“ハビブの後継者”マカチェフは、圧倒的なパワーでテイクダウンし、異次元のグラウンドスキルで一瞬の隙に一本を極めてしまう。UFCトップレベルの選手は誰一人簡単に投げられるような選手はいないはず。それをいとも簡単にキャンバスに叩きつけてしまうものだから、時々「本当に同じ階級で戦ってるのか?」と疑ってしまう程だ。
マカチェフは、その圧倒的な強さとは対照的に、ハビブ同様、寡黙で無駄な侮辱や軽口を言わない。対戦相手をリスペクトし、礼儀を重んじる彼の人格を「退屈」だと感じる格闘技ファンもいる。だが多くの人は彼に対して格闘家としても、人間としても強い敬意を抱かずにはいられない。
いったいマカチェフがどのようにしてここまで強くなり、UFCライト級王者に輝いたのか、今回はイスラム・マカチェフ選手を丸裸にしていこう。
イスラム・マカチェフのプロフィール
名前 : イスラム・マカチェフ
生年月日 : 1991年9月27日
出身地 : ダゲスタン共和国
身長 : 178cm
体重 : 70Kg
戦績 : 23勝1敗(4KO 11SUB)
階級 : ライト級
所属 : イーグルスMMA
獲得タイトル : UFCライト級王者
入場曲 : Dj Nariman 「Dreams」
バックボーン : コンバットサンボ
公式 HP : ー
Twitter : @MAKHACHEVMMA
Instagram : Islam_Makhachev
Youtube ー
アパレル ー
ファンクラブ ー
今年で31歳になったマカチェフは、まさに今全盛期ど真ん中だろう。また、その格闘技に対する真っ直ぐな姿勢から、まだまだ成長する伸びしろも残している。一体このマカチェフの強さにはどんな秘密があるのか、マカチェフの幼少時代まで遡って見ていこう。
全勝無敗でUFCへ
王者の鍛冶場で育まれる
マカチェフは1991年9月27日、ロシア連邦を構成する共和国の一つ、ダゲスタン共和国で生まれる。この日本のわずか7分の1ほどの小さな共和国から、ハビブ・ヌルマメゴドフを始めとする、驚くほど多くの、世界最強レベルの格闘家が輩出されている。ダゲスタンが今のMMA界を牛耳っていると言っても過言ではない。
“王者の鍛冶場”と言っても良いほど優れた選手が続出する理由は、ここで育つ少年たちの生活を知ると少しは理解できるかもしれない。ダゲスタンのマハチカラ市で生まれたマカチェフは、ブルシ村という田舎に引っ越す。村の人間達は町から来たマカチェフを軟弱だと思い込み、事ある毎に喧嘩をふっかけたという。さらに、この村では子どもが肉体労働をするのは当たり前で、マカチェフも例外ではなく、当時の事をこう語る。
「建築、掘削、採集、家畜の飼育、あらゆる肉体労働をした。ハードワークは僕たちのDNAに組み込まれているんだ。しばしば山を駆け上がり、時には1日3回、石を使って鍛錬する。こうした過酷な状況が、本物の男を生み出すんだ」
最強の隣人、ハビブ・ヌルマゴメドフ
このような環境の中で逞しく育っていく、マカチェフだったが、その隣の家にもう一人、恐ろしく逞しい少年が住んでいた。その名も、ハビブ・ヌルマメゴドフである。後のUFCチャンピオン二人が小さな村で隣り合わせて住んでいるなんてなんという奇跡だろう。ヌルマメゴドフはよく父と格闘技のトレーニングをしていて、それを度々見ていたマカチェフが、自分も一緒にトレーニングさせてくれ、と頼んだことからマカチェフの格闘人生と、二人の友情は始まった。
ヌルマメゴドフの父は、この時すでにマカチェフの潜在的な才能を見抜いており、早いうちからヌルマゴメゴドフに「お前が去れば、次はイスラムの時代だ」と言っていたそうだ。
厳しい環境で鍛えられ、最強の隣人と共に技を磨き合って言ったマカチェフは恐ろしい早さで成長を遂げ、2010年にはコンバットサンボ・クラブ・ワールドカップの150ポンド部門で優勝。偶然にも同じ年にハビブ・ヌルマゴメドフが180ポンド部門で準優勝している。
世界最強レベルの男達が小国でひしめく中で頭角を現し、自信をつけたマカチェフは、2010年8月、Tsumada Fighting Championship という大会でプロデビュー。3-0の判定でデビュー勝利を飾ると2011年2月に行われた次戦では2R0:30でテンギス・クチュアをKO。2011年は更に4戦もこなして全勝。
ウラジミール・エゴヤンとのスプリット判定勝利以外は全て一本またはKOで勝利している。
その後もコンスタントに試合に出場し2014年6月で無傷の11連勝を達成。マカチェフは、堂々たる成績を引っ提げて、盟友ハビブ・ヌルマメゴドフに3年遅れてUFCとの契約を勝ち取った。
衝撃! UFCデビュー
マカチェフは2015年5月23日、UFC187で同じデビュー戦となるレオ・クンツを相手にUFCデビューを果たす。
マカチェフは、開始のゴングが鳴るやいなやパワー全開で、カウンターのコンビネーションとオーバーハンドで何度もクンツのライフを削っていく。組み合いになっても腰投げを中心にテイクダウンを取り、サンボの技を見せつけた。
2ラウンド半ばに、マカチェフは相手のバックを奪い、リアネイキドチョークを見事に極めて試合をフィニッシュ。
デビュー戦にして、圧倒的な勝ち方でオーディエンスや運営に強い印象を残した。
マカチェフは試合前、ハビブ・ヌルマゴメドフから「(UFCの)対戦相手もこれまでの選手と同じだ。特別じゃないんだ」と言われたと記者団に語ったが、まさにヌルマメゴドフに言った事が現実になった試合だった。
人生唯一の敗戦
マカチェフは同年10月3日、UFC 192でオクタゴンに入り、元ジャングルファイトのライト級チャンピオン、アドリアーノ・マルティンスと対戦した。マルティンスはこの直近の試合で、同じダゲスタン出身ファイターのルスタム・ハビロフをスプリット判定で破っており、その長い柔術のキャリアと共に12KOという実績に裏付けられた、激しいノックアウトパワーも持っている。
世界最高のプロモーションでのキャリアをスタートさせたマカチェフだが、この試合前も非常に落ち着き払っている。試合前のインタビューでは
「UFCに参戦しても、何も変わらない。スポーツの最高峰であることは分かっているが、僕にとって重要なのは戦う事だけだ。これまでと同じように戦い、これまでと同じように勝つ、それだけなんだ」
自信に満ち溢れたマカチェフのUFC第2戦目が始まる。
試合は、マカチェフが全体のペースを支配し、ワイルドなオーバーハンドを何度も繰り出すなど、順調な滑り出しを見せる。じわじわとプレッシャーかけるマカチェフに対し、マルティンスも右の大きなフックで反撃。これに一瞬怯んだマカチェフは、お返しとばかりに、思いっきり踏み込んだ左のオーバーハンドフックを放つ。これに対し、マルティンスの完璧なタイピングで放たれた強烈な右フックがマカチェフの顎にクリーンヒット。マルティンスはキャンバスに倒れこみ、試合はストップ。マカチェフはマルティンスの13人目のノックアウトの犠牲者となり、初の敗北、それも一発KOという屈辱的な敗北を経験した。
彼はインタビューで、この敗北から多くのことを学んだと話し、 「たった一撃が試合の運命を決める…今はケージの中でもう少し慎重に行動し、もっと考えるようになった 」と語っている。
マカチェフはこの敗北をバネに成長し、新たな不敗神話をスタートさせたのだ。
敗戦をバネに
その後、クリス・ウェイド、ニック・レンツを立て続けに判定3-0で破り、復調を見せるマカチェフ。次戦ではブラジリアン柔術のエキスパート、実に13もの1本勝利を誇るグレイソン・チバウと2018年1月に対戦。チバウは前試合で薬物検査で二度陽性が出て試合出場停止となり、実に2年2ヶ月ぶりの復帰戦という事で気合が入っている。
しかし、マカチェフは、たった一発のパンチで、チバウの格闘人生がかかったこの試合を終わらせた。
試合開始40秒ほど、右のフェイントを放ち意識を逸らしてから、電光石火の左フック。これが完璧にヒットしてチバウは崩れ落ち、さらにほぼ意識が飛んでいるチバウに強烈なパウンド。ここでレフェリーが止めに入り試合はストップ。まるでマルティンスに敗れた時の悪夢を振り払うような、衝撃的なKOであった。
試合後マカチェフは
「グレイソン はタフな相手だ。UFCでは小さなグローブを使っているから、ワンパンチで負けることもある。でも、今日は勝てたよ。グレイソン・チバウはレジェンドであり、僕は彼をとても尊敬している。彼はUFCで多くの試合を経験し、多くのタフガイを倒してきたんだ」と対戦相手のチバウに敬意を示した。
一方で
「トップ15には、クズな選手が多い。1番のクズ野郎はケビン・リーだと思う。UFCよ、ケビン・リーを僕にくれ」と、以前からロシア人ファイターに侮辱的な発言をしていた、ケビン・リーとの対戦を希望した。
だが、このマカチェフの挑発に乗り気だったケヴィンだが、この後さらにマカチェフが勝ち進み、いよいよ直接対決かという時に、相手はチャールズ・オリベイラとの試合を選び、マカチェフに「楽な方を選んだ」と非難されている。
故郷で見せる勇姿
快進撃を続け勝ち続けていくマカチェフは、2019年、久々の故郷ロシアで行われるUFCの興行に出場が決まる。ここまでの快進撃を考えると、いよいよ今度こそトップ15以内のファイターとカードが組まれると思われたが、なんとその相手はアルマン・ツァルキャンという、この試合でUFCデビュー戦を迎えるド新人であった。
もしこんな事がAJ・マッキーやフアン・アーチュレッタに起これば、彼らは牙をむき出しにして、運営にたいして罵詈雑言を浴びせていただろう。だがマカチェフは盟友のヌルマメゴドフ同様、人間的にも非常に成熟していた。このいわば理不尽とも言えるカードを前にして、マカチェフはこうコメントした。
「僕が恐いから避けている訳ではないんだ。トップ15に入る選手はリスクを負いたくないから、なかなか対戦相手が決まらないんだけなんだ。トップ15以外の選手に負ければ、その選手のランキングは奪われることになる。例えば4位が7位と戦うのは、負けても3つポジションが下がるだけだからだ」
マカチェフh、UFCのランキングの仕組みに理解を示し、とにかく目の前に現れた男と戦うだけだ、というファイターの中のファイターと言える姿勢を見せた。
UFCも流石にただの新人をマカチェフにぶつける訳はない。ツァルキャンはMMAデビュー2戦目での敗北以来、無敗の12連勝。第6代ウェルタ―級キング・オブ・パンクラシストの佐藤豪則も倒している強豪だ。
マカチェフはツァルキャンのついて、「若くて、ハングリーで、タフな男だ」と、一定の評価を見せたが「ただ彼の試合をいくつか見たけど、驚くようなものはなかったよ」と冷静に相手の実力を分析。
「勝つためなら何でもする。とても大事な試合なんだ。母国の人々を楽しませ、良いところ見せたいからね」と母国への強い想いと共に勝利への執念も示した。
2019年4月20日、待望のホーム、ロシアでの試合が始まった。
イスラム・マカチェフとアルマン・ツァルキヤンが、グラウンドでの覇権を賭けて一進一退の攻防を繰り広げる。
両者とも、序盤は足元が定まらず、スリップ気味だ。ラウンド中盤、テイクダウンに失敗し脇を差されたマカチェフだったが、この試合で最も巧妙な技の一つである足払いを成功させ、マウントを奪った。
マカチェフはハイレベルなグラウンドテクニックでツァルキャンを支配しようとするが、ツァルキャンも2度アームロックを極めかけるなど、一歩も引かずに応戦する。
高度な技の応酬、激戦に消耗してきたツァルキャンに対し、最終Rではマカチェフが更にギアを上げ、ツァルキャンをパワーで圧倒し金網に押し込み続ける。ハビブ・ヌルマゴメドフを彷彿とさせるその勇猛な戦いにツァルキャンは圧倒され、マカチェフ優勢のまま試合は終了。
判定は3-0でマカチェフに軍配が上がり、オクタゴン5連勝を達成した。
試合後、
「久しぶりにフルラウンドを戦ったので、少し予想外だった。でも、勝利できてうれしいよ。グラウンドでもっと優位に立てるかと思ったけど、彼は強い選手だ。彼の将来は有望だ」
とツァルキャンの健闘を称えた。
マカチェフは正しかった。ツァルキャンはこの敗北後に5連勝し、今ではUFCライト級注目株の一人となっている。
絶望の年、2020年
次戦ではダヴィ・ハモスを3-0の判定で降して連勝を6に伸ばし、いよいよライト級の中で抜きんでた存在として認められてきたマカチェフ。
「誰であろうと目の前に現れた者と戦う」と、どんな相手と組まされても文句をいう事は無かったマカチェフに、ついにUFCの運営はホンモノの強豪とのカードを用意した。その相手とは、元ライト級チャンピオンで、二階級制覇を目指してウェルター級に移ったが、タイトル戦で敢え無く敗北し、ライト級に帰って来た、ラファエル・ドス・アンジョスである。
マカチェフの強さが周囲にも認められ、本当の強者と戦う姿を望む声が大きくなってきたところでのこのカードに、多くの格闘ファンは沸いた。だが、マカチェフはアンジョス以前に別の強敵とも戦いを余儀なくされた。その強敵とは、言わずと知れた新型コロナウイルスである。
試合は2020年10月24日に予定されていたのだが、試合間近になって、まずはアンジョスがコロナの感染を報告し試合をキャンセル。代役を立ててマカチェフがメインイベントを務める予定だったが今度はマカチェフも直前に試合をキャンセル。特に理由は発表されず、怪我かと思われたが、11月に初めにこの試合の欠場の原因がコロナの感染だったと発表。
マカチェフは約1ヵ月間症状に苦しみ、免疫の低下と体重の減少で練習や試合どころでは無かったと語っている。
2020年はマカチェフのキャリアにとって最悪の年と言わざるを得ないだろう。この試合の前にも、ケヴィン・リーとのマッチに向けて話を進めていたが、ケヴィンはチャールズ・オリベイラとの対戦を選び、マカチェフの試合は流れ、さらにはダン・フッカーとの対戦も要求したのだが、これも断られて試合を組む相手が居なくなってしまったのだ。
また同年3月にはマカチェフのツイートが大炎上するという事態も起こっている。
UFC248で行われたチャン・ウェイリとジョアンナ・ジェドルチクの女子ストロー級タイトルマッチ中に投稿されたツイート(その後、削除された)で、マカチェフは、”これは女性のスポーツではない “と述べたのだ。
この発言が大きな物議を醸し、マカチェフへの批判が集中。ジェンダー問題に厳しいアメリカにおいて、彼を擁護する者は皆無に近かった。
毒舌を商売道具としているコナー・マクレガーはこの件に嬉々として噛みついた。
「絶対的な愚か者だ」というツイートを皮切りに、「打ち合いを避け、試合を引き延ばすためなら何でもするステロイド詐欺師が、女性格闘家たちによる最高の勝負に口を挟む。不潔なネズミめ。この業界の恥さらしだ!」とマカチェフを一刀両断。
また他にも
「女性蔑視のスポーツじゃない。あんな戦いが出来るようになってから言えよ」
「あんたの試合より彼女たちの試合をみるわ」
など方々から辛辣な言葉で批判された。
5年越しの決着
1試合も出来ず、ツイッターは炎上し散々な一年だったマカチェフだが、翌年の2021年3月、ようやく1年半ぶりの試合が組まれた。
相手は、直近3戦全てをKOで1、2R勝利し、大きな注目を集めていたドリュー・ドーパー。ドス・アンジョスでは無かったが、相手にとって不足はない。
実はこの試合はドーバーが長年望んできたものだった。
2016年に両者の対戦が予定されていたのだが、マカチェフに禁止薬物、メルドニウムの陽性反応が出て試合は中止に。後にマカチェフの無実が証明されたが、試合が再び組まれる事は5年後のこの時まで無かった。
長年待ち続けたこのマッチメイクを前にドーパーは
「彼は2017年から僕のレーダーに映っていた。彼との対戦を熱望していたんだ。イスラムは戦う相手を探していたから、俺は絶対に戦うと手を挙げたんだ。素晴らしいマッチアップだ」と、その喜びを語る。そして
「今、誰もが僕を倒そうとしていると思う。イスラムはしっかりとしたグラップラーで、僕にとっていいテストになる」と自分の真の力を試す機会に期待している様子が伺えた。
ドーパーの期待はその週の土曜日に恐怖へと変わった事だろう。
試合が始まるとマカチェフは全ラウンドで1分1秒たりともドーパーのリードを許さず、その圧倒的な強さを改めて見せつけていく。立ち技でも相手を圧倒し、テイクダウンを狙うとその殆どを成功させ、異次元のパワーでドーパーに何もさせず試合を支配していく。2Rは序盤から終始グラウンドで上になり、激しいパウンドと肘をコンスタントに叩きつける。ドーパーは明らかにダメージを受け、体力も相当消耗しているようだ。
最終Rもすぐにグラウンドの展開になると、マカチェフは再び激しいパウンドで試合をリード。だが、降り降ろされたその拳をドーパーが、キャッチし、“最後のチャンス” と全力マカチェフの腕を捻じ曲げる。マカチェフも顔を真っ赤にしながらこのアームロックを何とか振りほどくと、間髪入れずにドーパーの首に腕を回して抱きつく。ドーパーの動きが一瞬で止まる。なんとマカチェフはこの一瞬で肩固めを極めたのだ。ドーパーは苦悶の表情を浮かべ、数秒後に堪らずタップ。
あらゆる面でドーパーを凌駕し、横綱相撲の1本勝利で5年越しの勝負にケリをつけた。
After putting on a grappling masterclass Islam Makhachev forced Drew Dober to tap in the 3rd round! 👋
The first man to greet and congratulate him? None other than Khabib! 🦅#UFC259 pic.twitter.com/CJ4oguqQUl
— UFC on TNT Sports (@ufcontnt) March 7, 2021
「僕は1ラウンドで彼を終わらせようとしたけど、“ドーベル”はとても強い男だ」と試合後にメディアに語るマカチェフ。
「彼はクレイジーなパワーを持っている。だからまずは彼に力を使わせ疲れさせて、3ラウンドでフィニッシュする事にしたんだ」と、ドーパーへのリスペクトを含めて勝因を語った。
さらに「私の夢の試合はトニー・ファーガソンだ」と続ける。
実はトニー・ファーガソンは、マカチェフの盟友ヌルマメゴドフと因縁があり、執拗にツイッターでヌルマメゴドフに絡んでいるのだ。
マカチェフはこう語った。
「 彼を引退させたいんだ。彼はしゃべりすぎだ。ハビブは引退したのに、彼はプレッシャーをかけ続けている。俺は7連勝中だ。やらせてくれ」
ダン・フッカーとの因縁
しかし、トニーファーガソンとの試合のは叶わず、次戦ではブラジリアン柔術の達人、ディエゴ・モイゼスと対戦。この試合前に盟友ヌルマメゴドフが、いよいよタイトルショットを射程圏内に入れたマカチェフについて言及している。
「この土曜日、君は自分自身を証明しなければならない」「イスラム・マカチェフが誰なのか、世界に見せてやるんだ。ハビブの後継者としてではなく、彼自身を証明するんだ。イスラム・マカチェフ。世界最強だ。8連勝中だ。あらゆる敵に打ち勝ったんだ」
この言葉通りマカチェフは、ブラジリアン柔術の達人モイゼスから、4Rにリアネイキドチョークで一本を取って見事に勝利した。
この試合の後、マカチェフはラファエル・ドスアンジョス、トニー・ファーガソン、マイケル・チャンドラーなど、ライト級のトップランクの名前を挙げ「みんな、逃げることはできても、隠れることはできない。いずれは戦う事になる。僕がこのライト級にいるんだから」と、トップランクほぼ全員に宣戦布告。しかし、同じくトップ5内にいるダン・フッカーの名前だけは言及しなかった。
皮肉にも、次戦ではこのフッカーを迎える。
実はマカチェフにとって最悪の一年だった2020年、フッカーはマカチェフの対戦要求を断りポール・フェダーと対戦したのだが、ここから両者の間に因縁が生まれている。
対戦を拒否したフッカーにマカチェフが「僕を恐れているからだ」と言うと、フッカーは「エンターテイメント性のないマカチェフとやるのは時間の無駄だ」と応酬。
フッカーが断った試合は彼の故郷、オークランドで行われる予定だったのだが、「早送りで見てても退屈な試合なのに、生で見るなんて想像も出来なかったよ。試合後、僕の故郷の観客たちが流血の暴動を起こしていたと思う」とマカチェフのファイトスタイルをとことん貶めた。
さんざんな言われようだが、彼にはそれだけの事を言う実績がある。
フッカーはこれまでに22勝を挙げているが、そのうちKO勝利11回、一本勝ちが7回という、約8割のフィニッシュ率を誇っていて、11敗と黒星が多いのも、守りに入らずにとことんフィニッシュにこだわる姿勢なだけに、反撃のリスクも多いためだと考えていいだろう。それだけにキャリア通して1敗しかしてないとはいえ、KO勝利が4回というマカチェフは、フッカーの目には退屈に見えたようだ。
一方マカチェフは「前回の対戦相手3人を仕留めたから、ダン・フッカーを仕留めなければならないのは分かっているんだ。そして、私はすべての私の選手に対してフィニッシュを狙っていく、みんなわかっているはずだ。でも、もうすぐタイトルをかけて戦わなければならないから、UFCに自分のレベルを見せなければならない。だから、あらゆる方法でフィニッシュしようと思っているんだ」と、マカチェフもここまで言われたからには、フィニッシュを極めてやろうじゃないかとフッカーに答える。
試合は2021年10月30日に行われた。
序盤からテイクダウンを取るマカチェフ。やはりグラウンド上では完全にマカチェフの独壇場だ。細かくボディへのパンチや膝を入れて行く中でフッカーは自分の足をマカチェフの足に絡ませひたすら耐える事しかできない。そうしているうちにマカチェフがフッカーの腕を取る。あっという間に体勢を変えてキムラロックを完成。フッカーの腕をへし折らんとばかりに捻じ曲げていく。しかし、意地でもタップしないフッカー。だがフッカーの肘がもうあり得ない方向に曲がり始めたのを確認してレフェリーが試合をストップ。
「誰であろうと倒せる」マカチェフは勝利の後に豪語する。
「僕のグラップリングのレベルは、この階級の誰よりも優れている」
「 タイトルマッチの準備はできている。この階級は少し退屈だったが、僕がこの階級を目覚めさせたんだ。ベルトを奪い、何年もこのベルトを守るんだ」と強く宣言した。
2022年2月、タイトルショットの前哨戦とも言えるボビー・グリーン戦では、前半からテイクダウンに成功し、完全にグリーンをコントロールしながらハンマーフィストをボビーの顔面に連打し、1R3分半でレフェリーストップ。誰も口を挟む余地のない、正真正銘のチャンピオン候補として名乗りを挙げた。
いざ、アブダビでタイトルショットへ
当時の王者はチャールズ・オリベイラ。幾度もの挫折を乗り越えて、10年がかりでライト級王者になり、UFCの最多一本勝利数を持つ、世界最高レベルのブラジリアン柔術のテクニックを持つ男だ。
ただ、彼はジャスティン・ゲイジー戦で契約体重を超過してしまい、試合には勝ったものの王座を剥奪され、ライト級の王座は空位に。よってタイトル防衛戦ではなく、王座決定戦として2人の試合が2022年10月に組まれた。
キャリアの中で、最も重要な瞬間を前にして、マカチェフこうは語る。
「チャールズと戦いたいから、彼が体重を減らしてくれることを願ってるよ。でも、まぁでも問題はそこじゃない。今回のキャンプではハードなトレーニングを積んだから、誰が来るかなんて関係ない。土曜の夜には、俺と戦う誰かが必要なんだ」
マカチェフにとっては試合の内容より、オリベイラが契約体重を守れるかどうかが心配だったようだ。
さらに「彼は確かにチャンピオンだ。だがチャンピオンはみんなにプロとしての姿勢を見せなきゃならない」とやや説教気味に続け
「誰も僕のレスリングを止めることはできないよ。自分の仕事をするつもりだ。いつもと同じことをするつもりだ。テイクダウンして、相手を拘束し、疲れさせ、仕留める。グラップリングのレベルの違いをみんなに見せないとね」
と、柔術のレジェンド相手にグラウンドで真っ向から勝負する事を宣言した。
一方オリベイラは
「あれはもう過去の話だ。時代は変わった。あの時のチャールズ・オイベイラとは別人だ。俺は過去から学んできた」
と体重超過を起こした時の自分はもういないと語り、
「これは私のレガシーの一部であり、俺の物語の一部だ。俺は誰も恐れていない。誰にでも敬意を払うが、誰と戦うことも恐れてはいない」と勝利への自信を表す。
そして「マカチェフを1ラウンドでノックアウトする」と宣言した。
10連勝で迎えたタイトル戦。マカチェフはこの試合に勝つと、タイトルと同時に自身最多と並ぶ11連勝を記録する事にもなる。
試合は2022年10月23日に行われた。
1Rが始まるとオリベイラがすぐに飛び蹴りを出しながら飛び込んでくる。それに対し、マカチェフはエンジン全開で激しいワンツーを繰り出しオリベイラを圧倒。オリベイラが堪らず組みつくと、もつれあってグラウンドの展開に。ここでもマカチェフは圧倒的なパワーで相手を支配し、強打はないものの、細かいパンチをボディや顔面に当てていく。
一旦立ち上がるが、ケージ越しの組み合いでマカチェフが芸術的ともいえる美しい大外刈りでテイクダウン。終始マカチェフが優勢なままラウンドは終了した
2R、序盤は立ち技で打ち合うが、打撃戦でもマカチェフはオリベイラを凌駕。左フェイントからの右フックをキレイにヒットさせ、強烈な左ハイでガード越しからでもオリベイラをグラつかせて会場を沸かせる。さらにラウンド中盤オリベイラの飛び膝にカウンターのワンツーを合わせると、右が直撃してオリベイラがフラッシュダウン。そこからは一瞬だった、倒れたオリベイラの上に素早く覆いかぶさると、瞬時に肩固めを完成。オリベイラは大蛇に巻きつかれた小動物の様に小さな抵抗を見せたが、時すでに遅し、無念のタップで試合を終わらせた。長かったタイトルの道を11連勝で走り切り、見事に王座を掴み取ったマカチェフ。
試合後には盟友でありコーチでもあるヌルマメゴドフや、ダニエル・コーミエ(UFC史上二人目の二階級王者)をオクタゴン内に呼び、
「この、私のベルトは、私のコーチであるヌルマゴメドフの父のためのものだと言いたい」と語り、「何年も前から彼は、『とにかく一生懸命練習すればチャンピオンになれる』と言ってくれていた」と格闘技を始めるきっかけをくれたヌルマメゴドフの父への感謝を述べた。
そして、オクタゴンの中にパウンド・フォー・パウンド1位、あの“ザ・グレート” アレクサンダー・ヴォルカノフスキー(現UFCフェザー王者、4度防衛中※2022年11月現在)を呼び出し、2023年2月11日に行われるオーストラリアでの大会で、ライト級のベルトをかけて対戦を申し込むと、ヴォルカノフスキーはこれを承諾。この試合でパウンド・フォー・パウンド3位に上昇したマカチェフと1位の“ザ・グレート”、王者同士の対決が決定し、観客たちは熱狂した。
すでに備わっていた強靭なフィジカルと、最強のコーチ陣から受け継いだ高度なテクニックが見事に融合し、もはや全く弱点の見えないUFC最強の一角、イスラム・マカチェフ。ヌルマメゴドフと同様、彼の真っ直ぐでひたむきな人格からも、さらなる成長を遂げる可能性は充分にあるだろう。「ヌルマメゴドフの後継者」から、真のレジェンドになっていけるのか、マカチェフの本当の挑戦はここから始まる。そんなイスラム・マカチェフ選手からはまだまだ目が離せない。
イスラム・マカチェフの知りたいトコ!
イスラム・マカチェフに彼女は?結婚してる?
盟友のヌルマメゴドフと同様、プライベートの話を一切しないマカチェフだが、彼が結婚しているという事だけは分かっている。結婚式を挙げたのは2021年4月8日。花嫁の顔どころか、名前も明かしていないが、結婚式を挙げたという事だけは確かなようだ。ネットに挙げられている写真には手前にSPのような佇まいの屈強なヌルマメゴドフが、奥にはマカチェフと白いヴェールに全身を包んだ花嫁が見える。
マカチェフは何があっても世間の目から妻を守る、強く優しい男のようだ。
マカチェフの趣味は?
こちらに関してはインスタグラムやTikTokで確認する事が出来る。マカチェフは乗馬が好きなようで、それも趣味の領域を超えた、相当な腕前だ。美しいサラブレッドにまたがり、華麗に柵を乗り越えている動画をアップしたり、砂浜をかなりのスピードで颯爽と駆け抜けているものもある。またモトクロスバイクも得意なようで、急角度の崖を勢いよくバイクで登り切る姿も動画で確認する事ができる。
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徹底した秘密主義
マカチェフは実の両親についても徹底的に秘密を守り、未だに彼の父が何をしているのか、何歳なのか、そもそも両親の存在を口にしないので知る由もない。チャールズ・オリベイラを倒した時も、その勝利をヌルマメゴドフの父に捧げると言い、実の父には触れもせず。しかし決して仲が悪いわけでも無く、両親との関係は良好のようで、身内に迷惑をかけたくないというマカチェフの真面目な性格ゆえの行動なのだろう。
まとめ
ここまでイスラム・マカチェフのストーリーを見てきたがいかがだっただろうか? 最強のファイターを幾人も生み出す戦士の国に生まれ、最強の隣人を持ち、その父に格闘技を教え込まれた、まさに最強になる宿命を背負って生まれたマカチェフ。
プロMMAに参戦すると圧倒的なフィジカルの強さで相手をねじ伏せて勝ち続け、「ハビブの後継者」「ハビブの弟」等と呼ばれるようになる。一時は「退屈な試合」「早送りでも見ても眠くなる」等と、そのファイトスタイルを揶揄される事もあったが、弛まぬ鍛錬の末に高度な打撃テクニックと破壊力を手に入れ、コンプリートファイターへと成長し、文句なしのライト級チャンピオンに輝いた。
今後はあの“ザ・グレート” アレクサンダー・ヴォルカノフスキーとの注目の一戦が待っているが、この試合の結果次第では、「ハビブの後継者」から、「ハビブを超えた男」という称号が与えられるかもしれない。
ここからが全盛期といってもいいまだ若きチャンピオン、イスラム・マカチェフをこれからもみなさんと応援していきたい。
※アイキャッチはUFCの公式HPより引用