“ザ・スパニアード”(スペイン人)という異名をもつフアン・アーチュレッタは、まさに情熱の国の民、コンキスタドールの象徴のような男だ。どんな相手にも後ろに下がることはなく、真っ向から勝負に行き、リスクを厭わずに攻撃を仕掛ける。ベラトールで大成功を収めてるとまでは言えないアーチュレッタだが、その漢気を感じるファイトスタイルは多くのファンの心を掴んでいる。
一体彼の不屈の闘志はどこからやって来たのか、そしてどのような経緯でベラトールにやって来たのか? 今回は“ザ・スパニアード” フアン・アーチュレッタを丸裸にしていこう。
フアン・アーチュレッタのプロフィール
名前 : フアン・アーチュレッタ
生年月日 : 1987年9月13日
出身地 : アメリカ・カリフォルニア州
身長 : 173cm
体重 : 61Kg
戦績 : 26勝4敗(11KO 1SUB)
階級 : バンタム、フェザー級
所属 : ザ・トレイニング・ラボ
HB ULTIMATE & GRACIE BARRA
獲得タイトル : KOTC4階級王者 ベラトールバンタム級王者
入場曲 : by Yeah Yeah Yeahs 「 Heads Will Roll (A-Track Remix)”」
バックボーン : レスリング
公式 HP : ー
Twitter : @jarchmma
Instagram : Juan Archuleta
Youtube ー
アパレル ー
ファンクラブ ー
今年で35歳になったアーチュレッタ。年齢だけで言うとベテランの部類に入るが、プロ歴はまだ10年足らずと、まだまだ成長の余地は残されている。ここからはアーチュレッタがどのようにしてここまで強くなったのか、彼の幼少の頃まで遡って見ていこう。
レスラーからMMAの道へ
生まれながらのファイター
アーチュレッタは1987年9月13日、カリフォルニア州でスペイン系とメキシコ系の両親の元に生まれる。血気盛んな兄が4人もいて、小さなころから兄達の脅威にさらされ、常に戦いを強いられていたと言うアーチュレッタは、既に戦う事を運命づけられていたのかもしれない。
アーチュレッタ自身も「俺は戦うために生まれた」と後に語っている。
毎日兄たちの力に屈する日々の中、両親が彼をかばってくれる事もなかった。
「父はとても忙しく働いていたので、幼い時は父と殆ど会う事ができなかった」と、当時を振り返る。
彼の父は、家族が食卓に食べ物を並べ、屋根のある場所で生活をするために外で必死に働いた。彼の父もまた、戦っていたのだ。子供のころは、そのことにあまり感謝しなかったというアーチュレッタだが、今は家族のために父親が払った犠牲を理解している。
「私たちが生きていくために、父は犠牲を払ってくれたのです」。
そんな厳しい環境で育ったアーチュレッタは幼少の頃からレスリングに親しみ、大学時代は日本のPRIDEのリングでも大活躍した、ダン・ヘンダーソンの父、ビルの指導の下で目覚ましい成長をみせた。その結果、サクラメントシティ・カレッジ時代はNJCAAオールアメリカンに輝き、パデュー大学に編入してからはNCAAディビジョン1で活躍した。
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レスリングに明け暮れるなか、アーチュレッタは総合格闘技が経済的に成功するために大きなチャンスだと気づいた。
アーチュレッタは、卒業後、電気技師の職を持ち、フルタイムで仕事をしながらも地道にトレーニングを重ねてプロデビューを目指した。
MMAプロデビュー
アーチュレッタのキャリアは、カリフォルニアのローカル団体から始まった。2013年8月に初戦、デイヴィッド・デュランを相手に判定勝利でデビュー戦を飾ると、翌年の7月、8月、10月と超タイトなスケジュールの中で3戦し全勝、しかも全てTKO勝利と、圧倒的なポテンシャルを見せつけて快進撃を続ける。
さらに同年11月、同ローカル団体のバンタム級タイトルマッチに挑戦。アーチュレッタは、このハードなスケジュールで、まともな調整も難しい中、苦戦はしたもののスプリット判定で勝利。25歳という遅いデビューながら、あっという間に地元の格闘技界を制圧した。
2015年3月、アーチュレッタはアンドレス・ポンスに一本を取られ、初めての敗北を経験するが、この敗戦をバネに大きな進化を遂げる。
約半年の休養を挟んだアーチュレッタは、なんと同年10月10日、10月23日、11月21日と、メチャクチャな試合日程を組み、その全てで勝利。
そして、その2か月後の2016年1月、TFEという団体のフェザー級王座決定戦に挑み、迎えたルイス・ゲーラを3R2:39にTKOで降し、二団体の王者に輝く。
勢いにのるアーチュレッタは、さらなるステップアップのため、ベラトールに次ぐMMA団体の一つであるKOTCに参戦。2016年6月、アーチュレッタのこれまでの圧倒的な戦績が評価され、なんといきなりライト級タイトルマッチでのデビュー戦となった。結果は、2R0:41でTKO勝利。アーチュレッタは、KOTC初戦でいきなりの王者という衝撃のデビューを飾った。
総合格闘技でChampーChamp、つまり二階級制覇を行う事は非常に困難だという事は、これまでにそれを達成した者の少なさからもわかると思うが、アーチュレッタはコナーマクレガーよりも一足先に、KOTCの中で二階級制覇を狙う。
何とライト級タイトル戦が行われたわずか一カ月半後、アーチュレッタは1つ下の階級、バンタム級でのタイトルマッチを行い、3-0の判定で勝利して二階級制覇を達成!
さらに同年12月、もう一つ階級を落としKOTCフライ級のタイトルに挑戦。ただでさえタイトなスケジュールの中、短期間で2階級も落とすというだけでも非常に過酷なはずなのだが、アーチュレッタはフライ級王者のデリック・マンデルと5分5R、死力を尽くして戦い、3-0の判定でタイトルをもぎ取った! アーチュレッタは、なんとたった1年間の間に3つの階級のタイトルを獲ってしまった。
最高のチームと共に4階級制覇へ
MMAの経験も浅く、デビューも遅かったアーチュレッタが一体何故このような快進撃をする事が出来たのか、アーチュレッタ自身曰く、それには師匠でもあり親友でもあるUFCファイター、カブ・スワンソンの存在が非常に大きいという。
「カブと私はとても親密になり、今では何でも話すようになった」「彼は、ファイトの技術的な面だけでなく、ビジネス面も教えてくれるという意味で、本当に助かってるんだ。すべてを経験した人がいるということは、信じられないことだ。彼は僕を賢いビジネスマンに育ててくれて、賢くキャリアをナビゲートしてくれるんだ」
以上の言葉からも、アーチュレッタは、スワンソンには絶対的な信頼を置いているようだ。何と言ってもカブ・スワンソンは、世界最高峰のUFCのリングに2012年から2022年現在も現役で立ち続けているベテラン。そんな猛者をバックにつけ、また当時のベラトールバンダム級王者TJ・ディラショーとも練習し、さらにダン・ヘンダーソンからもレスリングの指導を受けるという最高の環境の元で、アーチュレッタの底知れないポテンシャルが大きく開花していったのだ。
その後、バンタム級、ライト級と階級を上げながら防衛戦に勝ち続け、2017年9月にはジュニアウェルター級まで階級を上げて4階級制覇に挑戦。アーチュレッタは、これまで最も重い階級への挑戦にも関わらずアデル・アルタミミを打撃で圧倒し、1R4:23にTKOで勝利。ついにアーチュレッタはKOTCの4階級の頂点に立ち、しかもその全てで現役王者という偉業を成し遂げる。
世界屈指の舞台、ベラトールデビュー!
衝撃のKO
UFC、ベラトールの陰に隠れていたKOTCでの事とは言え、この圧倒的な王者の名はやはりメジャー団体の運営の耳にも轟いていた。兼ねてからUFCへの参戦を匂わせていたアーチュレッタだったが、2018年始め、満を持してベラトールへの参戦を表明する。
ベラトールの新人に独占インタビューというのは滅多にないが、この大型新人の扱いは別格で、デビュー前から独占記事がウェブ上にアップされた。
その記事では「私はコナー・マクレガーよりも大きくなるつもりだ 」と誇らしげに語り、「自分が一番になることは分かっている。世界に知らしめるのは時間の問題だ」と世界の頂点に向けての自信を伺わせている。
その言葉に偽りなく2018年3月2日に行われたベラトールデビュー戦は、ウィリアム・ジョプリンに危なげなく判定の3-0で勝利。そして同年6月のロビー・ペラルタ戦は、アーチュレッタの存在感を強烈に世界にアピールする試合となった。
試合は序盤から両者激しい打撃の応酬。早い段階で試合を片付けようという両者の思惑が見て取れる。アーチュレッタのフライングでペラルタは一時グラつくが、それでも前進し一歩も引かずに打ち合っていく。
2Rもアーチュレッタが一時テイクダウンした以外は同じような展開が続き、3Rへ。
ゴングが鳴ると、足を使って回り込んでいくアーチュレッタ。相手との距離を測りながらペラルタを射程範囲に入れると、深くダッキングしてペラルタの意識を下に向けさせる。タックルか、ボディブローが来るかと予想されたアーチュレッタの動きだったが、ここからまさかの右オーバーハンドフック!
ショットガンの様に飛び出した右は、全く反応できないペラルタの顔面にクリーンヒット。ペラルタはまるで壊れた操り人形の様にキャンバスに崩れ落ち、その後追撃に向かったアーチュレッタはペラルタのスキンヘッドを文字通りタコ殴り。これを見て急いでレフェリーが試合を止め、電撃KO勝利! アーチュレッタはベラトール2戦目にして、一気に多くの格闘ファンからの支持を集めた。
止まらぬ快進撃
次戦では20勝中、一本勝ちが12回という、ブラジリアン柔術のエキスパート、ジェレミー・スプーンを迎える。全試合の圧倒的な勝利で勢いに乗り、最高のチームと共に練習に打ち込んできたアーチュレッタは強気にこう発言する。
「この階級ですぐにタイトルショットが出来ないなら、階級を上げて暴れてやってもいい。これだけは言える。どの階級でもタイトルを取れる。問題は誰が俺の挑戦を受けてくれるかだけだ、誰かいたら教えてくれよ」と、豪語。
「ジェレミー・スプーンを圧倒するのは俺だ。彼がギブアップするか、俺にノックアウトされるかそれだけだ。この試合ではジェレミー・スプーンを圧倒する。前にも言ったけど、俺は15分間戦うのが大好きなんだ。15分間続くことを願うよ。でも、もしチャンスがあればノックアウトかフィニッシュで終わらせる」と、勝利のビジョンしか見えない様子だ。
1Rから果敢に攻めていくアーチュレッタ。ジェレミーも負けじと捨て身の覚悟でフックを出しながら猛牛のように飛び込んでくる。立ち技、寝技と目まぐるしく展開が変わる中で、アーチュレッタの強烈なボディショットや、スピードが乗ったワンツーやフックがジェレミーにヒットし始める。
2Rに入ると、戦いは更に激しさを増し、組みつきからの激しいヒザ、ボディへのマシンガンパンチ、テイクダウンと、アーチュレッタが一方的に攻め立てる展開に。アーチュレッタはあらゆる技でジェレミーを追い詰め、なんとかゴングに助けられてジェレミーは生き延びた。
3Rも激しいアーチュレッタの爆撃は続き、ラウンド半ばに鋭い踏み込みからの、刺さるような右ボディブローがヒット。ジェレミーは悶絶しながら倒れこみ、その上から嵐の様なパウンドを叩きこむ。
最後は完全にアーチュレッタがグラウンドを支配し、ジェレミーに何もさせないまま試合は終了。
スペインの血を引くコンキスタドールが、3-0の判定で見事に猛牛を完封した。
息もつかせぬ激しい試合を15分間続け、観客を魅了したアーチュレッタは、いよいよ本格的にタイトルショットに手の届く位置まで前進した。次戦は試合1ヵ月前に急遽決定し、前バンタム級王者、エドゥアルド・ダンタスと拳を交える事になる。
王者の入れ替わりが非常に激しい、群雄割拠のバンタム級において、ダンタスはバンタム級タイトルを獲った後、タイトル奪われながらも奪い返し、2度もバンタム級の王座についている、紛れもない世界屈指のバンタム級ファイターだ。また、KO5回、一本勝利も7回と打撃でも寝技でもフィニッシュする決定力も持っている。2015年から怒涛の勢いで勝ち続け、連勝を17にまで伸ばすアーチュレッタの本当の実力を占う試合として、この試合は関係者やファンから熱い視線を浴びていた。
アーチュレッタの準備期間が短い事もあり今回は、減量の負担を考えてフェザー級のウェイトでの試合となる。
試合前ダンタスは、17連勝中のアーチュレッタを難しい相手だと思うかと聞かれると。
「そんな風には思わない。私がベルトを手にするための素晴らしい機会だと考えているよ」
と勝利を確信し、
「アーチュレッタはとてもタフな選手だが、ルールに縛られてプレーしている。リーチ、身長、スピード、全てにおいて私に分がある。戦いのあるところでは、私が優位に立つだろう」と互いの能力を分析した上で勝算が大きいという考えを示す。
一方のアーチュレッタは
「ダンタスはとてもタフで、ベラトールのチャンピオンに2回なったことがあるやつだ。サッカーのスペイン対ブラジルみたいなもので、エキサイティングな戦いになることは間違いないだろう」
と、サッカーでもライバル関係にある互いの祖国の意地をかけて戦う決意を明かした。
2019年6月14日に試合は行われた。
1R前半は距離を取りながらの一進一退の攻防が続き、後半はクリンチからのスクランブルで、ポジションの取り合いに。
2Rもアーチュレッタが足を使いながらチャンスを見て強烈なフックを出していくが大きなダメージにはならない。だが明らかに手数が多いアーチュレッタが押してきた印象だ。ラウンド終了間際、まるでダンタスを誘うようにアーチュレッタは後退し、自らケージに追い詰められるような動きを見せる。これに釣られてダンタスはケージ際で逃げ場を失ったアーチュレッタに猛ラッシュをかけようという刹那、アーチュレッタの閃光のような速さの右のフックが一閃。恐らくダンタスには何が起こったか、解らなかったのだろう。そのまま大の字にキャンバスに倒れ、追撃に行くまでもなく、完全にノックアウト。国をかけた、そしてタイトルショットをかけた大事な試合を、最高の形で終わらせた。
しかし、最高潮に達していたアーチュレッタの気持ちは、ある知らせによって一瞬にしてどん底に突き落とされる。なんと、アーチュレッタがケージで戦っている最中に、昔から可愛がってもらっていた叔父が心臓発作で亡くなってしまったのだ。
「家族はすべてだ」と彼は後日のインタビューに対し、涙を拭きながら語る。
「俺はいつも自分の文化を大事にし、俺の家系もその人生の中で常に何かと戦ってきた。そしてこれからは、俺は叔父と家族のために戦い続けるよ」
と、大切な叔父を亡くした喪失感を感じながらも、その叔父の為に前に進むと宣言。
“スパニアード”vs“ピットブル”
そんなアーチュレッタの元に、大きなチャンスがやって来た。2019年9月からスタートする、ベラトールフェザー級ワールドグランプリ開幕戦で、王者パトリシオ・“ピットブル”・フレイレの初戦の相手として、なんとパトリシオ本人からアーチュレッタが指名されたのだ。
パトリシオは2017年にフェザー級王座についてから2年間防衛に成功し続け、更には2019年5月にライト級の王座も獲得し、ベラトール史上3人目の二階級制覇を達成したベラトールを代表するファイターだ。
連勝街道を突き進み、まさに自信に満ち溢れているアーチュレッタは、兼ねてから対戦を希望していたパトリシオからのオファーを、まさに渡りに船と快諾。
試合前インタビューでアーチュレッタは、亡き叔父を偲びながら、
「叔父は俺が好きなことに打ち込む姿を誇りに思っていた、自分を信じ戦い続けるこの俺を、誰も止めることはできない」と並々ならぬ試合への覚悟を表明。一方パトリシオはアーチュレッタに対して
「アイツはとてもダイナミックで、トリッキーなタイミングを持っている。相手を自分のゾーンに入らせ、フェンスに近づき、体勢を変え、相手をおびき寄せてからオーバーハンドを放つんだ。だが、ヤツはT.J.ディラショーのショボいバージョンだ。ヘンリー・セフードは俺のコツ、俺と同じスタイルでオリジナルのディラショーを倒したから、俺はこの安っぽい模造品をボコボコにする」と相変わらずの狂犬ぶりでアーチュレッタに噛みつく。
このトーナメントの初戦は、同時にフェザー級タイトルマッチも兼ねて行われる。つまり、この試合に勝利する事で、フェザー級王座の獲得、そして世界フェザー級王座の優勝候補筆頭に踊り出る事が出来る。ちなみにこのグランプリの賞金はなんと100万ドル! アーチュレッタはこの一世一代の大舞台でどのような戦いを見せてくれるのか。
2019年9月28日に試合は行わた。
前半はグラウンド、組合の展開が多かったが、常にパトリシオがペースを握る印象で試合は進む。
3R、試合は大きな動きを見せる。ゴング直後から積極的に前に出ていくアーチュレッタだったが、たった一発のパトリシオのカウンター右ストレートによってキャンバスに叩きつけられ、上から激しいパウンドを浴びせられた後にギロチンチョークを仕掛けられる。アーチュレッタの動きが固まり、「終わったか・・」と周囲に予感させたが、アーチュレッタは親指をたてて続行をアピール。血まみれになりながらも、ピットブルの一瞬の隙を見て立ち上がり、観客からは拍手が沸き起こる。ダメージは軽く無いはずだが、アーチュレッタは必死に前に出て、ハイキック、オーバーハンドフックで逆転を狙う。しかしラウンドの最後でパトリシオが、アーチュレッタの攻撃をかわして再びギロチンチョークへ。今度こそ危ないかと思われたが、ゴングに救われた。
このまま試合終了までパトリシオの優勢は続き、試合は最大5点差を含む0-3でパトリシオの圧勝。
アーチュレッタの連勝は18で止まり、ベラトール史上3人目の二階級王者の壁を見せつけられた。
ステップアップ
4年間かけて積み上げて来た18連勝という数字がゼロになった瞬間、普通なら、同じくパトリシオに敗れたAJ・マッキーのように精神が崩壊してもおかしくないはずだが、アーチュレッタはこの敗戦をそこまで深刻なモノとして考えず、更なる進化の為のステップアップと、前向きに捉える。
次戦、ヘンリー・コラレスとの試合前に、パトリシオ戦で敗北した心境を聞かれると
「勝ったときと同じように扱うんだ。良かった点、悪かった点を見直し、それを積み重ねていく。もちろんタイトルマッチで負けると、みんなを失望させたような気がしてショックは大きいよ。しかし、チームメイトが近くに居てくれて、俺を誇りに思っていると伝えてくれた。それが自信になって、前に進み続け、自分のキャリアのために邁進し続けることができた」
と、常々口にする、チームメイトの存在の大きさを語る。
そして、「誤解しないで欲しいが、あの時もちゃんと準備はしていた。だが、今度戦う時は100%違う結果、違う戦いになる。その位置まで自分を高めていく事にワクワクしているんだ」と、今後の進化に大きな期待を持たせた。
2020年1月25日に行われた試合では、コラレスをきっちり抑え込み、3-0の判定で勝利し、健在ぶりをアピールした。
タイトルショット
その後、バンタム級王者、ダリオン・コールドウェル破って王座についていた堀口恭司が、怪我によりタイトルを返上したため、改めてバンタム級王座決定戦が行われる事が決定。このビッグチャンスに、アーチュレッタとパトリック・ミックスのバンタム級タイトルマッチが実現した。ミックスは、デビューから無敗の13連勝を続け、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
ミックスはレスリングと柔術のバックボーンに裏付けられた寝技とスペシャリストで、これまで13勝中一本での勝利が9回と異常とも言えるフィニッシュ率を誇る。また打撃も同様に強く、立ち技で相手を弱らせて一本で極めるという、いわば完全試合での勝利パターンも得意な選手だ。
本来は2020年7月に行われる予定だったこのカードだが、まさに当時はコロナ禍で緊急事態の真っ只中、パンデミックは格闘技界にも吹き荒れ、アーチュレッタもコロナウィルスに感染。試合は延期となってしまう。
アーチュレッタの病状はかなり激しく、本人曰く「吐き気と下痢以外の、全ての症状が出ていた」という。その中には呼吸困難やリンパの腫れ等も含まれ、人生で最も過酷な戦いだったと表現している。
だが、強い精神力と医師の尽力によりなんとか回復し、同年9月に再びミックスとのカードが組まれる。
試合前、この柔術のスペシャリストに対してアーチュレッタは「チャンピオンになるためには、総合的なファイターでなければならない事を彼に教えてやるのが楽しみだよ」とミックスを挑発。
一方のミックスは
「僕が必ずしもグラップラーとは限らない。グラウンドで相手を仕留めることができるから、そう名付けられたんだと思うが、立っていても同じように戦うことができる。僕の方がストライカーとして優れていると思うし、どんな試合になっても、どんな展開になっても、彼を地獄に引きずり込むつもりだ」
と強気に返答した。
2020年9月12日、Bellator246で試合は行われた。
試合前は打撃戦も厭わないと言っていたミックスだが、やはりグラウンド戦を狙う展開へ。1R後半にはマウントを成立させるがアーチュレッタはゴングに救われる。
2Rも卓越したミックスのグラウンド技術に苦しめられ、後ろから足を絡めてアーチュレッタをロックしながらパウンドを浴びせて来る。今回はまだ時間に余裕があり、ゴングは助けてはくれない。だがラウンド終了間際にアーチュレッタはこのアリ地獄から脱出し、ミックスの背後からお返しと言わんばかりに激しいパウンドの連打。
ここまでミックスがやや試合をリードしているように見えたが、3Rから潮目が変わり始める。アーチュレッタは鋭い踏み込みから、切り裂くようなボディブローを多用し、明らかにミックスに動揺が見られる。ミックスはタックルを仕掛けてこない。ボディのダメージが大きくて思い切った動きが出来ないのだろうか。その後は、アーチュレッタが多彩なコンビネーションで打撃を上下に分け、ミックスを圧倒し続けて4Rへ。
4R、このままでは行けないと、ミックスも前に出るが、やはり立ち技ではアーチュレッタに分がある。コンビネーションを度々ヒットさせ、ラウンド終盤にはミックスの左ボディキックに素早く反応してカウンター左ストレートをヒット。さらにボディへのラッシュも決め、確実にミックスを削っていく。
最終R、アーチュレッタは更に攻勢を強め、執拗にボディを連打しミックスを嫌がらせる。ミックスはもうテイクダウンを狙う余裕も無いのか、この猛攻に耐えていくのがやっとだ。終盤はクリンチ状態での攻防となったが、ここで試合終了のゴング。
判定勝負となったが、後半3Rで攻勢に出て前半の不利を取り返したアーチュレッタが、見事に3-0で逆転勝利となった。
ミックスは喜びのあまりケージの中で飛び回り、試合後のマイクパフォーマンスでは
「私の家族、彼らがこのタイトルに相応しい。私のチームメイト、彼らもこのタイトルに相応しい。。私の国もそれに相応しい。祖国の先祖たちファイティング・スピリットが私の中に流れているんだ」とアーチュレッタを支え続けた家族やチームメイトを労い、祖国への誇りを表した。
泡沫の夢
アーチュレッタの初防衛戦は2021年5月に行われた。挑戦者はUFCから移籍し、連勝を続けるセルジオ・ぺティス。ペティスは、UFCの元ライト級チャンピオン、アンソニー・ぺティスの弟で、テコンドー、キックボクシング、ブラジリアン柔術と、多彩なバックボーンを持ち、 “ザ・フェノン” (天才)という意味という異名を持つ強敵だ。
アーチュレッタはこれを防衛戦とは思っていないらしい。
「俺のコーチはこう言ったんだ。ここからは世界タイトルのために戦うことになるんだと。防衛戦じゃなくてな。毎試合、世界タイトルのために戦うんだ…それは俺にとって特別なことだよ」と常に挑戦者の気持ちで試合に挑むことを表明し、
「今夜のファイトはおそらく世紀の一戦になるだろう。俺は奴の頭を引きちぎってやろうと思ってるよ」と語った。。
試合では、偉大な兄の背中を追いかけるぺティスが、キャリアで最高のパフォーマンスを見せることになる。
試合では、アーチュレッタは軽やかにサークリングしながら、鋭く踏み込んだ得意のボディでダメージの蓄積を狙ったが、ぺティスの強力なカウンター、鞭のようにしなるローキックに苦しめられ、なかなか自分のペースに持ち込めない。最終ラウンドでスラムによるテイクダウンを奪ったが、印象的なシーンは残せずに試合終了。0-3の判定でぺティスに軍配に軍配が上がり、アーチュレッタは王座から陥落してしまった。
試合後ぺティスは堀口恭司を日本から呼び、防衛戦を行いたいという意向を発表。その願望は実現され、2021年12月3日に堀口との防衛戦が行われ、ぺティスは堀口をKOで降している。
雪辱を晴らせるか!? バンタム級ワールドグランプリへ
この敗北の後、アーチュレッタは沈黙し、しばらくケージを離れる。次にアーチュレッタがケージに現れたのは王者陥落から約1年後の2021年4月だった。
ベラトールでは、2022年にバンタム級ワールドグランプリを開催することが決定。そこでは、もちろん王者のセルジオ・ペティスも参戦する予定だったが、怪我で欠場に。ペティスの代役として、急遽アーチュレッタの参戦が決定した。アーチュレッタの初戦の相手は、ぺティスと同じルーファスポーツに所属するラウフォエン・ストッツ。当初、ペティスとストッツの1回戦は、タイトルマッチとして行われる予定だったが、アーチュレッタに変更されたことによって、暫定王者を決める一戦としてお婚割れることとなった。
ストッツは、レスリングとブラジリアン柔術に裏付けられた高いグラウンド技術に加え、強い打撃も持っている。さらにタフさと無尽蔵のスタミナを持ち、長期戦にも滅法強いという厄介な相手だ。
チームメイトとのマッチメイクに憂鬱な気持ちだったストッツは、対戦相手が変更になり、こんな事を言っている。
「私個人としては、セルジオと戦うよりも、アーチュレッタと戦う方がずっと楽なんだ。だから、アーチュレッタと戦えることにすごく興奮している」
「セルジオが復帰するまでの間、暫定チャンピオンになれて幸せだ。最初からそれが目標だった。セルジオがチャンピオンになったとき、僕は『みんなをノックアウトして、彼と戦わなければならない、彼のボディガードのような存在になりたい』と思っていた。でも、彼が戻ってくるまでベルトを守り続けるよ」と、セルジオと戦わずに済んだ事を安堵し、既に勝利したような喜びようだ。
また、16勝1敗という輝かしい成績を持ち、連勝を続けていたストッツはファンからも大きな期待を集め、元王者のアーチュレッタを差し置いてオッズがストッツに傾くと言う事態も発生。これにアーチュレッタは
「クソオッズに興味無さすぎて自分がアンダードッグだなんて思っても見なかったよ。クソったれどもが。まぁその夜は(俺にベットした)沢山の人間が大金を稼ぐだろうな」と強い不快感を表した。
だが、残念ながらその夜、一攫千金を手にしたものは現れなかった。試合前半は以前のアーチュレッタらしさを取り戻し、多彩なコンビネーションを駆使して打撃でストッツを圧倒していった印象だったが、3R、ストッツの空を切り裂くような左ハイキックがアーチュレッタの頭部をかすめ、脳を揺さぶられたアーチュレッタはグラグラとキャンバスに倒れこむ。そこにストッツが冷酷に全体重をかけた肘を何発もアーチュレッタの顔面に落とし続け、レフェリーが慌てて割って入り試合はストップ。ここで勝ってタイトル戦線に返り咲くはずだったアーチュレッタだが、まさかの人生初のKO負けとなってしまった。
進み続ける“スパニアード”
初のKOによる敗北はさすがのアーチュレッタにもこたえたようで、次戦、エンリケ・バルゾラとの対戦前インタビューで
「どうせ負けるならあのくらいスッキリした負け方がいい。途中までは俺が圧倒していた。試合を支配していたんだ。だが、たまたまあの蹴りに捕まってしまった。何度もブロックしてきた蹴りなのに。今になると疑問でしかない」と、悔しさを語り、さらに堀口恭司を退けて防衛に成功したセルジオを引き合いに出し、
「ディフェンスばかりしている選手には、何の感動もない。セルジオは堀口に圧倒されながら、キックとスピニングバックフィストを繰り出すだけだった。そう、彼は支配されていたんだ」と、そんな勝ち方をするくらいなら、潔く打ち合って負けた方が良いと、半ば負け惜しみのような事を語った。
ただ、バルゾラについては
「2人のオフェンシブな男がぶつかり合うファイトに興奮してるんだ。高出力、ハイペースのMMAを見ることができるだろう」と、一定の評価を与えつつ激戦を予感していた。
バルゾラはベラトールデビュー戦で、いきなり元ベラトールバンタム級王者のダリオン・コールドウェルをTKOで降し、次戦も勝利。直近の試合ではマゴメド・マゴメドフにギロチンチョークで一本取られはしたが、アグレッシブなファイトに定評のある選手だ。レスリングで鍛えられた強靭な肉体を持つバルゾラは、グラウンドはもちろんの事、ストライカーと充分に渡り合える打撃も持っている。
2022年10月1日に行われたこの試合は、アーチュレッタの予想通り目まぐるしいハイペースな戦いとなった。
激しいテイクダウン合戦とスクランブル、ポジション争いが展開され、アーチュレッタはバルゾラの強烈な圧力にやや押され気味だ。だが立ち技になると、軽やかなフットワークからの一発一発が強力なコンビネーションを放ち、有効打を重ねていく。
試合後半にはアーチュレッタがグラウンドでバルゾラを支配する時間もあり、試合はアーチュレッタ優勢な印象で終了。アグレッシブでいいファイトだったが、3-0でアーチュレッタが完勝。
試合後の記者会見では、安堵の表情を見せながら、
「直近2試合はとても残念な結果になってしまったが、俺はトップに立つために懸命に鍛錬しつづけて来た。この数ヶ月は、本当に叱られ、型にはめられ、けなされ、間違っていると何度も何度も言われた。毎日ワークアウト・ルームに戻り、完璧に、完璧に、完璧にと、常に尻を叩かれている。今夜はそれが少しは表れたが、すべてではなかった。でも、俺は努力していたんだ」
と、再びタイトル戦線に戻るために、更なるハードワークを自らに課してきたことを明かした。
“RIZIN×BELLATOR全面対抗戦”
バルゾラ戦ででかつての勢いを取り戻したアーチュレッタに、再び大きな舞台が用意されている。
2022年12月大晦日、日本のRIZINでの大イベント、“RIZIN×BELLATOR全面対抗戦”への出場である。
この試合でアーチュレッタはキム・スーチョルと拳を交える。キムは、“日本人キラー”として悪名高く、一度は格闘技を引退したものの、5年のブランクを経て復帰。前戦では、RIZINのバンタム級グランプリ優勝者、扇久保博正を破り、再びその存在感を強烈に証明した。
アーチュレッタは、今後タイトル戦線に復帰するために、このRIZINでの大一番は絶対落とせない試合になるだろう。
再びその存在を世界に知らしめ、再びバンタム級王者に返り咲くか、またはベラトールでも2階級制覇かそれ以上を目指していくのか、“ザ・スパニアード” フアン・アーチュレッタからはまだまだ目が離せない。
フアン・アーチュレッタの知りたいトコ!
アーチュレッタの妻は姉さん女房!?
アーチュレッタは2016年8月28日、KOTC4階級制覇を目前としていた日に、ジャンナイと言う女性と入籍している。ジャンナイの年齢は40代後半と見られており、かなり年上の姉さん女房という事になる。年は離れているが、その絆は非常に強いようで、ジャンナイのインスタグラムでは常に一緒に居る様子が伺える。
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また結婚前にすでに3人の子どもを授かっていて、アーチュレッタはプライベートの大半を子ども達の為に費やしているそうで、“スパニアード” らしく、妻にも子ども達にも情熱的なようだ。
アーチュレッタは冒険好き!?
アーチュレッタや妻のジャンナイのインスタを見ていると、森を歩いたり、海に潜ったりと、非常にアクティブな日常を過ごしていることがわかる。
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夫婦そろって好奇心は旺盛なようで、こういう趣味の一致が夫婦の強い絆を生み出しているのか。アーチュレッタの強い好奇心はその独特のファイトスタイルにも現れている。今後も新たな挑戦をして様々な技を吸収し、進化していく事が期待されるところだ。
まとめ
ここまでフアン・アーチュレッタのストーリーを見てきたがいかがだっただろうか。戦いと共に歩んできた“スパニアード” の血を引くアーチュレッタの戦いは幼い時の4人の兄への抵抗から始まり、その後レスリングを経由して総合格闘家へ。
プロデビューすると破竹の勢いで連勝を続け、KOTCの4階級制覇という偉業を達成する。ベラトールに移籍してからも連勝は止まらなかったが、ピットブルに噛みつかれ、その勢いはストップ。パトリック・ミックスを破ってバンタム級王者にはなったがすぐに陥落し、その後初の連敗も喫した。不振から立ち直る為に、これまで以上にハードなトレーニングを課し、直近の試合で完勝。
常にアグレッシブなファイトスタイルを貫き、勝ち負け以上に観客を楽しませることを大事にしている彼のファイトを、勝敗抜きに楽しみにしているファンも多いだろう。その熱いファイトを日本の、RIZINのリングで見られるのが楽しみで仕方がない。ここで勝って是非セルジオ・ぺティスへにリベンジを果たせば、堀口恭司との勝負を見られる時が来るかもしれない。まだまだ心を躍らせるような未来に溢れるアーチュレッタをこれからも皆さんと応援していきたい。
※アイキャッチはRIZINの公式HPより引用