常に相手をリスペクトしながら正々堂々と戦い、そして試合後には相手の身体まで気遣う、優しすぎる“コリアン・プレデター” ヤン・ジヨン。ヤンは、ずば抜けた格闘IQと打撃センスで、相手の動きをあっと言う間に読み取り、強烈なカウンターでマットに沈めていく。どんなに劣勢に立たされても、その戦況を一瞬でひっくり返す彼のファイトからはいつも目が離せない。
RIZINわずか2戦であっという間に多くのファンを獲得し、日本の格闘ファンに受け入れられたヤン。彼は一体どのようにしてRIZINのリングに辿りつき、多くの人を魅了していったのか。今回は“コリアン・プレデター” ヤン・ジヨン選手を丸裸にしていこう。
ヤン・ジヨンのプロフィール
名前 : ヤン・ジヨン
生年月日 : 1996年1月14日
出身地 : 韓国
身長 : 170cm
体重 : 61Kg
戦績 : 4勝0敗(11KO 1SUB)
階級 : WAKOフェザー級王者
所属 : Jeju Team the King
獲得タイトル : WAKOフェザー級王者
入場曲 : Taeyeon 「The Blue Night Of Jeju Island」
バックボーン : キックボクシング
公式 HP : ー
Twitter : @didwldyd1
Instagram : 양지용
Youtube ー
アパレル ー
ファンクラブ ー
現在26歳、MMA歴わずか2年と、まだまだ成長の真っ只中にいるヤン・ジヨン。一体彼の強さの秘密はどこにあるのか、彼の幼少期まで遡ってその格闘人生を見ていこう。
キックボクサーからMMAへ
1996年11月14日、韓国で生まれたヤン・ジヨンは、キックボクシングをバックボーンに持ち、11勝1敗という堂々たる成績でKorea WAKOの王者に輝く。
韓国のキックボクシングの頂点に立つと、24歳で兼ねてから挑戦したかったという総合格闘家に転身。アマチュアリーグでデビューしたヤン・ジヨンは2019年の1年間で5試合もこなし、全ての試合に勝利し、5連勝でMMA挑戦初年度を締めくくる。
翌年はARCという韓国の団体の試合に出場し、初戦は判定で勝利。そして2020年10月17日、ハン・ミンヒョンと対戦し、1R前半に強烈なワンツーからの左ハイキック&猛ラッシュによってKO勝利。これでMMA7連勝となり、アマチュアながら周囲から注目を集め始める。
プロデビュー
ここまで敵なしのヤンは、2021年7月3日、満を持してROAD FC 58に、イ・ジョンヒョンを迎えてのプロデビュー戦を決める。
サウスポーのヤンとオーソドックスのジョンヒョン。ジョンヒョンが序盤から激しくパンチを繰り出してくる中で、ヤンが大振りの右フックに強烈な左カウンター。ヤンは、フラッシュダウンしたジョンヒョンの首を取りギロチン体勢へ。ここからケージ際でもみ合うが、ジョンヒョンの鼻からはおびただしい量の血が流れ始め、試合は一旦ストップ。試合開始後も相手の間を読み、攻撃の手を出す前にヘビーな右フックを叩きつけ、ジョンヒョンの動きを完全に見切りながらカウンター入れるなど、韓国キックボクシング王者の貫禄を見せつけて1Rは終了。
この試合は2R制なため、ジョンヒョンはもう後がない、最終Rが始まると、ヤンのカウンターに臆する事なく、ジョンヒョンがさらに前進しながら大振りのフックを連発。ヤンは引き続きカウンターを当て続けるが、さらに前に出るジョンヒョンと組み合いになり、スクランブルの中で倒れこみグラウンドへ。ヤンが上になったが決め手に欠け、レフェリーにスタンドを命じられる。その後もヤンはジョンヒョンの攻撃を完全に見切り、激しいパンチの連打をことごとく見切ってカウンターを入れ、10分間戦ったとは思えない程のキレイな顔のまま試合終了。
判定はもちろん3-0でヤンに軍配が上がり、圧倒的なプロデビュー勝利を飾った。
2021年はこの1試合で幕を閉じたヤンだったが、翌年からいよいよ本格的にギアを入れ始める。
2022年5月13日、キム・ヒョヌを相手にプロ2戦目を迎える。ここまで打撃で対戦相手を圧倒してきたヤンだったが、この試合で更なる進化を見せ、2R2:03にギロチンチョークで1本勝利。グラウンドでもプロの試合で充分に通用する所を見せた。
衝撃のビッグプロモーション
圧倒的な強さで勝ち続けるヤンの元にとてつもないビッグオファーが飛び込んできた。
現在の日本のMMAの頂点、RIZINへの出場オファー、しかもなんと相手は、RIZIN元バンタム級王者、あの朝倉兄弟の弟・朝倉海である。
日本では全くの無名選手であるヤンへのビッグプロモーションに格闘ファンは驚いたが、榊原CEO曰く「ヤンは無名だが将来、韓国MMA界を背負って立つ逸材」と太鼓判を押し、その活躍に期待している様子だ。
この試合前に朝倉は「正直、名前がなくて実力は結構あるので、あまりやりたくなかったというのはあるけど、こういう時にしっかり油断せずに勝てるようにしたい」と語る。
つまりこれは、朝倉にとってリスクしかない試合と言う意味だ。
無名のヤンに勝っても朝倉の名がさらに上がるわけでも無く、かといって負けると一気に評判は落ちる。まだ底を見せていないだけにヤンの弱点もハッキリとわからず、まさかという事も充分にあり得るのだ。
イマイチ強気な言葉が出ない朝倉に対しヤンは、
「ロードFCのバンタム級王者になる男です。この試合をあなたの引退試合にします。ぼこぼこにします。RIZINチャンピオンになります」と、朝倉を立ち直れないほどに叩きのめす事を宣言。試合への注目度、ボルテージは日を追うごとに上がっていった。だが、試合間近になって、朝倉が右拳の怪我を理由に試合はキャンセルになってしまった。
“秒殺侍” との死闘
朝倉の代役として、あの世界最速KO記録を持つ“秒殺侍” 昇侍に声がかかった。RIZINでの激戦以来、朝倉に惚れこみ、何かと行動を共にしている昇侍はこのオファーを快諾。朝倉の為に人肌脱ごうとやる気に満ちていた。
ただし、この直前のオファーでこの試合の契約体重61Kgまで減量するのは流石に無謀だとして、契約体重は66Kgに変更。61kgで調整してきたヤンにとっては、大きな不利になる可能性もある。だが、ヤンの方もこの契約を承諾。紆余曲折ありながらも無事に2022年7月2日、試合は行われた。
1R序盤はキックボクシングの展開。やはり立ち技ではジヨンに分があるか、得意のカウンターで昇侍の攻撃の手段を潰していく。昇侍はたまらず組みつくが、空いた左腕で昇侍の顔面と脇腹をコンスタントに殴り続ける。離れてから相手の出方を伺っている所に、キレのある昇侍の右ハイが飛んできてヤンのこめかみをかすめる。これで頭に血が上ったか、ヤンはワンツー、左ミドル、左右のフックとラッシュ。さらに飛び膝でプレッシャーをかけると、お返しと言わんばかりに昇侍も得意の飛び膝。ラウンド終了間際にヤンがノーガード、ノーモーションからの左ストレートをヒットさせたところでゴング。
2R、ヤンの攻撃はさらに冴えわたり、ノーモーションの鋭いジャブ、ストレートを次々にヒットさせる。39歳の昇侍はこの若きストライカーのキレのある攻撃に反応できていない。
だが歴戦の猛者である昇侍も黙ってはいない。強引に距離を詰めて強烈なボディアッパーを叩きこみ、ヤンは効いた素振りを見せる。ヤンはダメージを受けると燃えるタイプなのか、さらに手数が増え、ノーモーションのパンチを次々にヒットさせ、昇侍の顔面はどんどん赤く染まっていく。
だが、侍・昇侍はここからがしぶとい。ヤンの激しい打撃を受けながらも少しずつ距離を詰め、「バチン!」と大きな音を立てる強烈な右ロー。これには流石のヤンも身体をよじらせる。そしてコーナーに追い詰められると、さらにもう一発、昇侍の渾身のローを喰らい、この2発でヤンの右足は大ダメージ。
ヤンはフックの連打の後昇侍から離れるが、昇侍は「どうした、もっとこいよ」と両手で手招き。この漢気あるパフォーマンスに会場からは感銘の拍手が起こる。この拍手に後押しされるように昇侍は前進。勝負の行方がまた分からなくなってきたところでゴング。
最終R、満身創痍の昇侍が根性で前に出て来る。殴っても殴っても前に出て来る昇侍にヤンが強烈な飛び膝、さらに左のヘビーショットをヒットさせると昇侍はたまらずダウン。このままギロチンを狙うが、首を抱えられたまま昇侍はヤンの身体ごとコーナーに押し込んでいく。まるで闘牛のようだ。
ヤンが一瞬で体勢を変え、バックマウントからチョークを狙うが、昇侍も必死に抵抗。だがスクランブルのなかで再びヤンがバックを取り、昇侍の首に腕を回す。
苦悶の表情を浮かべながらもタップしない昇侍を見かねてレフェリーがついに試合をストップ。
ここでヤンの一本勝利が決まったが、意識が飛んでいるはずの昇侍が無意識の中まだヤンに向かってくる。ヤンは昇侍の行動に動揺しながらも、周りの制止を待つ。
ようやく周囲が引き離すと、昇侍はリングの上で大の字になり身動きが出来ない。そんな昇侍を見て、ヤンが驚きの行動を見せる。なんと血が全身にめぐるように昇侍の両脚を持ち上げ、その後太ももをマッサージし始めたのだ。
https://twitter.com/MMA_JAPAN1/status/1543160810767130624?s=20&t=uyHv_LkYG1S0Zj7UWCU7vA
ヤンのこの紳士的な対応に大きな拍手が送られ、これまで全くの無名だったヤンが、この一戦で日本中の格闘ファンにその名を知られる事になった。
試合後、恐らくこの日の為に一生懸命覚えて来たのだろう
「覚えて・・くださいヤン・ジヨン」と日本語で観客に伝えさらに「マイ、ネクストファイト、朝倉海、アリガトウゴザイマス!」と短いマイクパフォーマンスを終えると観客からは盛大な拍手と歓声が送られた。
その後昇侍が、「生涯忘れることのない闘いになりました。本当にありがとうございました。」とツイートすると、
生涯忘れることのない闘いになりました。本当にありがとうございました。https://t.co/jnEXljtTax
— 昇侍 (@shou0424) July 7, 2022
ヤンも「あなたを尊重します」と返事。
https://twitter.com/didwldyd1/status/1547777238447575041?s=20&t=FX8e25GqPSaMM7JAwDhdQA
このやり取りに「日本に来てくれてありがとう!」「どっちも侍!」と両者を労うおびただしい数のツイートが集まった。
ストライカー対決
衝撃と感動のRIZINデビュー戦で、日本中の格闘ファンに受け入れられたヤンに、すぐにRIZIN LAND MARK 4という次の舞台が与えられた。迎えるのは、ヤンに近いハードストライカーの魚井フルスイング。前回は本来とは違うウェイトでの戦いに苦戦を強いられたヤンだったが、今回こそその真価が問われる試合と言う事で注目が集まった。
フェイスオフで魚井と向き合ったヤンは、何と指でハートの形を作って魚井にキュンポーズ。顔には笑みを浮かべている。この後バチバチの殴り合いを行う相手にキュンポーズするヤンに、寧ろそこはかとない恐怖を感じる。
2022年11月6日に試合は行われた。
ヤンと魚井、共にサウスポーの構え。序盤からヤンは跳びヒザを出すが魚井はバックステップでかわす。左に回り込もうとする魚井に対し、ヤンはジャブのフェイントからのワンツーで対抗。魚井のオーバーハンドをきっかけに前に出て、組み合いに。膠着してきた所でブレイクが入る。その後、魚井の強烈な右オーバーハンドがヤンにヒット。一瞬ヤンの動きは止まったが、ヤンは左のパンチを出しながら一気に距離を詰める。ここに膝を合わせた魚井だったが、これをヤンがダブルレッグで崩し、バックに回った所でゴング。
2R、すぐに距離を詰めたヤンが右を伸ばし、魚井が左で迎え撃つ。魚井のヘビーショットに警戒を見せるヤンはなかなか手が出ない。スローな展開で時間が過ぎていく中、残り2分で試合は大きな動きを見せる。
ヤンは左から前に出て近い距離で右をヒット。追い打ちがなく、構えを変えたヤンがケージを背負った魚井の右オーバーハンドに左フックを合わせる。大きく歩幅を広げていた魚井のアゴをヤンの拳が貫き、この一発で崩れ落ちた魚井にヤンはとどめを刺すべく、容赦ないパウンドによる追撃。急いでレフェリーが割って入り試合はストップされ、日韓ハードストライカー対決は、ヤンの衝撃TKOにより幕を閉じた。
この試合後も、ヤンは魚井の元へ駆け寄り、魚井の足を軽くマッサージして介抱しようとした。このつい数十秒前に容赦なく魚井を叩きのめしたファイターとは思えない紳士的な “コリアン・プレデター” 行動に多くのファンが胸を打たれ、SNSのタイムラインはヤンへの称賛の声で埋め尽くされた。
試合後、「日本に来た際にファンが僕に対してよくしてくださる。それに応えるつもりでやっている」と日本への感謝の気持ちを述べ、
「12月のRIZINにぜひ僕を呼んでください」と、タイトなスケジュールも厭わず、大晦日への意欲を示した。
アマチュアから通算してMMAで無敗の11連勝、RIZINのリングでも実力を証明し、さらにその爽やかなルックス、紳士的な態度によって多くの日本人ファンの心を掴んだこともあり、ヤンは2022年大晦日出場の資格を充分に満たしていると思って間違いないだろう。
2022年11月現在、発表されているカードはRIZIN vs BELLATOR全面戦争の4カードのみ。この後、例えばヤンと朝倉海のカードが発表される事などあれば大晦日はさらに盛り上がる事だろう。
また、朝倉とまで行かなくとも、勢いのある井上直樹、アラン・ヒロ・ヤマニハなど、バンタム級には実力のある選手がまだまだゴロゴロいる。
群雄割拠のバンタム級で、ヤンは今後台風の目となる事ができるのか、今後のヤン・ジヨン選手からもまだまだ目が離せない。
ヤン・ジヨンの知りたいトコ!
RIZIN公式アンバサダー・くるみ がヤンにラブコール!?
RIZIN公式がアップしている、『 RIZIN LANDMARK 4 in NAGOYAを100倍楽しむための動画【with 斎藤裕】』の中で、ヤン vs 魚井を注目の試合として真面目に解説する斎藤裕。すると唐突にくるみが、「私(ヤン選手の)顔タイプなんです」とカットイン。さらに「魚井フルスイング選手ももちろん見たいんですよ」と魚井にも気を使いつつ、「だけど、ちょっとヤン・ジヨン選手かっこいいなっていう・・」と本音を隠しきれない様子だ。特に彼女がいるという情報も出ていないヤン選手、この2人の今後の展開からも目が離せない。
まとめ
ここまで、“コリアン・プレデター” ヤン・ジヨンのストーリーを見てきたが、いかがだっただろうか?韓国のキックボクシングで頂点に立った後、総合格闘技に進み、無敗で連勝を続け、榊原CEOに将来性を認められ、いきなりRIZINで朝倉海との対戦オファーをゲット。直前の朝倉の怪我により、相手は昇侍となったが、予想以上の激戦を繰り広げ、勝利後は昇侍を気遣い介抱する姿が日本のファンの胸を打ち、一躍人気選手となった。
MMA歴もまだわずか2年ちょっとのヤンは、今後も様々な技を吸収し、進化しつづけていく事だろう。真の捕食者となっていく中で、次に喰われるのは朝倉か、井上か、またはあの堀口恭司か・・。そんな夢のカードを実現させるためにも、ヤンにはますます実力を高め、RIZINバンタム級、トップファイターの一員になって欲しい。“コリアン・プレデター” ヤン・ジヨン選手をこれからもみなさんと応援していきたい。
※アイキャッチはRIZINの公式HPより引用