日本では現在、空前の“格闘技ブーム”が巻き起こっている。
最近では、総合格闘家、朝倉未来がプロデュースする「BreakingDown」がオーディション動画を通じて、数百万回の再生数を稼ぐなど若者を中心に大バズリ。朝倉未来の成功に続くように、他の格闘家も自身がプロデュースする格闘技団体を立ち上げはじめ、新興格闘技団体がどんどん増えそうだ。その一方で、伝統あるボクシングでは、井上尚弥がアジア人初の4団体統一王者となったり、キックボクシングでは那須川天心と武尊による世紀の一戦が実現したりと「本物路線」でも大きな出来事が立て続けに起こり、格闘技界は大いに沸いた。

他にも格闘技を視聴する媒体に関しては、これまでのテレビからネットでの放送やPPV配信に完全移行しつつあり、ABEMA TVやU-NEXTなどでのネット配信が主流化している。そのため、どこでもスマホひとつで格闘技の観戦が可能となった。このように手軽に格闘技を観れる環境が整えられたことも、格闘技ブームを巻き起こした要因だろう。また、ABEMAでは、「格闘代理戦争」や「格闘DREAMERS」などの格闘ドキュメンタリーも企画され、話題を集めた。

ただ、今の格闘技ブームがいつまで続くかは誰にもわからない。2000年代にK-1やPRIDEで格闘技の絶頂期にあった日本も、たったの数年でブームが下火となった歴史がある。今の格闘技熱も「歴史は繰り返す」でじきに終焉を迎えてしまうのだろうか? 今回のコラムでは、今の格闘技ブームとはどういった現象なのかをはじめ、今後もブームを続けていくにはどうしたらいいのかについて考えていきたい。まずは、今の格闘技界の現状についてみていこう。
再熱する日本の格闘技
スター選手の台頭とSNSの波及
![People Who Brag About Being A Strong Fighter vs. Mikuru Asakura [Part 1] - YouTube](https://i.ytimg.com/vi/SuMqjuHdCz0/maxresdefault.jpg)
次に、格闘家を輝かせる舞台である格闘技団体にも言及する必要があるだろう。
存在感を増すRIZIN

2015年に旗揚げされたRIZINの存在も、今の格闘技熱を語る上で欠かせない。RIZINは当初、ヘビー級などの重量級の試合を中心に大会を行っていたが、2017年に “日本の最高傑作” 堀口恭司がUFCから電撃移籍したことを機に、軽量級戦線が一気に活性化。そして、2019年頃にアウトサイダーから朝倉兄弟が参戦すると、バンタム級に加えフェザー級も選手が増え、この2階級を中心に活気づいている。また、RIZINは、ベルトをめぐる本物路線の試合ばかりではなく、伝説のボクサー、フロイド・メイウェザーを呼びエキシビションマッチを行ったり、大晦日にはYouTuberを試合に呼んだりするなど、エンターテイメント性のあるカードづくりで話題を集めている。
一方で、RIZINを引っ張ってきた堀口恭司や朝倉未来は30代にさしかかり、キック界の “神童” 那須川天心もキックからボクシングへの完全転向を表明。そんななか、次のRIZINを担う選手はいるのだろうか。現状では若手有望株と目されてきた平良達郎や木下憂朔、中村倫也は、UFCと契約し、RIZINを経由せずにに海外へ旅立っている(木下憂朔はRIZIN TRIGGERで1試合出場経験あり)。6勝無敗でPANCRASEフライ級王者となった鶴屋怜も、UFC挑戦を明言しており、最短ルートで世界への挑戦を考えているようだ。
以上のように、現状では、有望若手選手の海外の流出が起こっていると言っても過言ではない。そのため、今後もRIZINを活性化していくには、次世代を担うスター候補と契約していけるかが重要になるだろう。ただ一方で、ONEで実績のあった中原由貴がRIZINに移籍する選手もおり、これからRIZINの求心力が強まれば、海外の実力ある選手の参戦が期待できる。
BreakingDownは格闘技か? 否か?
そして、現在の格闘技界に革命を起こしているのが「BreakingDown(ブレイキングダウン)」だ。一般的な格闘技の試合が3分3Rや5分3Rであるのに対し、BreakingDownは、1分1Rのみの超短期決戦。BreakingDownは大会ごとに規模も大きくなっており、プロデューサー兼現代表の朝倉未来はBreakingDownの海外進出も示唆している。
BreakingDownに出場する選手は、プロや元プロ以外の素人も多く含まれている。中には血気盛んな選手もおり、記者会見での乱闘が傷害にまで発展するなど度々物議を醸している。その際に、元K-1王者の武尊はツイッター上で子供たちへの悪影響を指摘し、「また格闘技界は表舞台から無くなる」と強く批判。総合格闘家の平本蓮も、ツイッター上でたびたびBreakingDownをやり玉に挙げている。
BreakingDownは、ルールに則り体重を合わせた選手が合意して戦う面を見ればれっきとした格闘技だと言える。中にはプロはおろかアマチュアの試合の出場経験すらない選手も散見されることから、現状ではプロ格闘技と同列することはできないが ―――――、BreakingDown7では、元K-1王者の安保瑠輝也、RIZINに出場経験のあるYUSHIら、現役の人気プロ格闘家も参戦し大きな話題を呼んだ。今後もプロ選手が参戦していけば、BreakingDwonの見え方も変わってくるという期待がある。
ただの一般人が一夜でインフルエンサーに
さらに、BreakingDownには特筆すべき点がある。まったくの一般人がオーディションで注目を集め、一気にインフルエンサーとなることだ。
例えば「10人ニキ」の愛称で親しまれる鈴木大輔は、オーディションでの「10対1の喧嘩で勝った」という壮大なフリからの衝撃KO負けがバズリ、BreakingDownの本戦に出場できなかったにもかかわらず知名度が一気に跳ね上がった。そして、「10人ニキ」は、今ではチャンネル登録者数12万人以上をもつYouTuberとなっている。RIZINの人気選手でも、YouTubeの登録者数は数万人程度のため、知名度で言えばRIZINのトップファイターたちをゆうに上回っているだろう。
このようにBreakingDownでは実力が伴っていなくとも、その人自身のキャラクターや、立ち振舞い次第で一気に有名になれる可能性がある。そして、良くも悪くもその点が、BreakingDownが格闘家や格闘ファンから批判される点なのである。つまり、BreakingDownは、格闘技の本質といえる、強さの競い合いを目的とするよりかは、いかに乱闘やオーディションでのパフォーマンスなどのエンタメ要素で注目を集めるかに主眼をおいている。そのため、格闘技をツールにして、10人ニキなどの新たな人材やバラエティ番組のようなオーディション編成でバズらせることが目的になってきている。
これからもBreakingDownが、今の勢いをいつまで維持できるかは予測不能だが、今のやり方のままでは、オーディション頼みになってしまうリスクがある。オーディションがバズらなくなれば、勢いも失われていくだろう。そのため、今後は、より競技性の面でファンを引きつけていけるようになるかがポイントではないだろうか。
今後の“格闘技”の行方
これから国内の格闘技界はどうなっていくだろうか。
RIZINの榊原社長、特にBreakingDownの代表朝倉は、新規の視聴者やファンを獲得に成功させている。BreakingDownは、従来の格闘技興行とは違うセグメントへリーチし、コンテンツをバズらせ、興味をキャッチできている。この盛り上がりがどこまで続くかは誰にもわからないが、現状は潜在的な格闘技ファンを “フックした” 段階にある。格闘技界の真の盛り上がりはこれから先だ。
いち格闘技ファンとしては、BreakingDownで格闘技を知るようになったものが、さらにRIZINなどの国内トップ団体の試合観戦もおすすめしたい。格闘技のマーケットを評価する観点からも、BreakingDownはそれ自体で完結する興行から、他の団体とのコラボレーションしていくことで新たな価値を生みそうだ。この点RIZIN CEOの榊原信行とBreakingDownの朝倉未来には、RIZINを通してかなりしっかりとしたパイプがある。
日本格闘技界を代表するこの2名がタッグを組めば、日本の格闘技界はさらに我々ファンをわくわくさせてくれるだろう。いまたくさんいる「格闘技を見始めたファンら」の関心を深化させる、”団体間交流” などのおもしろい仕掛けに強く期待をしたい。
※アイキャッチはRIZIN公式HPより作成