった。クレベルの蹴りを受け、摩嶋はすぐさま足の戻りを掴みにかかる。それを躱してクレベルが右を振りぬくと、すんでのところで摩嶋は避けている。そして摩嶋がタックルを決める。がっしりと腰を抱え、浮かせてマットに叩きつける。2Rの寝技は真面目が上を取る展開から始まった。
歓声が上がる。しかし倒れて見れば、上を取っているのは摩嶋だが、下からクレベルがチョークをかけている。タックルを受けた際、首に腕を回していたのだ。数秒もがく両者。摩嶋はどうにか上を取ったまま、首を抜いた。そして引きずるようにコーナーへ追い詰め、クレベルを抑えにかかる。クレベルが巧みに凌いで立ち上がり、同時に摩嶋の側面を取った。それを摩嶋が投げて再度上を取る。摩嶋はクレベルの首に腕をかけるも極まらず、クレベルは態勢を立て直す。摩嶋は首から腕を外してタックルを仕掛けるも、クレベルは反応しこれを防ぐ。
再び離れて立ち合った状態。クレベルの右ストレートを顔面に貰ってしまうが、続く右ひざ蹴りを回避。その足を掴んで再び摩嶋が押し倒す。この2Rのうち3回目のテイクダウンである。上を取っているのは摩嶋だが、思うように展開が進まない。下にいながらパンチを打っているのはクレベルのほうである。
摩嶋が引きずるようにコーナーへクレベルを押し付けたところ、一瞬の隙をついてクレベルが摩嶋の腕を押しのけて、同時に足を摩嶋の首に巻き付けた。「Eu vou pegar! (エウ ヴォウ ペガー)」極めるぞ、と叫んで、クレベルは三角絞めを極めた。摩嶋がタップし、試合は終わった。
試合後、摩嶋は「1Rはうまく戦えたが、スタミナ面に課題があった」と話す。
結果としては二連敗になったが、その試合内容には光るものがある。ファンの中には「また摩嶋の試合を見たい」「負けたけど評価は落ちてない」との声もある。表面上の勝敗だけではわからない、見る者が見れば摩嶋の実力をも証明する試合になった。
“レジェンド”金原戦
クレベル戦から約一年。摩嶋のRIZIN三戦目は、金原正徳との試合になった。時間が空いたのは、それまで試合を組めそうな時期と仕事の繁忙期が重なってしまい、練習時間をとれそうになかったためだ。
対戦相手の金原は、プロになってから20年近く活動する大ベテランである。26勝12敗5分。2020年に一度引退宣言をしているが、一年後の2021年、階級をバンタム級からフェザー級に上げて復帰することを表明した。復帰後初戦を勝利し、二戦目が摩嶋戦である。
金原は摩嶋について、試合前のインタビューで「実力者同士の試合」と表現されたことに不快感を表し、「俺のほうが全然強いっしょ。やってるもんが違うでしょ」と語った。
一方で、摩嶋はこう語る。「レジェンドの選手で、越えなきゃいけない壁」「僕ら(フェザー級選手)に圧倒的な力があれば復帰しなかっただろうし、誰かが倒さなきゃいけない。それが僕でありたいと思う」敬意と、それ以上の闘志を持って、摩嶋は試合に望む。
試合が始まり、1Rは摩嶋のタックルから試合が動いた。抑え込む摩嶋、しかし金原がうまく位置を入れ替え、逆に金原が上を取った。その後、金原は背面を取るなど攻めるも、摩嶋が凌ぎゴングが鳴る。
2Rも摩嶋がタックルでテイクダウンを奪う。起き上がろうとする金原を寝かせ続け、パウンドや肘を落としていく。そのまま摩嶋優勢に2Rが終わる。
※https://jp.rizinff.com(RIZIN公式HPより引用)
3R。金原の右ストレートを受けながら再度摩嶋がタックルを仕掛ける。今度は倒れず、むしろ金原のほうがアームロックをかける。摩嶋はどうにか外し、飛びのく金原。しかし摩嶋はスタミナ切れか、起き上がることができない。そこに金原が襲い掛かり、肩固めから最後はバックマウントからの連打で、レフェリーが試合を止めた。
※https://jp.rizinff.com(RIZIN公式HPより引用)
摩嶋にとっては苦しい、RIZIN三連敗となった。
試合後、金原は「疲れた。摩嶋選手、強い。舐めてました」「1、2Rは圧倒された」「もうちょっと上のレベルにいる選手だと思う」と認めている。
リングから控室に戻る途中、摩嶋は「スタミナがねえ 疲れる」「3R戦えんす」と弱音を吐く。それを毛利道場のセコンドが「そんなことねえぞ」と優しく励ます。
摩嶋は試合後のインタビューで、「今からでも初心に戻って這い上がって、まずは一勝、良い勝ち方で決めたいですね」と語った。敗北の後でも、ただ次を見据えている。
以上が、摩嶋がRIZIN参戦してからの全三試合である。いずれも結果は敗北だが、相手は強豪ばかりである。
斎藤とクレベルは、朝倉未来の12戦のRIZINキャリアのうちたった2敗の土をつけた両名であるし、金原は元SRCフェザー級王者、UFCで戦った経験もある。摩嶋は彼らに対し、一歩も退かない戦いを見せた。打撃を受けながらもタックルで何度もテイクダウンを取り、寝技の展開になれば抑えて逃がさない。
判定で数えれば摩嶋が取ったラウンドはいくつもある。金原も1、2Rまでで長い時間上を取られており、3R開始時点で「判定になったら負ける」と覚悟していた。
寝技に優れるクレベルですら、クレベルが明確に有利を取ったのは最後の三角絞めの一瞬くらいである。摩嶋のタックルにダウンを取られ続け、上を取られる構図を抜け出せず、被害を抑えることに終始していた。
相手が強かったし、そして内容を見れば摩嶋も強いのはよくわかる。ファンの中には、摩嶋を「負けても評価が落ちない男」と評する声もある。結果を見れば三連敗だが、見た者はその食らいつく姿を忘れはしない。試合をもう一度見たいという声がある。そして摩嶋本人も折れていない。
摩嶋のRIZINファイターとしての戦いは、まだまだここからである。
摩嶋一整の知りたいトコ!
摩嶋の母は、プロボクサー!?
実は、摩嶋の母親は元プロボクサーである。10年ほどのキャリアがあったそうで、摩嶋は母から「死んでも戦え」と言われてきたとのこと。
3歳の幼さで柔道を始めたのも、母によるものかもしれない。
ただ小言のように「ガードが悪い」など言われることがあり、摩嶋は「ああ、ハイ」と流す程度に聞いているとのこと。母が息子に小言を言うのはよくあることだが、人生の先輩というだけでなく格闘技でも先輩となるといよいよ頭が上がらなさそうだ。
まとめ
以上、摩嶋一整という選手を、試合を中心に振り返って見てきた。
こう全体を眺めてみると、摩嶋とは実に不思議な選手である。
格闘技より仕事が優先で、練習時間は週5、6時間。それも道場の一般会員と同じメニューである。
本人も自分のことを「格闘家だなぁとは思っていない、ただのサラリーマンです(笑)」と語る。
顔つきを見ても、インタビューの話しぶりを見ても、格闘家にありがちなギラギラした印象は全くない。おとなしい顔で、ゆっくり喋り、たまにくしゃっと笑い、深々と会釈をする。ふとすれば、「むしろその辺の人より頼りないんじゃないか?」と思わされるときもある。
しかしリングへ出れば、打たれても蹴られても怯まず掴み、一度掴んだら万力のように離さない。格闘技のことを語れば、インタビュアーに「再起戦だし格下の選手から始めても……」と言われても「あきらかに下の選手とやるのは、格闘家として納得がいかない」と毅然とし、みんなが避ける強敵クレベルとの試合を受けた理由を聞かれても「ボクは一番やりたかったですね」と臆面もなく答える。
そして目標は遥か遠く、UFC。
真面目で、素朴で、実直な男である。
摩嶋は今も地元山口に住んでいる。今日も働き、仕事終わりに道場へ通う。そして試合が組まれたときだけ、東京に出てくる。地元山口を背負う覚悟で。
ここまで知って、摩嶋を応援したくならない人がいるだろうか。摩嶋にスポンサーはつかないのか、サラリーマンをやめて格闘技に専念させられないだろうか。実力はあるんだからRIZINでもそろそろ勝ってもいいのではないか。そう思わされるだけの「徳」が、摩嶋にはある。今後の摩嶋の活躍に期待し、そして応援していきたい。
※https://jp.rizinff.com(RIZIN公式HPより引用)
※アイキャッチはRIZINの公式HPより引用