倉本一真の選手紹介 〜神技ジャーマンスープレックス“投神”のすべて〜

「ジャーマンスープレックス」という技を知っているだろうか。これは、相手を背後から抱え、体をそのまま後ろに反らして相手を投げ飛ばす、プロレスの代表的な技だ。

そんなプロレス技を、総合格闘技の舞台で豪快に決めてみせる格闘家がいる。

その名も倉本一真。相手を投げまくるファイトスタイルから、倉本についた異名は、“投神”だ。

今回は、格闘家・倉本一真の生い立ちから、現在に至るまでの歴史を解剖していく。その歴史を知れば、倉本こそが、今最も注目すべき格闘家であることが自ずと分かるだろう。

画像1: 入場
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2020/12/31/5b786d890e948c56bfd9532185162e3748e21cbb_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)

まずはプロフィールから見ていこう。

倉本一真のプロフィール

名前 : 倉本一真

生年月日 : 1986年10月29日

出身地 : 滋賀県蒲生郡日野町

身長 : 163cm

体重 : 61.0kg

戦績 : 13戦 10勝(7KO) 3負

階級 : バンタム級

所属 : リバーサルジム新宿MeWe

獲得タイトル : なし

入場曲 : Just What You Feelin

バックボーン : レスリング・グレコローマンスタイル

公式HP : −

Twitter : 倉本一真 Kazuma Kuramoto

Instagram : 倉本一真 Kazuma Kuramoto

YouTube : −

アパレル : PRUEVA

ファンクラブ : −

トップレスラーからMMAファイターへ

田舎の少年から、誰もが認める天才レスラーへ

滋賀県の日野町で生まれた倉本は、小学生時代に空手、中学生時代に柔道とレスリングに取り組んでいた。特に、レスリングでは、中学2年生の時に全国でベスト8になり、その才能の片鱗を徐々に見せ始める。

地元の日野高校に進学した倉本は、レスリング一色の高校生活を送ることになる。倉本の血の滲むような努力は身を結び、高校3年生の時には、国体やジュニアオリンピックなどの全国大会のタイトルを総なめにした。そして、周囲から、スーパー高校生として注目を浴びるようになった。

初めての挫折

倉本は、高校卒業後に拓殖大学に進学したが、そこで事件は起きた。彼は部内で問題を起こし、大学を退学することになったのだ。

「もうレスリングはやめよう」 そう決意していた倉本は、引退試合と位置付けて兵庫国体へと臨む。「最後の試合だから、優勝して引退しよう」と意気込み、実際、倉本の優勝は周囲からも確実視されていた。しかし、倉本は呆気なく敗退してしまう。

引退を決意していた倉本だったが、試合に負けたことで、「レスリングに未練を残した状態で引退はしたくない」という想いが湧き出ていた。そんなときに、山梨学院大学レスリング部から入学の誘いがあった。

「俺にはレスリングしかないだ」レスリングを失って初めて、レスリングへの熱い想いに気づいた倉本は、再び戦いの舞台へと足を戻す。

日本を代表するレスラーへ

山梨学院大学入学後の倉本は強かった。2007年には、遂に全日本グレコローマン選手権を初制覇し、日本を代表するレスラーの1人となる。大学卒業後、自衛隊に入隊した倉本の勢いは止むことを知らず、2012年からは、全日本グレコローマン選手権を3連覇するという偉業を成し遂げた。日本では、まさに敵なしだった。

2014年の全日本選手権決勝では、現在RIZINで活躍中の元オリンピック銀メダリスト・太田忍と対戦している。ここでも倉本はフォール勝ちを収め、優勝している。

倉本は、念願のオリンピック出場の夢が叶うと確信していた。そうして迎えた、2015年の全日本選手権。リオデジャネイロオリンピックの選考会を兼ねて行われたこの大会で、優勝候補の筆頭は倉本一真で、それは誰の目にも明らかだった。しかし、倉本はここでも、呆気なく敗退してしまう。夢のオリンピックへは、届かなかった。

レスリング引退、そして遂に総合格闘技の世界へ

オリンピック出場が叶わなかった倉本は、自衛隊を退官し、レスリングの世界から身を引くことを決める。その後、倉本は2年の間ショップ店員として働いていたが、その期間の中で、MMAへの興味が段々と胸の内で強まっていく。

倉本は根っからの格闘家なのだ。戦う闘志の炎は消そうと思っても、消せなかった。倉本は「もう一度、格闘の世界で戦いたい」という自分の奥底に眠っていた感情を呼び覚まし、総合格闘技への挑戦を決意する。

そして、2017年に修斗のトライアウトに合格し、 MMAの世界へと本格参入することになる。

修斗参戦後

倉本は、プロデビュー戦以降、破竹の勢いで勝ち続けた。彼のファイトスタイルは一貫している。まずは投げによるダメージを相手に与え、弱まったところにフィニッシュを狙う。レスリングで鍛えた強さには、尋常ではなく、誰も太刀打ちができなかった。

プロ7戦目で迎える相手は、当時環太平洋1位、世界バンタム級2位の根津優太。怖いもの知らずといった様子で連勝を続ける倉本と、上位ランカーの実力者・根津の対戦カードは激戦必至と予想され、戦前から期待感が高まっていた。

いざ、試合の蓋を開けてみれば、倉本はジャーマンを8発、根津優太に食らわせ、倉本のTKO勝利で試合は幕を閉じた。デビューから7戦全勝、そして既に、世界バンタム級2位まで倉本は上り詰めていた。この年、倉本は2019年修斗MVPとベストバウトをダブル受賞した。

2020年5月、遂に世界バンタム級暫定王者決定戦として、同級環太平洋王者の岡田遼と倉本の対戦カードが決まった。修斗31年の歴史の中で暫定王者決定戦が行われるのは初めてだった。

この試合も、倉本のジャーマンが試合の勝敗を分けるポイントになると評されていたが、試合中、倉本の投げは岡田に見事なまでに完封された。結果は岡田が2RでKO勝ちを収め、倉本は世界王者のタイトルを逃した。

後のインタビューで倉本は「全てにおいて足りてなかったです。経験不足でもあるし、努力不足でもあるし、技術不足でもある」と語り、完敗を認めている。

しかし、負けた経験こそが真の成長の起爆剤だった。倉本はさらなる進化を遂げ、遂には日本最高峰の団体、RIZINのリングに立つ日を迎えることになる。

RIZIN参戦後の戦い

いざ、初陣へ

2020年の大晦日に、倉本はRIZINのデビュー戦を迎える。対戦相手は、同じレスリングというバックボーンを持つ中原太陽。中原は、初代タイガーマスクの佐山サトルに弟子入りしているファイターだ。

試合前のインタビューで倉本は、「自分はレスラーなので投げ、ダイナミックな投げやパワフルな力強い技を期待していてください。自分のベストパフォーマンスを出して、しっかり勝つ」と力強く語り、必勝を誓う。

試合開始のゴングが鳴る。倉本のRIZINの選手としての始まりだ。

1ラウンド、組みを警戒する中原に対して、倉本は果敢に右ストレートを放つ。ラウンドの中盤で、中原の顔面にストレートがヒットし、体勢を崩した一瞬の隙に、強烈なヒザを追撃。中原がグラウンドの状態になると、倉本は容赦なくパウンドを打ち込む。最後にトドメとなるサッカーボールキックを側頭部に決め、レフェリーが試合を止める。1ラウンド、 2分12秒のTKO。まさに完勝だった。

試合後のリング上でも、疲れを全く感じさせない様子の倉本は、「自分が国内バンタム級を盛り上げるんで、もっとおもろい試合するんで、ぜひこれからも注目してください。応援よろしくお願いします」と高らかにマイクに語った。

RIZINの世界で、倉本一真という選手がどこまで上り詰めるのか。格闘技ファンの間では、期待の注目株がまた1人増えた、という声が一気に広まった。

ボンサイ柔術への挑戦

2021年6月にはバンタム級GPへの参戦が決定し、その1回戦の相手はアラン”ヒロ”ヤマニハだ。ヤマニハは、クレベル・コイケやホベルト・サトシ・ソウザといった実力者と同じ、ボンサイ柔術所属の選手だ。

試合前のインタビューで倉本は、「自分のレスリング力、フィジカルで負けることはない。まずはこのトーナメント1回戦から確実に勝ち上がってこその今後だと思うので、まずはヤマニハ選手の試合をしっかり勝つことだけ集中します」と、その顔に自信をのぞかせていた。

1ラウンドが始まる。試合早々、ヤマニハが飛び膝を仕掛けてくるが、倉本は避け、タックルでヤマニハを押し込む。スタンドの状態になると、倉本の踏み込みに対して、ヤマニハは左右のストレートを上手く合わせてくるため、倉本は中々自分の攻撃のリズムを掴めない。ヤマニハは、さらに倉本の正面から得意の三角絞めを決めにかかるが、倉本は絞められたまま、ヤマニハをリングに叩きつけて絞めを崩す。1ラウンドは、ヤマニハの攻勢が続く展開で終わった。

2ラウンド、中盤まで両者、攻め手を欠く中、倉本がタックルでヤマニハに向かう。しかし、これも正面から捉えられ、ヤマニハは再度締め技を決めにくる。そのままグラウンドの展開になるが、ここは倉本が上手く頭を引き抜く。その後、倉本がヤマニハのストレートを受ければ、倉本は巻き返し、バックブローを2発ヤマニハにヒットさせる。ヤマニハは、右目付近のカットによりドクターチェック。すぐに再開したが、大きな展開はなく2ラウンド終了。

ここまではヤマニハの優勢といった様子で迎えた3ラウンド。なんとか攻勢に出たい倉本は、テイクダウンを狙い仕掛けるも、これをヤマニハが押し戻す。倉本は最後に完全に攻勢に転じ、踏みつけとパウンドで一方的に攻めるが、間も無く試合終了のゴングが鳴る。試合は3-0でヤマニハの判定勝ち。改めてボンサイ柔術の強さを見せつけられる結果になった。

試合後のインタビューでも「悔しいです」と一言述べ、その言葉通りの表情を浮かべていた。

また、後日のインタビューでは、「あの時は試合前、自分の雰囲気が優しかったと思う。ヤマニハ選手に対して『良い試合しようよ』みたいな気持ちで握手していました。今考えると、ちょっと自分が甘かったですよね」と語っており、倉本としてはMMAの厳しさを痛感する機会になった。

“投神”の再起戦

3戦目は倉本にとっては再起戦となる大事な試合だ。対戦相手の加藤ケンジは、アグレッシブなファイトスタイルと破壊力のあるパンチが持ち味の選手。

1ラウンド、加藤がガードを下げた構えから右ストレートを放つ。テンプルに当たるが、倉本は構わず前に出て、タックルでテイクダウンを奪う。そして、倉本は立ち上がると強烈なパウンドの雨を浴びせる。

倉本の持ち前のレスリング技術はやはり一級品だ。加藤がなんとか立ち上がるも、倉本はすぐさまテイクダウンを奪い、パウンドを浴びせる。組み付いてきた加藤には、さらにヒザを叩き込む。それでもまだ、倉本のパウンドは止まらない。最後はグラウンド状態で、倉本が頭部へヒザを3発叩き込むと、レフリーがストップをかける。倉本が圧倒的な強さを見せ、TKO勝利を収めた。

試合後、「前回の敗戦が成長のきっかけであったこと」を倉本は語った。1から色んなことを学ぶことで、格闘技の技術の幅がすごく広がったと述べており、倉本は成長の証を試合で体現させてみせた。

だが、それでも満足はしていない。「もっとエグい試合できるように、もっとがんばります」そう述べる貪欲な倉本は、まさに向上心の塊だ。

突然の対戦相手の変更、一撃必倒の男とRIZIN4戦目へ

倉本のRIZIN4戦目は、金太郎との対戦が決定していた、しかし、大会直前に金太郎の怪我による欠場で試合は中止に。それでも倉本は「試合がしたい」と懇願し、魚井フルスイングが倉本の対戦相手に決まる。

試合前日、倉本は「判定には興味なくて、1ラウンドからKO出来るようにぶっ飛ばしていきます。敬意を持って魚井選手をボコボコにさせてもらうんで、楽しみにしていてください!」と、力強くコメントした。

1ラウンド、魚井がヒザ蹴りを放つも、倉本は構わず魚井の左腕を掴み一本背負いからテイクダウン。そして魚井の頭部にヒザを打ち、ダメージを与える。魚井が体勢の立て直しを試みるが、倉本はそれを許さない。その後も倉本は得意のタックルを仕掛け、グラウンドの展開が続く。倉本は優勢ではあったが、魚井は上手く足で倉本に対抗、倉本も決定打は放てない。

画像3: ROUND 1
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2022/05/05/c78d41c225290da34054dbb7df7e3da721552f14_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)

2ラウンドも、倉本のタックルが牙を剥く。テイクダウンを奪った倉本はパウンドを放っていく。魚井は立ち上がり、倉本のタックルにはヒザを合わせようとするが、それも決まらない。しかし、倉本は1ラウンド同様、テイクダウンからのパウンドを浴びせようとするが、決定打を欠き、2ラウンド終了。

画像5: ROUND 2
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2022/05/05/317494e274a6d4f638cd4291c0e723d86749a94e_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)

3ラウンド、魚井が倉本の攻撃を凌ぎ続ける防戦一方な展開が続くも、KOまでは持ち込めず。そのまま終了のゴングが鳴った。

魚井フルスイングを圧倒し判定勝利を収めたが、倉本には勝利の喜び以上に、KOできない悔しさの方が大きかった。試合後、「全然、出し切れずダメでした。自分の動きができず、魚井選手、強かったです」と反省の弁を倉本は述べた。

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倉本は、RIZINではこれで3勝2敗。フェザー級で活躍する朝倉未来も、「倉本選手は著しく強くなっている」と実力を認めている。倉本本人は「トーナメントで上に上がってる選手を全員倒していって、最後ベルトを獲りたい」と今後の意気込みを語っている。

倉本が、バンタム級の頂点に立つはそう遠くないかもしれない。倉本の今後の活躍に目が離せない。

倉本一真の知りたいトコ!

活躍の陰には、参謀役の妻がいる!?

倉本は既婚者で、その妻は、レスリングのリオデジャネイロオリンピック金メダリストの登坂絵莉だ。妻が、MMAのことが好きということもあり、彼女にアドバイスをもらうことも多々あるという。倉本も、「彼女の方が総合格闘技に詳しくて、僕は『まだまだ甘い』と言われます」とインタビューで述べている。

また、2021年には2人の間に第一子の息子も生まれた。家族の声援は、倉本をさらに強くするかも知れない。

趣味はバイク

倉本は、2015年にレスリングを引退した後、ハーレー・ダビッドソンのカスタムショップで2年ほど働いた経験がある。実は、大のバイク好きで、インスタグラムには、仲間とのツーリングの写真が度々投稿されている。

まとめ

倉本は、MMAの世界に来る前に、既にレスリングの世界で、挫折を味わいながらも全日本を3連覇し、日本の頂点を極めていた。そんな男が、総合格闘技の世界でもその頂きを目指している。

MMAの世界で”投神”と呼ばれる倉本を支えるのは、やはり長年培ってきた、一級品のレスリング技術であり、誰も簡単にはそれに抗えないだろう。今はRIZINを主戦場としているが、倉本自身はインタビュー内で「僕はUFCを目指したいです」と公言している。彼が見つめる先は、もっと上の世界だ。

勝利に飢えた倉本は、飽くなき向上心を胸に、さらなる活躍を見せてくれるだろう。

画像1: 入場
※画像URL:https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782696/rc/2022/05/05/70c274aca89552161d39429405b867e3917c0e77_xlarge.jpg(RIZIN公式HPより引用)

※アイキャッチはRIZINの公式HPより引用