RIZINの判定は公平?日本のMMAを支えるJMOCの存在

  • 2023年1月13日
  • 2023年1月14日
  • コラム

MMAにおける勝敗の判定はしばしば物議を醸す。

例えば、2022年の年末に行われたRIZIN vs. Bellatorの対抗戦。フアン・アーチュレッタと戦ったキム・スーチョルや、A.J. マッキーと戦ったホベルト・サトシについて勝っていたという声もある。元DEEP王者のジョビン氏もそのひとりで、自身のYoutube内でそのことについて言及している。

これら2試合を含むRIZIN 40. 全試合のスコアカードはJMOC(ジェイモック)によって公開されている。

スコアカード
第15試合 RIZIN MMAルール ライト級(71.00kg) 5分3R
×ホベルト・サトシ・ソウザ(ボンサイ柔術/70.85kg)
判定0-3
〇AJ・マッキー(米国/70.20kg)
レフェリー:ジェイソン・ハーゾグ

ジャッジ:
松宮智生/青・マッキー [D 0-0/ A 0-0/ G 0-20] ブライアン・マイナー/青・マッキー [D 0-0/ A 0-0/ G 0-20] 豊永 稔/青・マッキー [D 0-0/ A 0-30/ G 0-20]

■第14試合 RIZIN MMAルール フェザー級(66.00kg) 5分3R
×クレベル・コイケ(ボンサイ柔術/65.90kg)
判定0-3
〇パトリシオ・ピットブル(ブラジル/65.80kg)
レフェリー:ジェイソン・ハーゾグ

ジャッジ:
松宮智生/青・ピットブル [D 0-0/ A 0-0/ G 0-20] ブライアン・マイナー/青・ピットブル [D 0-0/ A 0-0/ G 0-20] 豊永 稔/青・ピットブル [D 0-0/ A 0-30/ G 0-20]

■第13試合 RIZIN MMAルール フライ級(57.00kg) 5分3R
×扇久保博正(パラエストラ松戸/56.90kg)
判定0-3
〇堀口恭司(アメリカントップチーム/56.65kg)
レフェリー:ジェイソン・ハーゾグ

ジャッジ:
松宮智生/青・堀口 [D 0-50/ A 0-30/ G 0-20] ブライアン・マイナー/青・堀口 [D 0-50/ A 0-30/ G 0-20] 豊永 稔/青・堀口 [D 0-50/ A 0-30/ G 0-20]

■第12試合 RIZIN MMAルール バンタム級(61.00kg) 5分3R
×キム・スーチョル(韓国/60.70kg)
判定1-2
〇フアン・アーチュレッタ(米国/60.80kg)
レフェリー:ジェイソン・ハーゾグ

ジャッジ:
松宮智生/青・アーチュレッタ [D 0-0/ A 0-0/ G 0-20] ブライアン・マイナー/赤・キム [D 0-0/ A 30-0/ G 0-20] 豊永 稔/青・アーチュレッタ [D 0-0/ A 0-0/ G 0-20]

■第11試合 RIZIN MMAルール ライト級(71.00kg) 5分3R
×武田光司(BRAVE/70.85kg)
判定0-3
〇ガジ・ラバダノフ(ロシア/70.75kg)
レフェリー:ジェイソン・ハーゾグ

ジャッジ:
松宮智生/青・ラバダノフ [D 0-50/ A 0-30/ G 0-20] ブライアン・マイナー/青・ラバダノフ [D 0-50/ A 30-0/ G 0-20] 豊永 稔/青・ラバダノフ [D 0-50/ A 0-30/ G 20-0]

■第10試合 RIZIN WORLD GRAND PRIX 2022スーパーアトム級トーナメント決勝戦 RIZIN MMAルール 女子スーパーアトム級(49.00kg) 5分3R
〇伊澤星花(フリー/48.70kg)
判定2-1
×パク・シウ(韓国/KRAZY BEE/48.80kg)
レフェリー:福田正人

ジャッジ:
松宮智生/青・シウ [D 0-0/ A 0-30/ G 20-0] 豊島孝尚/赤・伊澤 [D 0-0/ A 30-0/ G 20-0] 片岡誠人/赤・伊澤 [D 0-0/ A 30-0/ G 20-0] ※伊澤がワールドGP優勝者に

■第9試合 RIZIN MMAルール バンタム級(61.00kg) 5分3R
〇井上直樹(セラ・ロンゴ・ファイトチーム/60.85kg)
SUB 2R 3’53” タップアウト:アームバー
×瀧澤謙太(フリー/60.85kg)
レフェリー:豊永 稔

■第8試合 RIZIN MMAルール ヘビー級(120.00kg) 5分3R
×スダリオ剛(HI ROLLERS ENTERTAINMENT/PUREBRED/117.95kg)
TKO 1R 1’38” レフェリーストップ:グラウンドパンチ
〇ジュニア・タファ(豪州/108.75kg)
レフェリー:豊永 稔

■第7試合 RIZIN MMAルール フライ級(57.00kg) 5分3R
×所 英男(リバーサルジム武蔵小杉 所プラス/56.70kg)
TKO 1R 1’43” レフェリーストップ:グラウンドパンチ
〇ジョン・ドッドソン(米国/56.90kg)
レフェリー:福田正人

■第5試合 RIZIN MMAルール バンタム級(61.00kg) 5分3R
〇元谷友貴(フリー/61.00kg)
KO 2R 2’56” スタンドでの膝蹴り
×ホジェリオ・ボントリン(ブラジル/60.00kg)
レフェリー:福田正人

■第4試合 RIZIN MMAルール ライト級(71.0kg) 5分3R
〇ジョニー・ケース(米国/MMA LAB/70.95kg)
TKO 1R 0’36” レフェリーストップ:グラウンドパンチ
×大尊伸光(野田ボディビル同好会/70.90kg)
レフェリー:豊永 稔

■第3試合 RIZIN MMAルール ライト級(71.0kg) 5分3R
×中原由貴(マッハ道場/65.90kg)
KO 1R 4’44” スタンドパンチ
〇鈴木千裕(クロスポイント吉祥寺/65.85kg)
レフェリー:長瀬達郎

■第2試合 ライト級(71.0kg) 5分3R
דブラックパンサー”ベイノア(極真会館/71.00kg)
KO 1R 0’45” スタンドパンチ
〇宇佐美正パトリック(バトルボックス/70.90kg)
レフェリー:長瀬達郎

■第1試合 RIZIN MMA特別ルール 62.00kg契約 3分3R
〇YUSHI(HI ROLLERS ENTERTAINMENT/61.65kg)
判定3-0
×中澤達也(益荒男/本宮塾/61.95kg)
レフェリー:内田龍介
ジャッジ:
松宮智生/赤・YUSHI [D 50-0/ A 30-0/ G 20-0] 豊永 稔/赤・YUSHI [D 50-0/ A 30-0/ G 20-0] 長瀬達郎/赤・YUSHI [D 50-0/ A 30-0/ G 20-0]

さて、ではこのJMOC(ジェイモック)とは一体なんなのだろうか?

JMOC(ジェイモック)が支える日本のMMAの競技的透明性

JMOC(ジェイモック)は2017年11月に発足した日本MMA審判機構という団体。格闘技興行プロモーションと独立した中立な第三者による、日本のMMA競技の安全かつ公正な競技運営に貢献する団体。

2022年末のRIZIN vs. Bellatorの対抗戦においても、スコアカード公表など、JMOC(ジェイモック)はBellatorの選手らとRIZINの選手らにおいて公平透明な競技に貢献。

このRIZIN vs. Bellatorの対抗戦は海外からも注目を集めたが―――――、対抗戦に先立って米国の大手MMAメディアであるSherdogが、JMOC(ジェイモック)に対してインタビュー(英文)を行っている。ちなみに、本インタビューはブラウザ翻訳などを用いても読みやすい。

一部抜粋して紹介する。

日本ではMMAのプロモーションに所属するレフリーやジャッジなどの関係者が試合を担当していたが、それが情報交換の偏りやレフリー・ジャッジの一貫性のなさを招いていた。―――――JMOC(ジェイモック)、豊永稔氏

BellatorやUFCなどの北米を拠点とする海外のメジャーMMA団体では、州の公的機関であるアスレチック・コミッションが競技の統括を行っている。ちなみに、1990年代このアスレチック・コミッションに対してUFCとMMA競技の啓蒙活動を行ったのが元UFCのレフェリーであるジョン・マッカーシー。現在UFCやBellatorで広く使われるユニファイド・ルールは、彼なしには存在しなかっただろう。

JMOC(ジェイモック)は日本のMMAの公平性を保つために、アスレチック・コミッションを標榜したことが推察できる。

マッカーシーと信頼関係を築き、関係者向けの個別セミナーを開いてほしいと依頼し、北米のコミッションがどのようなものかを学んでいきました。―――――JMOC(ジェイモック)、豊永稔氏

2019年にJMOC(ジェイモック)は、ジョン・マッカーシーにセミナーを開いてもらい講習を受けたとのこと。この講習会について、格闘技メディアゴング格闘技から記事が掲載されている。

他にも審判団と選手の関りと公平性について、女性レフェリーが日本に少ないこと、グラウンドの膝蹴りやサッカーボールキックについても話題にあがった。

さて、冒頭に2022年末のRIZIN vs. Bellatorの判定結果が妥当かどうかだが ―――――、これについてはRIZINのルールを見直すと議論の解像度はより増す。

RIZINの公式HPによると、判定基準は3つ。

      相手に与えたダメージ : 50 or 0
      アグレッシブネス : 30 or 0
      ジェネラルシップ : 20 or 0

記載した数値は判定のポイントで、ボクシングやUFCで10-9がついたり10-8がついたりするものと同じものだ。一方、片方に必ず10点、片方には9点や8点などを採点する10点ルールと違い、RIZINの場合は例えばこのように ―――――

×ホベルト・サトシ・ソウザ(ボンサイ柔術/70.85kg)
判定0-3
〇AJ・マッキー(米国/70.20kg)
レフェリー:ジェイソン・ハーゾグ

ジャッジ:
松宮智生/青・マッキー [D 0-0/ A 0-0/ G 0-20]
ブライアン・マイナー/青・マッキー [D 0-0/ A 0-0/ G 0-20]
豊永 稔/青・マッキー [D 0-0/ A 0-30/ G 0-20]

―――――、どちらかに必ず満点を与え、それ以外は0点とする。※Dがダメージ、Aがアグレッシブネス、Gがジェネラルシップ

サトシ vs. マッキーでいえば、ふたりのジャッジがダメージもアグレッシブネスも互角とし、ジェネラルシップでマッキーを支持しているということ。単純に “有効打” “コントロール時間” などで計るユニファイド・ルールと評価されるものこそ違うが、この「ダメージ」「アグレッシブネス」「ジェネラルシップ」の順に試合を評価していけばRIZINの公式ルールに則った議論ができる。

RIZINの判定は公平か

JMOC(ジェイモック)公式HPの沿革のページを見ただけでも、MMA競技がいかに審判団の献身によって支えられてきたかがわかる。

JMOC(ジェイモック)のはじまりはあの桜庭和志 vs. 秋山成勲の試合のレフェリーを努め、自身も強くバッシングを受けた梅木良則氏の指示だ。今回の対抗戦において、ホーム側のRIZIN選手は全敗している。どちらが勝ってもおかしくない接戦も複数試合あることから、少なくともホーム贔屓の判定はないだろう。

また2020年10月には、当時から大人気だった朝倉未来がRIZINフェザー級の初代王座を賭けたタイトルマッチで、RIZINでまだ1勝しかしていなかった斎藤裕に接戦できちんと負けと判定されている。

MMA競技の最高峰であるUFCでいうなら、2022年10月にピオトル・ヤンがショーン・オマリーに負けているが、あの試合はMMA主要メディア26者中、実に25者がヤンを支持した試合。UFCの公平性が損なわれたと断言することはまだできないが、主要メディアの採点スコアからは最適なジャッジとは到底言えないだろう。

RIZINに関してはJMOC(ジェイモック)の尽力もあり、今後も公平透明なジャッジを我々ファンに提供してくれるだろう。今後、日本のMMA競技の整備をいっそう期待したい。

※サムネイルはJMOC公式HPより引用