カマル・ウスマンの選手紹介記事 〜“ザ・ナイジェリアン・ナイトメア”のすべて〜

異常とも言える身体能力と打撃センス、加えてバックボーンに裏付けされたレスリング力とタックルディフェンス。そしてストライカーはグラウンドに引き込み、グラップラーやレスラーとはスタンディングで戦うと言う、勝利に徹した狡猾な戦略。

この男を倒せるイメージが全く持てず、多くのファイター達が彼との試合を避けていった。

まさにこの男はナイジェリアからやって来た悪夢(ナイトメア)と言っても過言ではないだろう。

彼がどのようにしてここまで強くなり、UFCの無敵のチャンピオンにまで登り詰めたのか、今回は”ナイジェリアン・ナイトメア”カマル・ウスマン選手を丸裸にしていこう。

画像URL:https://ufclivepubstorage.blob.core.windows.net/public-files/030a47dc-e680-470d-952d-4542799370d9/USMAN_KAMARU_04-24.png(UFC公式HPより引用)

 

カマル・ウスマンのプロフィール

名前 :               カマル・ウスマン

生年月日 :        1987年5月11日

出身地 :         ナイジェリア

身長 :               183cm

体重 :               77Kg

戦績 :               20勝2敗(9KO 1SUB)

階級 :                ウェルタ―級

所属 :               キルクリフFC

獲得タイトル : UFC世界ウェルター級王者

入場曲 :       Yo Gotti and Moneybagg Yo  「Big League” 」

バックボーン : レスリング

公式 HP :     https://www.usman84kg.com/

Twitter :          @USMAN84kg

Instagram :      KAMARU USMAN

Youtube:       ー

アパレル:      https://s-gents.com/collections/kamaru-usman

ファンクラブ:     ー

今年で35歳になったウスマンだが、まだまだ衰えは見せず、これからさらなる活躍も期待されている。そんなウスマンがどうやってここまで強くなり、オクタゴンにたどり着いたのか、ここからはウスマンの幼少期にまで遡って彼の格闘人生を見ていこう。

 

レスリングから総合格闘技へ

レスリングに打ち込んだ10代

カマル・ウスマンは1987年3月11日、ナイジェリアで、専業主婦の母親と、軍に所属していた父親の間に生まれた。

弟のモハメドと妹と一緒にナイジェリアで育ったウスマンは、地元の多くの人々と同じように、水を汲むために何マイルも歩き、家族の農場で農夫として働いた。

ちなみに弟のウスマンはThe Ultimate Fighter 30ヘビー級トーナメント優勝者である。

ウスマンが2歳の頃、父が薬剤師になるために単身渡米。

ナイジェリアに残った家族が父に合流するまでの6年間、父はお金や手紙を送り続けた。ある日、父が子ども達へのプレゼントとしてスーパーファミコンを送ったが、ウスマンの住んでいる地域にはまだ電気が通っておらず、しばらくの間プレイする事は叶わなかった。

ウスマンは、8歳の時に母や他の兄弟と共に渡米。

アメリカでの生活は、英語が苦手なウスマンにとって、未知の世界であったが、ウスマンの場合は、ナイジェリアからニュージーランドに渡って苦労したイスラエル・アデサニヤとは違い、すぐにアメリカの文化に溶け込むことができた。

※画像URL:https://lawofthefist.com/wp-content/uploads/2020/09/kamaru-usman-mother-and-brothers.jpg(Law Of The Fistより引用)

学生時代はフットボールチームで活躍するも、怪我をして断念。

その後、高校のレスリング部のコーチの勧めでレスリングに挑戦する。

初めのうちは女子チームメイトに何度も敗北し、辛酸をなめ続けたウスマンだが、めげずに必死に努力しつづけ、実力を伸ばしていき、53勝3敗というレスリングの記録で高校を卒業した。

その後、ネブラスカ大学に編入し、NCAA ディビジョン2で優勝、2008年には同校のレスリング部初のチーム総合優勝に貢献し、2010年にはフリースタイルレスリングで大学世界チームのメンバーとして活躍。44勝1敗の成績を残した。

また高校時代にウスマンは、後にUFC史上最年少でライトヘビー級でチャンピオンとなるジョン・ジョーンズ(9年間王座を守り続け、唯一の敗戦も圧倒的な試合展開の中で反則負けとなったため、”実質無敗” と言われている)とレスリングの全国大会で戦っている。

ジョンについてウスマンは

「僕とジョンは年齢が近いんだ。ジョンは、これまでの不祥事を抜いて考えれば、ジョンはおそらく史上最高の選手の一人だと思う。 高校生の時に会ったんだけど、早くから彼の才能を感じていたんだ」

と、強いリスペクトを示している。

ウスマンは非常に優れたレスラーであったが、レスリングで生計を立てていくのはかなり難いと感じていた所、元UFCライトヘビー級王者のラシャド・エヴァンスからMMAの将来性について説明を受け、MMAファイターになることを決意する。

MMAデビュー

そして、2012年11月、ネブラスカで開催されたRFA5でデヴィッド・グローバーを相手にTKOで勝利し、MMAデビューを果たしたのである。

次戦では、ホセ・カセレスを相手に序盤は打撃で優位に立ち、強烈なワンツーでカセレスをダウンさせたが、追撃に行くウスマンをかわして、背後からカセレスがリアネイキッドチョークを極め、ウスマンは堪らずタップ。

柔術の技に慣れていなかった当時の事を思い出しながら、

「気づいたらカセレスの足が僕に巻きついていた。あんな感覚は初めてだったよ。僕はパニックになったんだ。その時コーナーから『タップしろ!!』と声が聞こえて来た。サブミッションで意識を失ったら6ヵ月間の試合出場停止になる事を思い出したんだ」と彼はタップした理由について後に語っている。

怒涛の快進撃

その後ウスマンはグラップリングディフェンスの強化にもしっかり取り組み、元々備わっているアメリカでもトップレベルのレスリング力と身体能力を武器に、4戦4勝、すべてTKOで勝利という、怒涛の快進撃を見せる。

この時既に当時在籍していた、ブラックジリアンを代表する程の実力を身に着けていたウスマン。

ブラックジリアンズのコーチはインタビューで語る。

「彼は火星人のアンドロイドのような強さを持っていると思うよ。」「この男は異常なアスリートだ。ウェルター級の巨漢で、爆発力、スピード、ボディコントロール、そして攻撃的なファイトスタイルを持っている。ウスマンの非常にハイレベルなレスリング能力と組み合わせる事で、MMAの一つの強力な完成系となる」

さらに格闘アナリストのゼーン・サイモンは

「弱点?そんなものはない。ウスマンに人間の弱点など存在しない……。彼はすでにUFCで通用する素晴らしい試合をしている。彼はコンビネーションでの打撃と、グラウンドでのアグレッシブさ、そしてグラウンドでアグレッシブになりすぎて関節を極められないようにする事等を、重点的に意識して取り組んでいる」と、唯一の敗北から学んだ事を活かし、無敵の強さを手にいれていると、専門家からも評価された。

 

大舞台で魅せた進化

グングン力を伸ばしていくウスマンに2015年7月、大きなチャンスが訪れる。アルティメットファイターという人気テレビ番組の企画で行われた、アメリカン・トップチームVSブラックジリアンという、ジムの誇りを懸けた団体戦の最終戦の選手として、ウスマンが選ばれたのだ。

この団体戦は、最終戦までにブラックジリアンが3連敗を喫し、このシリーズの明暗はウスマンの拳に託されていた。迎えるはヘイダー・ハッサン。これまでプロMMAで7戦6勝。そのほとんどがKO勝利という、ウスマンにとっては、初めて戦う本格的なハードヒッターだ。

試合が始まると、ウスマンは意外にも早々にグラウンドを狙い、なんとか凌ごうとするハッサンをテイクダウン。終始ウスマンがグラウンドを支配する展開が続く。

2R、ハッサンのアッパーカットでウスマンがダウン。一瞬危ないかと思われたが、ウスマンはすぐに反応し、パンチをかわしてハッサンをテイクダウン。そのまま肩固め、サイドに移動して固める。ハッサンは逃れようともがくが、ウスマンの異常と言ってもいいレベルの身体能力になす術無くタップアウト。ストライカーだと思われていたウスマンが見事な一本勝ちで、大きな成長を見せつけた。

 

 

「最高の気分だよ。長い道のりだった。このために頑張ってきたんだ」とウスマンは勝利の後に語った。

そして

「新たな僕の武器だ。柔術のコーチであるホルヘ・サンティアゴといろんなポジションで練習しているんだ」とサブミッションでのフィニッシュについて語った。

 

UFCデビュー

 

未来のライバルを相手にデビュー戦

全米注目の大舞台でしっかり存在感を示すことに成功したウスマンは、いよいよUFCと正式に契約し、2015年12月19日、レオン・エドワーズを相手にデビュー戦を迎えた。

エドワーズはデビュー戦こそ判定で敗れているが、次戦ではセス・バジンスキーを試合開始わずか8秒でノックアウト勝利。続いてパヴェル・パヴラクを判定で降し、勢いに乗っている。

まさにこの試合はUFCの有望株同士の戦い。今後のタイトル戦線を占う、注目の一戦である。

試合前「彼はTUFで優勝したけれど、あのTUFは公平に見て、レベルが高いとは思えない。ウスマンが何をしかけてくるかは、たいして気にならない。それよりも、自分がするべき事に集中する」

と激しいトラッシュトークは無いものの、やんわりとウスマンを挑発した。

一方ウスマンは

「レオン・エドワーズはいい選手で、ダイナミックなストライカーだ。しかし、彼は僕のような選手とは対戦したことがないし、強烈なプレッシャーを感じたことがない。彼の打撃のレベルは非常に高いが、それは僕も同じだ。彼はグラウンドのレベルもかなり高いが、それに関しては私の方が上だ。あらゆる面で僕の方が優れているんだ。それをオクタゴンで証明するよ」と自信たっぷりに語り、

「自分がチャンピオンだと信じること。それが全てだ。信じられなければ、やる気も起きない。時々、ケガで苦労することもあるが、最終的に強い心で打ち勝っていく」とタイトルショットへの意気込みを語った。

試合はウスマンが序盤から組みついてテイクダウンを狙うが、エドワーズは踏ん張って打ち合いに持っていこうとする。ウスマンは執拗にテイクダウンを狙い、ラウンド後半から試合はグラウンド勝負に。ウスマンがガードポジションの上になるが、エドワーズは、下から三角締めを狙いつづけ、ウスマンの攻撃を封じた。

2R、ウスマンが左のヘビーショットを決め、朦朧とするエドワーズをテイクダウン。エドワーズはすぐに回復し、立ち上がるが、ウスマンが人間離れした身体能力で常にプレッシャーをかけ続け、試合を有利に進める。

最終回が始まると早々にウスマンがエドワーズをテイクダウン。何とか抜け出そうと立ち上がるエドワーズの足やボディに、コンスタントに膝を入れつつ強烈なプレッシャーをかける。再びテイクダウンを取るとウスマンは容赦なくパウンドを打ち込み、試合を常にリードしていった。試合は判定に持ち込まれ3-0でウスマンが勝利を収めた。

この勝利に対して、ウスマンは「これは僕の本当の姿じゃないんだ」と語る。

恐らく判定勝利になったのが悔しかったのだろう。

「格闘技は僕の人生だ。これまでどの試合でもフィニッシュを決めて来た。ちょっとこれは納得いかない。僕は自分に厳しいんだ。またここにきて、本当の僕の実力を見せるよ」

と、今後の更に熱いファイトを観客に予告した。

だが、今回KO出来なかったのも無理はない。ここからエドワーズは大きく飛躍し、ウスマンの最大のライバルへと成長していくのだ。

勝ちきれぬ歯がゆさ

ウスマンはその後も3試合連続、判定勝ちとは言え3-0で完勝する。

だが、年に2試合程度と試合数も少なく、UFC運営や観客が期待する、血がたぎる熱いファイトやフィニッシュをなかなか見せられない中で、ウスマンの注目度は低迷していく。ウスマンのバックボーンであるレスリング力で相手を抑えつけ、ポイントを奪っていくファイトスタイルでは、どうしても大きな評価を得るのが難しいのだ。

だがウスマンは自身のウィークポイントを克服するために、決めきれない試合が続く中でも、キックボクシングに重点を置いたトレーニングを続け、レスリングと打撃を融合させ自身のスタイルを完成させつつあった。

次戦では、全く注目される事の無い中、まさかの6連勝と快進撃を続けるセルジオ・モラエスを迎える。このモラエスの連勝は「史上最も不可解な6連勝」と呼ばれ、試合内容も不利な状況から関節を決めての逆転勝利や、ギリギリのスプリット判定勝利という事から、今回こそ彼の実力が試される試合とみなされていた。

この試合でウスマンは明らかな成長を見せる。

巧みにスイッチして相手のタイミングをずらしながら、大振りの右フックでモラエスをなぎ倒し、負けじと手を出してくるモラエスのパンチを見切ってカウンターをお見舞いする。

劇的に打撃テクニックが向上したウスマンに押されていくモラエス。それもそのはずだ、異常な身体能力とレスリング力を持つウスマンに、不用意に飛び込む事など自殺行為なのだから、打撃で打ち負けてしまってはもうなす術がない。

そして激しいプレッシャーに押され後退するモラエスの顔面に、ウスマンのロケットランチャーのような右のパンチが炸裂し、モラエスはキャンバスに崩れ落ち、追撃に行くウスマンをレフェリーが止めて試合はストップ。

ついに念願のUFC初KO勝利を飾った。

MMA: UFC 210 - ウスマン vs ストリックランド
※画像URL:https://cdn.vox-cdn.com/thumbor/l7QxtsP-pmhUjXui9i5c8WIrz-I=/0x0:4614×3414/1820×1213/filters:focal(907×1091:1645×1829):format(webp)/cdn.vox-cdn.com/uploads/chorus_image/image/56637809/usa_today_10001750.0.jpg(MMA MANIAより引用)

試合後ウスマンは「ウェルター級の選手で他にこうなりたいやつは居ないだろうな。俺はウェルター級の問題児だ。誰でもいい。次にこうなりたいやつは誰だ?」と強気に語り、同時にトレーニング・パートナーやコーチの功績を称えた。

「モラエスは非常に優れた柔術のスペシャリストだが、俺のジムには様々なタイプのスペシャリストが居るんだ。素晴らしいメンバーが揃っている。俺はそんなスペシャリスト達を常に見てきたし、あらゆることを試してきた。いつでも、どこでも、誰でもかかってこい。俺が問題児だという事を教えてやる」

ウスマンは次の試合でビッグネームとの対戦相手を望み、元ライト級王者のハファエル・ドス・アンジョスを引き合いに出した。 ドス・アンジョスは今年初めにライト級からウェルター級に転向し、連勝を続けている。

「RDA、お前が俺の階級に入り込んできて、タイトルを狙うだって?本気かよ?ちゃんと順番待ちしとけよ。俺がやつを蹴落として、ライト級に返してやるよ」

と、今迄になく挑発的な口調で観客を沸かせた。

ウスマンはハファエルの他に、ルビー・コヴィントンとの対戦を熱望したが、コヴィントンは何度もウスマンの対戦要求を断ったとされている。「とされている」と言うのは、両者の言い分が食い違っているためだ。

次戦のエミリー・ウェバー・ミークとの対戦の前に、ウスマンはインタビューで

「多くの人は知らないだろうけど、(コビントンと僕は)このカードのメインイベントになるはずだった。しかし、またもや彼は試合を辞退し、今に至る。このままではいけない。逃げるのも良いだろう、だが逃げ切れると思うなよ」と憤りった気持ちを表明したが

一方のコヴィントンもウスマンが3度にわたって対戦を断ったとして彼を非難している。

こうなると言った言わないゲームだ。

さらウスマンは「2人の勝負は運命づけられている」と語り、かつて秋休みをジョン・ジョーンズと過ごした、アイオワの寮の同じ部屋に翌年コヴィントンが入った事や、同じフロリダ州に住み、敵対するジムに所属している事も引き合い出して、彼が宿命の敵だという事を強調した。

エミリー・ウェバー・ミークは今回がUFCデビュー戦。MMA12戦9勝でそのほとんどをKOでフィニッシュしているハード・ストライカーだが、ウスマンの目には上位のファイターしか映っていないようだ。

2018年1月14日に行われた試合は、終始得意のレスリング力でミークを圧倒したが、「次こそこの男にタイトルを!」と思わせる程の見せ場は無いまま、3-0で判定でウスマンが勝利。

試合後のインタビューでは

「ミークは俺にはついてこれないって言ったろ?。誰もついてこれないさ。だから、この階級の選手はみんな俺から逃げているんだ。今こそ、ランキング上位と戦う時だ。コルビー・コビントンがいい。彼はおしゃべりが好きだから、俺が黙らせてやるよ。ダナ・ホワイト、ゴーサインを出してくれ!」

残念ながら、次戦でもコヴィントンやアンジョスとの試合は実現しなかったが、一度ウェルター級タイトルに挑戦し、タイロン・ウッドリーに敗れているデミアン・マイアと対戦。マイアは攻守のバランスが取れ、かつ打撃とグラウンドを高いレベルで融合させているUFC歴10年以上を誇る超ベテランファイターだ。

この試合でもウスマンは泥仕合を展開し、判定勝利だったものの、後日この試合結果を記した記事には

「あくびの出るような試合」「これは後世に記録を残すためのもの以外の何物でもない」などとこき下ろされた。

この批判に対しウスマンは

「俺はどの試合でも相手を圧倒してしまうから、見ていて退屈になるんだ、だって相手は何もすることがないんだから。ファイト・オブ・ザ・ナイトと呼ばれるような試合は、両者が殴り合い、打ち合いをしているからこそ、ファイト・オブ・ザ・ナイトになるんだ。誰も一方的に相手を圧倒するような勝ち方を見たがらないんだ」そして「僕には相応しいダンスパートナーが必要だ」と、皆が興奮する試合をするためにはより強い対戦相手が必要だと語った。

 

花開く才能

試合内容が評価されていないとはいえ、やはりUFC参戦から無敗の7連勝という戦績は無視出来るものではない。ついに次戦では念願の、ハファエル・ドス・アンジョスとの試合が実現する。

ウスマンは試合前に

「オクタゴンの中で誰かを殺してしまうかもしれない」と、暗にアンジョスを威嚇し、「相手が前に出てきて、僕も相手も打ち合い、観客が熱狂するような試合は憧れるね。いつか、この試合ではないかもしれないが、そういう試合がしたい。彼をノックアウトするのがとても楽しみだよ」

と、勝利への確信と自身の中にある歯がゆい思いを語った。

アンジョスはこの試合の約5ヵ月前にウェルター級暫定王者決定戦でコルビー・コヴィントンと対戦し、判定で敗れたものの善戦している。

試合前にアンジョスは

「この試合はタイトルに向けて大きな一歩になると思う。他の名前は出てこないね。金曜日が待ち遠しいよ。多くの人から、『おいおい、レスラー(コヴィントン)に負けた後で、またレスラーと戦うのか?もっと簡単な試合を受けるべきではないのか?』と言われたが、俺は決して簡単な試合など受けないよ。相手を選んだことはない。彼を踏み台にしてタイトル戦線に復帰する。彼はタフな選手だけど、王座奪還ためにやらなければならないんだ」と正々堂々とウスマンに立ち向かう姿勢を見せた。

また、アンジョスはブラジリアン柔術の達人で、これまでに1本勝ちで10勝も挙げている。ウスマンの唯一の敗北も、柔術の技によるものだけにこの相手には注意が必要だ。

試合では、前半こそウスマンが圧倒的なパワーでアンジョスを押さえつける展開が続くが、2Rでアンジョスがウスマンの左腕にアームロックを極めかけ、会場がどよめく。3Rに入ると、全体的にレスリングに持っていく事が多いウスマンが打撃で前に出始める。強烈な右ストレートをヒットさせ、アンジョスは鼻筋から流血。さらにケージに追い詰めてハンマーのような拳をボディに連打。

アンジョスも反撃を試みるが、ウスマンのディフェンス能力はかなり高く、有効打には繋がらない。

4Rには、アンジョスをケージの端に追い詰めて、激しい左右のラッシュ。アンジョスの顔がみるみる赤く染まっていく。中盤、アンジョスをテイクダウンすると、コンスタントに肘やパウンドを浴びせ続ける。明らかにスタミナが切れかけているアンジョス。最終R、ウスマンにケージに詰め寄られるとアンジョスはよろけながら自らキャンバスに膝をつく。ウスマンのスタミナに限界は無いのか、さらに攻勢を強め、上から激しいパウンドを落としていく。ここでアンジョスが起死回生を狙ってギロチンチョーク。極まっているように見えたが、ウスマンのタフさはコーチ曰く“火星人並み”である。このピンチを切り抜けて再びアンジョスの顔面にパウンドの雨を降らせる。

終盤もウスマンは、圧倒的なフィジカルとグラウンドテクニックでアンジョスを圧倒し続けて試合終了。試合前の宣言通り、ウスマンは殺意さえ感じる鬼気迫るファイトで観客を魅了した。しかしアンジョスにとってはこの夜はまさに悪夢(ナイトメア)でしたなかっただろう。

試合は判定となったが3-0でウスマンが文句なしの勝利。見事に初のファイト・オブ・ザ・ナイトに輝いた。

試合後ウスマンはマイクを取ると、「俺は使命感に燃えている。チャンピオンになり、ウェルター級のベルトを肩にかけるためにこの道を選んだんだ。そして、今夜、いよいよタイトルに近づいたんだ」とタイトルへの強い想いを語った。

念願のタイトルショット!

ここまで無敗で連勝を続けていながらもその実力がなかなか評価される事のなかったウスマンだが、この試合で一気に評価を上げ、ついにウェルター級チャンピオン、タイロン・ウッドリーへの挑戦権を得る。

ウッドリーは3年近くに渡りウェルター級タイトルを保持し、KOでも一本勝利でも決める力を持ちつつ、テイクダウン防御率97%と高い能力を示しているが、実は自分が勝てそうな対戦相手を厳選して戦っているとして、ディナ・ホワイトや、ホワイトを支持するファンから厳しい指摘を受けていた。その事もあってか、ウスマンはウッドリーを舐めてかかり

「お前を倒すためには30%の力も必要ない」とこき下ろし、「誰もまだ俺の本当の力を見てはいない。俺の力はまだまだこんなものじゃないんだ。ベストのファイトをしてくれよ。俺は下がる事はないぞ。例えお前が俺にパンチを当てても、前に前に出続ける。一晩中でもな」と、いつも以上に強気で語る。

一方ウッドリーは「彼はフィジカル、精神の両面でまだ僕のレベルには達していないよ」と5歳年下のウスマンに先輩風を吹かせ、さらに「僕は君の師匠だ。師匠に軽口を聞くやつがどこに居る?そんなヤツ見た事無いぞ」と師匠気取りになってウスマンをおちょくった。

試合直前、ウスマンはこの試合と家族に懸ける想いをインタビューでこう語る。

「タイトルを取ったら、家に飛んで帰るかもしれない。俺はそういう人間なんだ。早く家に帰って、娘にベルトを渡したいんだ。彼女にベルトで遊んでもらいたい」

そして

「何年もかけて積み上げてきたハードワークを、今こそ解放する時なのかもしれない」続け「娘や父さん、母さんにベルトを見せて、自分の子供が成し遂げたことを誇りに思ってもらいたいんだ」と締めくくった。

2019年3月2日に試合が行われた。

試合は、ウスマンが終始強烈なプレッシャーをかけて、これまでほとんど倒された経験のないウッドリーを何度もテイクダウン。グラウンドを常に支配し、ボディショットやショートエルボーで散々ウッドリーを痛めつけていく。

4R後半、激しい乱打戦の中で何度かウッドリーの強烈なパンチが決まるが、ウスマンはその倍以上のヘビーショットをウッドリーにヒットさせ、打撃戦でもウッドリーを圧倒する。

最終R、猛牛の如く前に出るウスマンの首に腕を回し、ウッドリーがギロチンチョークの体勢に入ったが、ウスマンは何と首を締められたままウッドリーを持ち上げてテイクダウン。ウスマンに激しいボディショットやパウンドを延々と叩きつけられ、終了のブザーが鳴るまでウッドリーはナイジェリアの悪夢にうなされ続けた。

判定を聞くまでも無く勝敗は誰の目にも明らか。ウスマンは勝利を確信して、オクタゴン内に愛する娘を招き入れ、娘と寄り添いながら判定のアナウンスを待つ。結果は3-0で、大差をつけてウスマンの勝利。

判定のアナウンスの途中で既にウスマンは感極まって涙を流していた。

連勝を続けながらも周囲から正当な評価が得られず、もがき続けたウスマンだったが、誰も文句のつけようの無い、最高のファイトと共に、ナイジェリア出身の選手で初めてUFCのタイトルを手にしたのだった。

試合後にウスマンは

「まず、タイロン・ウッドリーに拍手を送ろう。このチャンピオンがオクタゴンに来て、そして支配してきた。多くの人があの男を嫌っているが、史上最強のウェルター級を語るとき、彼の名も必ず登場するだろう」と試合前のトラッシュトークとは打って変わってウッドリーへのリスペクトを示し

ウッドリーも

「彼は一撃必殺のパンチとテイクダウンで素晴らしい試合をしていた 。プレッシャーも半端じゃなかった。彼に脱帽だ。エールを送るよ。願わくばもう一度戦いたい。次は違うパフォーマンスを見せるよ」とウスマンにリスペクトを送り返しつつ、再戦の意志も見せた。

悪童に与えた罰

ウスマンがタイトルを獲得した夜、オクタゴンを囲む観客たちが新チャンピオンに祝福を送る中、ただ一人、その勝利を素直に喜べない人間がいた。リングサイドで肩に“暫定”チャンピオンベルトをかけて立っていたコルビー・コヴィントンである。

そもそも、本来は暫定王者という肩書きを持っているコヴィントンにこそ、タイトルショットの権利があるはずだった。実際、殆どの格闘ファンやアナリストも、今回のウッドリーの対戦相手は、コヴィントンが務めると思い込んでいた。

その暫定王者を差し置いてウスマンがタイトルショットの権利を得た事にコヴィントンは大々的に不満をアピールし、更にはウスマンの公開練習に拡声器を持って乱入。暴言を吐き続けて、最終的にはホテルのセキュリティに追い出される始末。

さらにウッドリーとの試合翌日にラスベガスのビュッフェでコヴィントンと鉢合わせしたウスマンが、マネージャーも巻き込んでの口論となり、警備員に制止される程にヒートアップ。

とにかくタイトル戦を行わないと気が済まないコヴィントンは「次はタイトル戦か、UFCを辞めるかだ」と、UFCとの契約解除もちらつかせて駄々をこねる。

コヴィントンの要求がようやく通り、次戦の試合でついに宿命の相手、ウスマンvsコヴィントンとのカードが組まれた。

コヴィントンは数々の暴言、暴走でアンチファンも少なくないが、彼の人間性はともかく、コヴィントンがとてつもないファイターであることは誰もが認めている。

フィニッシュ率は高くはないものの、ウスマンと同じレスリングをバックボーンに持ち、高いレスリング力と精神力、無尽蔵のスタミナで長期戦を得意とする、ウスマンと同様にタフな相手だ。

これまでの舌戦やトラブルに加え、2018年に他界した、ウスマンが所属するジムの創始者を引き合いに出し「心臓発作はお前(ウスマン)が俺から逃げ続けたから起こった」「彼は地獄から試合を見守っているだろう」という、一線を越えたコヴィントンの発言にウスマンは大激怒。良くも悪くもこの試合は注目の一戦となった。

2019年12月14日、宿命の戦いが始まる。

MMAを始めてから、磨き続けてきた打撃にいよいよ自信がついてきたか、ウスマンはテイクダウンを狙わず、正面からコヴィントンと打ち合うが、ラウンド中盤からコヴィントンの強烈な左フックカウンターを喰らい、左右のラッシュや膝などで圧倒される。

2Rからウスマンがコヴィントンの攻撃を見切り始め、やや優勢に。コヴィントンのワンツーのラッシュを全て見切って、連続でカウンターを決める場面では、場内からどよめきが起こった。

3Rに入ってもウスマンが優位に試合を進める中、ラウンド後半、ウスマンがコヴィントンからサミングを受け一旦試合はストップ。ラウンド終了間際にはコヴィントンもウスマンからサミングを受けたと主張。しかしラウンド終了後ウスマンは「目に入ってないのは分かってるぞ!」とコヴィントンに訴え、一触即発の空気に。

その後も一進一退の激しい打ち合いを繰り広げるが、ウスマンが一歩リードし、的確なカウンターをコンスタントに当て続け、コヴィントンの顔の右半分を血に染めていく。

最終ラウンド後半、乱打戦の中で、ウスマンの右のビッグショットがついにコヴィントンの顎を捉え、よろめくコヴィントンにウスマンが猛ラッシュ。

足元をふらつかせながらも抵抗するコヴィントンに、ダメ押しの強烈な右ストレートを叩きつけると、コヴィントンは床に転がり、ウスマンが猛追撃を見せたところで試合はストップ。

この劇的なKO勝利に場内は阿鼻叫喚。

かつて「あくびの出るような試合」と揶揄されたウスマンの面影はもうそこには無く、瞬きする暇も無い激戦を繰り広げ、観客を熱狂させる”ナイジェリアン・ナイトメア” がそこに立っていた。

試合後、ウスマンは

「これは文字通りの決闘だった。彼はさすがにいろいろ言い過ぎた。一線を越えてしまったんだ。今日は4Rの半分の間、彼に罰与えて帰そうってずっと話してたんだ。まさにその通りになったよ」と、コヴィントンへの憤りを試合で晴らし、スッキリした表情で語った。

一方コヴィントンは試合後、

「レフェリーの誤診だ。サミングは全く無かった」というような事をツイートでほのめかしたが、ディナ・ホワイトは、試合後の記者会見で「コヴィントンはリプレイを見ていないに違いない」と皮肉めいたジョークを飛ばし、その主張は一笑に付された。

 

次々に名乗りを上げる挑戦者たち

次にタイトルへの挑戦を名乗り出たのは、ホルヘ・マスヴィダル。

彼はなんとUFCの最速KO記録の保持者である。17戦全勝でUFCに鳴り物入りで参戦し、デビュー戦も一本勝ちと快進撃を続けたベン・アスクレンを、たった5秒でマットに沈めて叩きのめし、実力者ネイト・ディアスにも勝利した、ベテランハードストライカーである。

ウスマン自身は彼の名前を知らなかったらしく、無名の選手とのカードに不満があったようだが、マスヴィダルの大げさなアピールによりこの試合は成立した。

2020年7月11日、試合は行われた。

前半は自慢の打撃でウスマンを圧倒していたマスヴィダルだったが、打撃では不利と見たウスマンが、組みついてグラウンドに持ち込み、完全にマスヴィダルの持ち味を奪って、終始グラウンドを支配し続けた。結果は3-0の判定でウスマンの勝利。

かつて「あくびの出るような試合」と言われていた頃のウスマンに近い試合で、アナリストや観客から不満の声がちらほら聞こえた。

スヴィダルも決して負けた気にはなっておらず、試合後に笑顔でウスマンと握手しながら、「あと何回か勝ったら、またやろうぜ」とウスマンに早くも次の挑戦を宣言した。

ウスマンは実はこの試合の2週間前に鼻骨を粉砕骨折していたことを明かし、この試合の後しばらく休養を余儀なくされる。

3度目の防衛戦でウスマンは、前試合でタイロン・ウッドリーを破り6連勝と、絶好調のギルバートバーンズを迎える。

実はバーンズはウスマンのブラックジリアンとは元チームメイトで、2020年にウスマンがキルクリフFCに移籍するまでとても良い関係を築いていて、ヘッドコーチが不在の時はウスマンがレスリングの指導をし、バーンズが柔術を指導してジムを引っ張り、互いに尊敬しあっていたという。

バーンズは試合前に「チャンピオンに君臨する準備は既に出来ている。トップ3の選手はもう逃れられないよ」と強気に語ったが、

ウスマンはこの発言に対して「試合前は誰だってそう言うものだ。自分に自信が持てずにどうやって戦うんだ?」と、元チームメイトが相手だけにいつもの挑発的な口調は控えて冷静に語った。

試合は、1R序盤でいきなりバーンズの強烈な右フックがウスマンの顔面に炸裂し、ウスマンがキャンバスに拳をつける。ウスマンにハイキックをガードされたバーンズは、その勢いで床に寝ころびウスマンを誘うが、これには付き合わない。ここまでの戦いを見ていくと、ウスマンは打撃の得意な相手にはレスリングで攻め、柔術やレスリングが強い選手とはスタンディングで戦うというように、非常にクレバーに試合を構築していることが分かる。この戦法を「逃げ」と捉える人もいるかもしれないが、打撃、レスリングともに一流の技術を持っているからこそ出来る戦い方である。一進一退の打撃戦が続く中、2R中盤にウスマンの強烈な右フックがバーンズにヒット。それを皮切りにウスマンはギアを上げて激しくバーンズを追い詰める。

そして3R序盤、バーンズの左に合わせて放ったウスマンのジャブがクリーンヒットし、バーンズはキャンバスに真後ろに倒れる。意識が朦朧としているのか、バーンズは立ち上がる事もせず、キャンバスに背中をつけ呆然としている。その上からウスマンが猛烈なパウンドの連打。次々にヘビーショットがヒットし、ここでレフェリーが試合をストップ。ウスマンの劇的なKO勝利で元同門同士の対決は幕を閉じた。

この試合後、バーンズのすぐ後ろでタイトル再挑戦の順番待ちをしていた、マスヴィダルをウスマンが指名。今度こそ、マスヴィダルに完勝して、世間を、そしてマスヴィダル自身を黙らせたい所だ。

記者会見から両者はヒートアップ。

マスヴィダルが「前回は俺の足をたっぷり揉んでくれたな。お前の特技はマッサージだよ」と、前回レスリングに拘ったウスマンを揶揄すると

ウスマンも「オーケーオーケーお前はこれまでに14敗もしていて、UFCでも7敗。ここ6戦の戦績は3勝3敗。お前がここに座れているのは、俺が選んだお陰なんだよ」と、戦績と地位を使ってマウントを取る。

マスヴィダルはヒートアップし「顔面を潰して骨もバキバキに折ってやる」と息まいた。

試合は2021年4月24日。マスヴィダルのホーム、フロリダで行われ、会場はマスヴィダルの応援ムード一色。ウスマンにとっては完全アウェーな空気の中の試合開始となった。

前回の教訓を踏まえてこの試合の為にレスリングを必至にトレーニングしてきたというマスヴィダルだが、なんとウスマンは自らスタンディングでの打ち合いを選び、激しい打撃戦を繰り広げる。

ウスマンは巧みなカウンターでマスヴィダルの体力を徐々に削っていき、2R前半、ショットガンの様な右ストレートがマスヴィダルの顔面に炸裂。マスヴィダルはキャンバスに崩れ落ち、そこに容赦ないパウンドの嵐を浴びせた所で試合はストップ。

ウスマンは狂喜乱舞して金網を飛び越え、ディナ・ホワイトとタッチをして、大声で勝利の雄たけびを上げた。

マスヴィダルとっては実に14年ぶりのKOによる敗北。この結果を受けてマスヴィダルは

「彼は最初の試合で見せなかったパワーを見せた。自分の力を過信すると、こうなるんだ。レスリングの展開になると思っていたし、25分間レスリングする準備はできていた。だが世界中のポイントを彼は独り占めしたようだ。これ以上何も言うことはない。彼は正々堂々と勝利した」

と、真正面から打ちのめされた今回ばかりは、ウスマンの強さを認めざるを得なかった。

 

悪童再び

かつてウスマン自身が夢見ていた、”観客が熱狂するよう試合”を2戦連続で披露し、UFCで無傷の14連勝、ウェルター級タイトル4回連続防衛と、文句なしの強さを見せつけるウスマンだったが、そこに水を差す男が一人。そう、あのコルビー・コヴィントンだ。

コヴィントンがサブミッション・ラジオという番組に出演し、前回のウスマンとの試合について聞かれると

「食中毒にかかっていて、水分補給キットを使わざるを得ない状況だった」とまことしやかに話し、さらに「小さな怪我、そしてレフェリーの不公平な判定、その状況下で俺は実力を出し切れなかった」と、実力では負けていないという想いをアピール。

記者会見では更に激しくウスマンを罵り、「やつはドーピングをしている。早くアイツを検査してくれ」と根も葉もない言いがかりをつける始末。

ウスマンも流石に「コルビーの事はファイターとしては尊敬しているが、人間としては腐ったゴミだ。どう育てたらあんな性格になるんだ?」と呆れかえった様子だった。

この男を黙らせるにはキャンバスの上で叩きのめすしかない、コヴィントンも散々言い訳しておいて負けるわけにはいかない。

両者、並々ならぬ闘志を漲らせてオクタゴンに向かう。

2021年11月6日、試合が始まる。前回の対戦とは違って、コヴィントンはグラウンドでの試合展開に持っていこうと果敢にタックルをしかける。しかし、UFCの中でも随一のタックルディフェンスを持つウスマンはビクともしない。

2R、ウスマンがラウンド終了間際に、強烈な2発の左フックをコヴィントンの顔面に叩きつけ、二度キャンバンスに倒し、バックを取ってボディショットの連打を入れた所でラウンド終了。

コヴィントンはブザーに救われた。

一旦窮地に立たされたコヴィントンだが、3Rが始まると、まるで何事も無かったかの様に、ミドルキックやパンチのコンビネーションを繰り出しながら勢いよく前に出ていく。4Rに入ると更に攻勢を強め、左右の強力なビッグショットを振り回しながらウスマンにプレッシャーをかける。ラウンド後半に強烈な右のミドルキックがウスマンのボディに炸裂。 ウスマンが珍しく苦痛に顔を歪める。ウスマンも負けじとカウンターを入れていくが、流れはややコヴィントンに傾いたまま4R終了。

最終R、ウスマンは気合いを入れ直し、コヴィントンのビッグショットの合間を掻い潜ってボディ、顔面と上下にカウンターを入れていく。コヴィントンの左ハイで一瞬体勢を崩す場面もあったが、持ち直してコヴィントンの猛攻に応戦していく。最後はまさに死力を尽くしたどつき合い。

試合が終わるとコヴィントンの方から笑顔でウスマンに近寄り、これまでのトラッシュトークは試合を有利にするための作戦だったことを認め、互いの健闘を称えあった。

試合は判定に持ち込まれ、3-0でウスマンが勝利。2人のレフェリーが1ポイント差だった事からも、コヴィントンが善戦した事が分かる。

試合後ウスマンはマイクを取り、「この日までに散々言い合い、傷つけあったし、これからもそんなことがあるかもしれない。だが、アイツは本当にタフなクソ野郎だ。こんなタフな野郎とオクタゴンの中で過ごしたりしたら、尊敬の念がどうしても沸き起こって来るもんだ」と、あれだけ憎み合った宿敵に、初めて心からのリスペクトを示した。

真正面からぶつかり合ったコヴィントンもこの日ばかりは潔く負けを認め、ウスマンを称えた。

 

7年越しの再戦

宿敵コヴィントンやマスヴィダルを二度破り、タイロン・ウッドリーが4連敗でオクタゴンを去った今、いよいよウスマンと戦う相手は居なくなった・・・と思われたが、ウスマンが栄光の道を走り続けて来たその陰で、一段、また一段とタイトルショットへの階段を上り続けていた者がいた。

その名は、レオン・エドワーズ。ウスマンがデビュー戦で戦った男である。

エドワーズはあの日、ウスマンに敗れた事でタイトル戦線から外れ、スポットライトを浴びる事の無いまま、それでも一年に2戦づつ、着実に勝ち続け、あの敗戦から7年の月を経て、ついにタイトルショットのチャンスを迎えたのだ。

一方ウスマンはマーベル映画のブラック・パンサー2への出演が決まって、撮影に時間を裂き、生活もドンドン派手になっていく。その様子を見て、記者会見中に「集中力を欠いているのでは?」という質問が飛ぶと

「俺は俺の労働倫理でここに居る。成功への欲求が俺を更に前進させる。集中力が無くなってるなんて思ってたら、最悪な夜を迎える事になるよ」

と軽快に語ると、エドワーズは

「自分がNo.1だと信じている。それを証明するために来たんだ。彼は今そこでTシャツを自慢気に来ているだけだ。問題ないよ」と全身緑色に輝く上下の服を纏うウスマンを揶揄する。

ウスマンはそれに対し

「気にならないよ。誰もがチャンピオンの持っているものを欲しがるんだ。お前だってチャンピオンになったらこんな服装をするんだよ。ただの妬みだ。お前が俺の立場なら、こんな服を着るんだ」

さらにエドワーズが

「彼は他の黒人とは違うんだ。高価なものに囲まれて・・・」と言いかけると

「いいからほっといてくれ!好きに生きさせてくれよ!」とウスマンが、うんざりしたように繰り返す一幕もあった。

大方の予想は、圧倒的フィジカルと打撃テクニックを持つウスマンが当然優勢と見られていたが、タイトルを目指してひたすら練習に打ち込んできたエドワーズと、贅沢な暮らしに慣れ、ライバル達にも完勝し、心に余裕が出来たウスマンという、両極に位置する両者のメンタルの部分がどのように作用するのか、注目が集まった。

そして試合当日。

これまで余裕をかましてきたウスマンだったが、思わぬ苦戦を強いられる。グラウンドでは無敵を誇っていたウスマンが、高度なブラジリアン柔術のテクニックにうまくコントロールされ、三角締めを極められそうになる場面も。ウスマンも得意のカウンターを当てていくが、打撃戦でもグラウンドでも両者の力は拮抗し、その後も一進一退の攻防が続く。

迎えた最終ラウンドは無尽蔵のスタミナを持つウスマンが、やや疲れて来たエドワーズを若干リードし始める。ここまで互角に戦ってきたとはいえ、若干ウスマンが有利で試合を終えるかという所で、エドワーズの鋭い左のキックがウスマンの顔面に炸裂。完璧な角度とタイミングで入ったこの蹴りで、ウスマンは魂ごと吹き飛ばされたかのようにキャンバスに崩れ落ちる。

なんと、エドワーズのニックネーム”ロッキー”に相応しい、まさかの大逆転KOで試合は幕を閉じ、ウスマンは約三年間守り続けて来たベルトをついに奪われた。

レオン・エドワーズがカマル・ウスマンをノックアウト
※画像URL:https://ichef.bbci.co.uk/onesport/cps/976/cpsprodpb/F905/production/_126394736_gettyimages-1416166644.jpg(BBC SPORTより引用)

試合後にエドワーズは

「みんな俺には無理だと思っていただろ。だけど見てくれ。パウンドフォーパウンド、ヘッドキック、それだけだ」と短くも強い想いが込められた言葉を放った。

実に9年ぶりの敗戦、そしてキャリア初のKO負けを喫したウスマンだが、決して心の炎は消えていない。早速エドワーズとの3度目の対戦の日程、条件を模索しているようだ。

また、ヴィクトリーロードを邁進してきたウスマンの陰で、一歩一歩タイトルに近づいて行ったエドワーズ同様、ウスマンとエドワーズが凌ぎを削る裏側で、カムザット・チマエフが両者の首を狙って迫っている。

ウスマンがこの敗戦をバネにどう化けるか、新たな勢力とどう戦っていくのか、これからも”ナイジェリアン・ナイトメア” カマル・ウスマンからまだまだ目が離せない。

 

カマル・ウスマン・選手の知りたいトコ!

 

カマル・ウスマンの車庫はスーパーカーだらけ?

ウスマンは度々取材の中で、その目を見張るべきスーパーカーのコレクションを披露している。

その中でもランボルギーニ・ウルスは推定価格3300万円、ロールスロイス・ゴーストは推定価格4000万円と、桁違いの高級車だ。

※画像URL:https://autojosh.com/wp-content/uploads/2020/07/usman-kamaru-car-autojosh-10.jpg(AutoJoshより引用)

電気すら通っていないナイジェリアの村で育ったウスマンがこんな生活を送るようになるなんて、”ナイジェリアン ナイトメア” と呼ばれる彼の生活は、誰もが羨む夢の様な生活のようだ。

ウスマンの娘がSNSで人気?

なんとまだまだ幼いウスマンの娘、サラミ・ウスマンは、両親の監視の元、自身のインスタアカウントを所持し、なんとフォロワーは1.7万人。

ちょび髭をつけたキュートな笑顔の写真や、ウスマンと一緒にダンスを踊る動画もアップしている。

可愛らしいサラミとウスマンの子煩悩な一面が見られるインスタも是非チェックしてみて欲しい。

 

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まとめ

 

ここまで、”ナイジェリアン・ナイトメア” カマル・ウスマンのストーリーを見てきたがいかがだっただろうか?

電気も通っていないナイジェリアの街に生まれ、アメリカに来てからはサッカーに打ち込むも怪我により断念。代わりに始めたレスリングで輝かしい成績を残してUFCにやってきたが、決めきれない試合が続き、周囲からの興味を一度は失ってしまった。しかし、弛まぬキックボクシングのトレーニングが実を結び、観客が熱狂するような試合を見せられるようになり、文句なしのUFC王者に。

2022年8月についに王座陥落となったが、まだまだ彼の闘志は消えず、リベンジのチャンスを伺っている。

デビュー2戦目の敗戦が彼を大きく成長させたように、エドワーズに敗れた事でまた一段とウスマンが強くなって返って来る事を期待してしまったとしても、決して欲張りでは無いだろう。

彼にはそれだけのポテンシャルとセンス、そして信念があるのだから。

エドワーズとの再戦、そしてその後はカムザット・チマエフが急襲してくるか、コヴィントンがまた割り込んでくるのか、それともまた新たな伏兵が現れるのか・・。

いずれにしても、この群雄割拠のUFCウェルター級が、未だにウスマンを中心に回っている事は間違いない。そんな更なる活躍、更に心を熱くさせるファイトを期待して、これからも皆さんと一緒に”ナイジェリアン・ナイトメア” カマル・ウスマンを応援していきたい。

※アイキャッチはUFCの公式HPより引用