UWFをこよなく愛し、“プロレス”にこだわって総合のリングでも戦い続けて来た中村は、これまで実に数々の強敵、レジェンド達との名勝負を繰り広げ、その長い戦歴の中で幾つもの通り名が付けられている。
その一つに“さすらいの腕十字” というニックネームがあるが、これもまさに中村の格闘人生をよく表している。
中村はその長い戦績の中で、総合格闘技、グラップリング、プロレスの試合を同時進行で交互にこなし、DEEP、PRIDE、HERO’S、RIZIN等々、対戦相手がいるならばどんなリングにも上がって来た。
42歳になった今も精力的に活動し、衰えるどころか更に凄みを増してきている。
いったい彼の格闘技への愛、そして衰えぬ闘志はどこからやってくるのか、今回は“Uの後継者”中村大介を丸裸にしていこう。
中村大介のプロフィール
名前 : 中村大介
生年月日 : 1980年6月10日
出身地 : 東京都足立区
身長 : 175cm
体重 : 66Kg
戦績 : 33勝21敗(8KO 17SUB)
階級 : フェザー級
所属 : 夕月堂本舗
獲得タイトル : DEEPライト級王者
入場曲 : 西部警察 PARTⅡ 「ワンダフル・ガイズ」
バックボーン : プロレス
公式 HP : ー
Twitter : 中村大介
Instagram : 中村大介
Youtube : ー
アパレル : ー
ファンクラブ : ー
今年42歳の中村は自身の「まだまだ全盛期です!」という言葉に偽りなく、衰えを見せずにさらに進化を続けている。一体どんな格闘人生を経て、彼はここまで強くなったのか、プロデビュー時にまで遡って彼のストーリーを見ていこう。
高校球児から総合格闘家へ
中村は1980年6月10日、東京都足立区で生まれた。高校3年までは野球に打ち込み、現役をまっとうしたが、元来のプロレス好きもあって、大学時代に田村潔司率いるU-FILE CAMPに入門し、鍛錬を積む。プロデビュー戦となった2002年7月のMMA The BEST vol.2ではシャノン・“ザ・キャノン”・リッチ相手に後に自身のトレードマークとなる腕ひしぎ十字で一本勝ちを飾る。
精力的に試合に出場し、2002年、では4戦、2003年と5試合も戦い、9戦6勝、そのうち腕ひしぎでの一本勝ちがなんと5回と、すでにその技は一流の領域に達していた。
2004年に行われたDEEP初代ウェルター級王者決定トーナメント1回戦ではアマレス天皇杯優勝の猛者・小野瀬哲也を試合開始わずか50秒で葬ると、10月の準決勝では星野勇二を右ストレートでKOして決勝に進出。だが、青木真也を破って勝ち進んできた中尾受太郎と対戦し、3RにTKOで完敗を喫する。
その後、2005年4月にPRIDE武士道に初参戦し、実力者マーカス・アウレリオに判定負けを喫するが、06年8月のPRIDE出場2回目の池本誠知戦では一本勝ちを収め、同大会でのベストバウトとも呼べる好勝負を演じた。
次戦では、当時無敵の強さを誇っていたビトー・“シャオリン”・ヒベイロに肘関節を決められて敗北するも、その後は様々な団体を渡る歩きながら勝利を重ねHERO’S初参戦となった07年10月のクォン・アソル戦、そして08年はDREAM、M-1チャレンジ含め怒涛の7連勝。さらに同年は、U-STYLEでプロレスの試合も4度出場し3勝を上げている。驚くべきバイタリティであると共に、格闘技への強烈な情熱を感じる。
夢の舞台Dynamiteへ
この怒涛の勢いと、輝かしい戦績を引っ提げ、ついに格闘技7年目にして、夢の大晦日の舞台、Dynamite!!~勇気のチカラ~に出場。あのホイラー・グレイシーやブラッド・ピケットを始めとする、数々の外国人選手を破り、五味隆典と並ぶ日本中量級の守護神となっている所英男と拳を交える。
試合が始まり、タックルに来た所の腕をいきなり狙っていく中村。一瞬所の腕が伸びたが、所は飛び跳ねるようにして中村を振りほどき、バックを取りジャーマンスープレックスへ、綺麗には決まらなかったが、中村をマットに寝かせ、スクランブルに。
何と中村は激しく動き回る所の腕を取り、再び腕ひしぎの体勢へ。芸術的とも言える中村の技を目の当たりにし、客席からは大きな歓声が沸き起こる。
だが、所は上手く身体を回転させ、逆に上を取ると、今度は所が腕ひしぎを狙う。必至に振りほどこうとする中で、中村は所の足に自らの足も絡めて身体を回転。足を狙いに行くかに見えたが、何と足関節に行くと見せかけて、所の右腕を掴み、魂を込めて所の腕の腕を伸ばしにかかる。必至に腕組みをして耐える所の腕を、絶叫しながら引き剥がす中村。
ついに所の腕は伸びきり、我慢しようとするが、堪らずにタップ。
憧れの大晦日の大舞台で、観衆の度肝を抜くグラウンドでの激闘を演じた上、見事な一本勝利で“Uの後継者” としての責任を果たして2008年の幕を閉じた。
翌年は4戦1勝と成績は振るわなかったが、2010年には天突頑丈、ジャイ・ブラッドニー、ISEを立て続けに破って3連勝を挙げ、勢いを取り戻す。翌年の初戦こそ元DEEPライト級王者の菊野克紀に敗れたが、その後さらに2連勝し、廣田瑞人が海外挑戦のために空位となったDEEPライト級王座を懸けて、岸本泰昭と対戦する。
初のタイトル獲得へ!
岸本は当時8連勝中で快進撃を続けていた勢いのある選手だ。試合前のインタビューで中村については「僕のキャリアの中では、これまでの中では一番の難敵だと思っています。僕は今8連勝してますけど、2008年にプロデビューしてからのお互いの勝ち星というのがほとんど一緒なんですよね。中村選手は負けもありますけど、上の舞台で強い選手とばかりやってましたから」と中村へのリスペクトを見せつつ警戒を強める。
一方の中村は
「廣田選手とやりたかったというのもありますし、岸本選手もタイトル挑戦をアピールしていた部分もあると思うので、自分の中では岸本選手に勝ってから廣田選手に挑戦するのが筋かなとは思っていました」「(岸本の)最近の映像を見ました。やはり固い攻めというか、ポジションをとって勝ちにいくスタイルですよね。今まで自分はそういうタイプの選手を苦手にしていたのですが、試合が決まった以上そういうことは言っていられません。自分はまだまだ上を目指して成長したいので、ステップアップするためにもちょうどいい選手だとは思います」と語った。どうやら中村にとって岸本は、本命の廣田と戦う前の、踏み台にすぎないようだ。
そんな中村の思惑とは対照的に、試合は大激戦となった。1、2Rを通して、足、腕、首とあらゆる角度から一本を狙いに行く中村。岸本は何度も危うい状況に置かれながらも、脅威的な身体能力で切り抜け、関節やパウンドで逆にプレッシャーをかけていく。
最終R、技のかけ過ぎでやや中村に疲れが見える。前半はスタンディングでの戦いが続くが、両者一歩も引かず、一進一退の攻防だ。そんな中で、中村が根性を見せ、やや攻勢を強めて来た所で中村がタックル。グラウンドでの激しいスクランブルの中、最後は岸本がバックを取り、後ろから強烈な拳を中村に叩きつけた所で試合終了のゴング。
非常に白熱した激戦だったが、グラウンドでやや攻勢に出ていた印象が強かったか、3-0の判定で中村の勝利となり、中村は10年のキャリアで初めてのベルトを手にした。
MMAへの恐怖
だが、やはり王者になるという事は、全てのファイターに狙われ、研究されるという事。2013年4月の初防衛戦で北岡悟に敗れ王座から陥落すると、次戦でも廣田瑞人を相手に必殺の腕ひしぎが決まらずに判定で敗北。
北岡、廣田共に実力者なだけに、敗北しても不思議な事ではないが、その後、さらなる不調が続き、2015年から2016年にかけては自身初の4連敗を喫し、モンゴルで開催されたMGL-1では、KOされた時のダメージが激しく、病院に直行するという事態に。
この試合をきっかけに中村はMMAを離れる。当時の事を振り返って中村はこう語る。
「モンゴルでの試合……アマルサナー・ツゴォーフ戦で、KO負けしたんですね。その前の試合では、VTJで川名雄生選手にTKO負けしていたんですが、KO負けして直後に病院へ行ったのは初めてでした。それでMMAというか、打撃がある試合をすることが怖くなってしまったんです」
「いつの頃からか、打撃中心の試合になっていたんです。それでアマルサナーとの試合では打撃戦でKO負けして……。打撃が怖くなり、一度MMAから離れようと思ったんですね」
その後は桜庭和志が立ち上げたグラップリング大会のQUINTEDに参戦し、元RIZINフェザー級王者、斎藤裕に勝利し、現在RIZINで活躍している竿本樹生とも好勝負を演じるなど活躍した。
蘇る闘志
中村はこのまま総合から引退するだろう、多くの格闘ファンはそう考えていたが、なんと2020年9月20日、中村はDEEPの舞台に再び帰ってくる。対戦相手は、デビューから8連続KO勝利を収める程のハード・ストライカーである長倉。数年間グラップリングでの試合に集中し、年齢も40代に達した中村は、長倉のハードな打撃に対応できるのか。
だが、そんな懸念はどこ吹く風と、試合開始早々に中村は左ハイキックで長倉からダウンを奪う。だが、長倉も強烈な右ストレートからジャブで中村をグラつかせ、うずくまった所にサッカーボールキック。さらにケージに追い詰めてのラッシュと、強烈なプレッシャーをかけて来る。一進一退の攻防が続くが、ラウンド後半には中村が鋭い右のカウンターで再び長倉をダウン。MMAのブランクを全く感じさせない、ハイレベルな打撃で長倉を圧倒する。
そして2R、わずか開始16秒、風を切るような中村の鋭いワンツーが長倉を直撃。長倉は糸の切れた操り人形のようにマットに横たわり、試合はストップ。
多くの人の懸念を吹き飛ばす、衝撃の復活KO勝利を目の当たりにし、会場は興奮に包まれた。
試合後、マイクを取った中村は「MMAの試合を4年ぶりにやってすごく怖くて、それを乗り越えて練習して、長倉選手はすごく強かったですけど、勝ててよかったです。グラップリングを最近練習してまして、クインテットが来月後楽園でありますのでよろしくお願いします」と、安堵の気持ちを表現した。
ライバルとの死闘
そして、2021年2月21日。記念すべき、DEEPの100回目興行で、現RIZINフェザー級&DEEPフェザー級の二団体同時現役王者、日本のMMAフェザー級を代表する選手の一人である、牛久絢太郎と拳を交える。
この試合はタイトル戦ではないものの、復帰していきなりの王者との対戦を控え、中村は
「今回いきなりチャンピオンととは光栄です。四十路の青春、ボクもやりたいのです。最近、プロレスリングがすごく楽しいのです。夢か現実か!頑張ります!」と、まるで新人選手のように無邪気な気持ちをSNSに投稿した。
牛久は基本をしっかり抑えた柔道と打撃、そして強靭な身体能力をベースに、自分のセオリーをしっかりもって勝ち続けてきた選手だ。そんな牛久と対照的に、トリッキーで何をしでかすかわからない中村と拳を合わせ、どんな化学変化が起こるのか、コロナ禍で観客のいない中でも、この試合には大きな注目が集まる。
試合は、中村のローブローや、偶然のバッティングで牛久の頭部が中村の鼻に直撃するなど、かなりラフな展開に。中村の鼻から多量の出血があり、試合は止められドクターチェックが入る。長めのインターバルを挟み、鼻の血も止まったところで試合は再開。
牛久は攻撃時に頭を下げて突進する癖があり、これが中村の攻撃の姿勢と上手くかみ合わないようで、その後もバッティング気味な場面が多く、牛久にイエローカードが与えられる。
試合が再開され、牛久は勢いよく突進し、中村をケージに追い詰めると、試合の舞台はグラウンドへ。中村はバランスの取れた牛久のフィジカルに圧倒されるが、そんな状況でも常に攻撃の糸口を探し、牛久の腕を掴んでアームロックへ。牛久にとって危機的な状況だったが、ゴングに救われた。
2R開始20秒、中村が頭を下げている所に牛久が鋭いタックルを仕掛け両者の頭部が衝突。「ガツン!」という大きな音と共に両者マットに転がる。両者かなり大きなダメージとなり、試合は再び中断。非常にやりにくい試合展開であったが、中村は牛久の頭が下がる癖を逆に利用する事を思いつく。
試合が再開されるとすぐにその作戦は機能した。パンチを出そうと頭を下げた牛久に完璧なタイミングでカウンターの左膝を叩きつけたのだ。この一発で意識が吹き飛んだ牛久に、追撃するまでもなく中村のKOで試合終了。40歳中村大介の大金星に、ステイホームしていた格闘ファン達はSNS上で絶叫した。
俺たちのナカムラダイスケ!
DEEP 100 IMPACT 牛久絢太郎VS中村大介 https://t.co/0gI6cPYvxm @YouTubeより
— 西林浩平 (@kohei24) February 22, 2021
中村大介vs牛久絢太郎、漫画みたい!突っ込んでくるバッティング砲弾を真正面から膝蹴り一撃迎え撃ち葬!痛快!鼻血出るわ凄まじいバッティングで両者ブッ倒れるわどうなるかと思ったけど!中村大介、凄いわ!4年ぶりの復帰で衝撃のKO2連勝!40歳、活き活き戦いの道へ進む如くルーツはUの魂✨#DEEP100
— 侍MMA-レンノカ1231 (@Rennoka) February 22, 2021
試合後にマイクを取ると「試合が何回も中断してすみませんでした。チャンピオンが強くてなかなか行けませんでした。今回からフェザー級に落としましてまだまだ行けるなと思ってますので、フェザー級いま盛り上がっていて楽しそうなのでよろしくお願いします。佐伯さん100回おめでとうございます。中村大介40歳、ここからが全盛期です」と、中高年に勇気を与える力強いメッセージを残した。
総合に復帰し、衰えるどころか、グラップリングによって格闘IQはさらに研ぎ澄まされ、打撃にも磨きがかかり、若き日を超える勢いの中村。次戦では、改めてDEEPフェザー級のベルトを懸けて改めて牛久に挑戦する。
試合前のインタビューでは
「KO負けしてからのタイトルマッチだから、牛久選手も僕のことを研究し尽くしてくるでしょうから、前回とは全く違いますよね。その牛久選手と対戦できるのが嬉しいです。僕は、僕のプロレスリング道を貫いて、KOか一本で勝ちます」
と、前回KO勝利した相手にも油断せず、警戒を見せる。
そして
「MMAって生涯武道なんじゃないかな、って思うんですよ。他の格闘技と比べてMMAは、やることが多いじゃないですか。だから、プロデビューから20年経った今でも、学ぶことがたくさんある。新しいことを学んで、それを試合で生かすことができる。……MMAって、楽しいですよね」
と、40歳を超えても変わらぬMMAへの情熱を語る。
2021年7月4日に試合は行われた。
試合は落ち着いた立ち上がりで、両者隙を伺いながら、小刻みに打撃を出し合う。ラウンド後半で中村がテイクダウンを決め、牛久の腕を狙う。牛久をこれをなんとか回避し、ガードポジションで上になってからは牛久がグラウンドを支配するが、ここでゴング。
2Rは拮抗した打撃戦、グラウンド戦が繰り広げられるが、両者決めてのないまま最終Rへ。
最終R前半に牛久が綺麗なテイクダウンを決める。立ち上がった中村に、牛久が強烈なプレッシャーをかけて金網に押し込み、脇をさして再び投げ飛ばす。最終Rは牛久が押している印象の中で試合は終了。
拮抗した試合内容で、難しい判定だったが、最終Rのグラウンドでの支配率が影響したか、中村は1-4の判定で敗れ、惜しくもベルト奪還に失敗した。
40歳中村大介、RIZINデビュー
敗れはしたものの、40歳にして総合に復帰し、新世代のトップファイターと熱いファイトを繰り広げる中村は、RIZINの運営からも注目され、なんと2021年10月24日、15歳年下の新居すぐるを迎え、41歳にしてRIZINデビューを果たす!
このビッグプロモーションに対し、中村は
「41歳過ぎてRIZINのベルトを目指すというロマンを追って参戦させていただきます。自分のプロレスリングを貫いて、一個いっこ勝っていきたい」
と謙虚に語り、対する新居は
「中村選手の無地のブリーフ一丁でタオル頭に巻いての試合入場がスゲー渋いなとずっと思っていた。そのパンツに中村選手の格闘技の集大成みたいなのがあるなと思っているので、今回はそのブリーフに胸を借りるつもりでぶっ飛ばしに行きます!」
と、大先輩である中村にリスペクトを示しながらも、試合への意気込みを見せた。
試合開始早々、右のローを皮切りにいきなり左右のラッシュを畳みかける中村。お返しとばかりに、新居は勢いよく飛び込みながら飛距離のあるフックで中村を追い込み、中村は転倒。間髪入れずにパウンドラッシュが襲いかかる。
立ち上がってからは、新居の回転の速いコンビネーションをギリギリでかわしていくが、さらに距離を詰め、攻勢を強める新居の強烈なパンチが鈍い音を立てて中村の顔面にヒット。試合を一気に決めようと新居は畳みかけるが、中村が左カウンターフックで新居をダウン、うずくまった新居の顔面に膝を入れた後、立ち上がった新居の後ろから新居の腕を狙う。
新居は中村を持ち上げ、無理やり腕を外そうと試みるが、約20年間、磨き続けた腕十字は簡単には外れない。必死に抵抗する新居の組んだ腕を無理やり外し、全力で腕をしならせる。新居はすぐさまタップアウトし、試合はストップ。
40代の夢を背負ってRIZINの大舞台に上がった中村が、自身の人生の象徴である腕ひしぎで見事に勝利し、“Uの後継者” を証明。会場は熱狂に包まれた。
リング上でマイクを持つと
「プロレスリング・ノア、杉浦軍の中村大介です。新居選手ありがとうございました。大きな舞台に久しぶりに出させてもらってありがとうございます。1つだけ、これはブリーフじゃなくてショートタイツといって、普段この格好でプロレスやってます。以後よろしくお願いします。中村大介、41歳、ここからまだまだ全盛期です。ありがとうございました!」
と、ユーモアを交えて高らかに宣言し、会場を盛り上げた。
真の“Uの後継者” を懸けた戦い
翌年2月には、DEEP 106 IMPACTで小見川道大の引退試合の相手を務め、こちらも腕十字で一本勝ちを収める。もう彼の腕ひしぎは、芸術を通り越して、伝統、様式美の域にまで達しつつある。
何とこの試合のわずか22日後、中村大介41歳は再びRIZINのリングに降り立つ。迎えるのは、若さと勢いを武器に、Fighting NEXUS vol.22初代フェザー級王座決定トーナメントで優勝し、弱冠21歳で王者に君臨する山本空良。
中村の約半分の歳という若き才能相手を迎えての、タイトなスケジュールでの試合強行に、周囲から心配の声が聞こえたが、
「疲れはありますけど、コンディションは良い感じです」と、好調をアピールし、
山本については「自分の半分の年齢の選手が出てくるようになってビックリしたけど、若い人には負けない自信はあるので、年齢差は気にしていない」とキッパリ。
山本は 「向こうはガンガンくると思う。こっちも攻めるスタイルだから、すごいアグレッシブな良い試合になると思う」と予想。「秒殺が良いとは思わない。一進一退の攻防をして最後にフィニッシュするのが理想」と試合の展望を語った。
最後に中村は「そこに入っていられるのは、すごいうれしいし、幸せだし、それを楽しみたい」と、いつもながら格闘技への愛溢れるコメントでインタビューを締めくくった。
山本は、UWFで活躍した山本喧一の息子で、正真正銘、Uの遺伝子を持つ男。この試合は両者にとって、どちらが本当の“Uの後継者” なのかを決める、誇りを懸けた戦いだ。
試合は2022年3月20日に行われた。
中村は完全にガードを下げ、ノーガードで山本にグイグイ詰め寄る。その気迫に押されて山本はなかなか飛び込めない。中村はコンスタントにローを当てていく。更に距離を詰める中村に対し山本が背を向けて逃げる場面も。中村が捕まえてテイクダウン。山本が下から腕を狙った所でゴング。
2R序盤に中村がスリップしてマットに転がんだところから激しいスクランブルを展開。中村に腕を取られそうになり山本が立ち上がる。再び中村がノーガードでプレッシャーをかけていく。これは山本にとってさぞかし不気味だったのだろう。後半には恐怖を振り払うように「アーッ!」っと叫び、自らを拳ながら前に出る。
最終ラウンドは序盤から中村が一気に距離を詰めて山本にラッシュを畳みかける。山本はギリギリのところでクリーンヒットを避けながら、コツコツとカウンターとカウンターを狙う。山本がバックを取り、激しいスクランブルの中で下から全力で中村の顔面に拳を叩きつけるが、試合は大きい動きの無いまま終了。
まったくの互角と言っていい内容で、難しい判定となったが、スプリット判定で惜しくも中村は敗れた。判定が言い渡された後は、UWFを愛する者同士、笑顔で互いを労い、マットに膝をついて相手に頭を下げた。
山本はこの試合について「不気味さがすごかった。入ったらやられるんじゃないかと、手が出せなかった」と攻めきれなかったことを悔やみ、さらに「相手のほうが極めに来る執着が強い。中村選手のほうがUの選手であって、自分がまだまだ器が足りない」と、中村の勝利に懸ける強い想いと器の大きさを認めた。
また、この判定については、疑念を持つファンも多く、SNSでは『中村の方が勝っていたのではないか?』という意見がチラホラ見られた。
当の中村は、「眠れなくていろいろ考えたけど、やっぱダセェ、自分」と投稿し、「コメントなどみて、判定についていろいろ言って下さるのは嬉しいですが、牛久戦2と一緒で、自分が一番わかってます」と、潔く自分の負けを認め、静かにこの物議を収めた。
その後中村は、同年7月22日に、総合格闘技無敗、あの牛久絢太郎も破っているユータ&ロックに判定で勝利を収め、さらに11月にはDEEPのリングで神田ユウヤとの対戦が決まっている。
DEEPでまた大きな活躍を見せられれば再びRIZINの、あわよくば大晦日のリングで中村を見られる可能性もあるだろう。
格闘技をこよなく愛し、42歳という年齢になってもハイペースに戦い続ける中村大介。彼の姿を自分に重ね、何かに挑戦しようという人もきっと多い事だろう。
「42歳中村大介、まだまだ全盛期です」
RIZINのリングで、またこの言葉が聞ける日が待ち遠しくて仕方がない。
中村大介の知りたいトコ!
中村大介は結婚している?
インスタの投稿を見る限り、中村は10年前に結婚しているそうで、長男と次男、ペットと共に暮らしている事が伺える。
この写真にあるようにママチャリにチャイルドシートを設置し、子どもを乗せて出かける事もあったようだ。格闘技界でも中村の人間性は高く評価されているが、家庭でも良きパパなようだ。
この投稿をInstagramで見る
中村は結構乙女チック?
中村のツイッターでは、月の画像を投稿したり、折り紙に書いた絵を披露したり、チューリップの花を撮っていたりと、意外と乙女な部分が垣間見られる。中村が立ちあげた夕月堂本舗というジムの名前からも、月に特別な思いがあるようだ。
今日の『折り紙に鉛筆でテキトーに描いた割には、けっこう上手いでしょ』アピール。 pic.twitter.com/kbMk2cTuLd
— 中村大介 (@nakamurauzukido) October 6, 2022
個性的なツイートに溢れている事もあり、フォロワーは3400人超と、なかなかに人気なようだ。
彼の独特な感性に触れてみたいという方は是非フォローしてみて欲しい。
まとめ
ここまで“Uの後継者” 中村大介のストーリーを見てきたがいかがだっただろうか?
高校球児から、総合格闘家に転身し、頑固一徹に腕ひしぎを磨きつづけ、数々の大勝負をその技で勝ち抜いてきた。一時はMMAに恐怖を抱きリングを離れたが、復帰してからは、これまで以上にスケールアップし、華麗な技と熱い闘志で我々を魅了してくれている。
「この感じだったらMMA、年6試合はイケそうだな」という呟きを見ると、「この感じならMMAあと20年はいけそうだな」と、期待してしまう。中村は怪我も少なく、非常に自己管理の上手な選手なだけに、還暦でのMMA出場も夢ではないかもしれない。現RIZINフェザー級チャンピオンの牛久と互角に渡り合った実力もあるので、今後RIZINのタイトル戦線に浮上してくる可能性も充分にあるだろう。
彼の活躍は日本を支える中高年に勇気を与え、社会に元気を与えてくれるのは間違いない。そんな“Uの後継者”中村大介の今後の活躍を、みなさんと一緒に応援していきたい。
※アイキャッチはRIZINの公式HPより引用