ブラックパンサー、アメリカンマフィア、二代目破壊兵器、令和のウィリー・ウィリアムス、自称、他生含め、ニックネームが多すぎて何が正しいのかわからない程だが、ベイノアはそれだけの個性と魅力を備えている。
アメリカンな外見とは対照的な、まさに日本男児と呼ぶに相応しい決して折れない心と大和魂。リング外で見せる気さくなキャラクターとサービス精神。そして何よりもその研ぎ澄まされた肉体と華麗な技。様々な魅力で、ベイノアは私達格闘ファンを楽しませてくれている。
彼をRIZINの弥益 ドミネーター 聡志戦で知ったという方も多いが、一体彼がこれまでどのような格闘人生を送ってここまで強くなったのか、今回は”ブラックパンサー” ベイノアを丸裸にしていこう。
“ブラックパンサー” ベイノアのプロフィール
名前 : ベイ・ノア
生年月日 : 1995年8月20日
出身地 : 日本 東京都板橋区
身長 : 178cm
体重 : 73Kg
戦績 : キック 18勝5敗(9KO) MMA 1勝3敗(1KO)
階級 : フェザー~ウェルター級
所属 : 極真会館
獲得タイトル : 第2代RISEウェルター級王者
入場曲 : Kyokushin「Run To The Glory 」
バックボーン : 空手、柔道
公式 HP : ー
Twitter : BeyNoah @ROAD TO 大晦日 2023
Instagram : “ブラックパンサー”ベイノア
Youtube : ベイノアの押忍押忍押忍チャンネル
アパレル ー
ファンクラブ ー
今年27歳と、まだまだ伸びしろがあるベイノア。一体彼はどのような経緯で格闘技を始め、RIZINのリングまでたどり着いたのか、ここからはデビュー前に遡って彼の格闘人生を見ていこう。
空手少年からキックボクシングチャンピオンへ
1995年8月20日、ベイノアはアメリカのカリフォルニア州で生まれ、幼少期に日本にやって来た。見た目がゴリッゴリのアメリカ人で、アメリカンマフィアと呼ばれることもあるくらいなのだが、英語はほとんど話せない。
空手をバックボーンに持つベイノアだが、11歳の時に父親に勝手に極真空手に入会させられたのがきっかけで、単身赴任で家を留守にする事が多い父親が、ベイノアにたくましく育って欲しいと言う想いからの行動だったそうだ。その後キックボクシングを始めたベイノアは、なんと初めて出た大会で優勝!
2016年にはキックボクシング団体、J-NETWORKでプロデビュー。何と翌年10月には7戦全勝でウェルター級の王者となる。
J-NETWORKのウェルター級タイトルを手にしたベイノアはRISEに参戦してからも連戦連勝。
あっという間に第二代RISEウェルター級タイトルマッチに王手をかける。
無敗でタイトルに挑戦
迎えるのは渡部太基。RISEには4年ぶりの復帰で、いきなりのタイトル戦。これまで海外の強豪を相手に6連敗を喫し、崖っぷちに立たされてはいるが、22勝中13KOと、一発で勝負を終わらせる決定力を持っている。
試合前に渡部は「4年ぶりにRISEに帰ってきます。1年ぶりの試合になるんですが、相手も無敗のゴリゴリのアメリカ人ということで、いい試合が出来ると思います」と意気込みを語ったが、ベイノアは「まず僕はゴリゴリのアメリカ人じゃないんです。半分日本人なので。板橋区成増から来ました」と、お笑い芸人らしくツッコミを入れる。
ベイノアは渡部の印象を聞かれると「日本男児、大和魂を背負っている、とにかく気持ちの強い選手だと前から思っていたし、パンチも蹴りも出来る。倒して倒され返してという試合をしていましたね」と評し、渡部は「フィジカルが強くていい選手だと思います。笑いも取れるし」と、笑いのセンスも含めて評価した。
2018年11月17日、試合のゴングが鳴る。
序盤からベイノアが鋭い前蹴りを渡部の脇腹に突き刺して後ずさりさせるが、渡部も負けずに前に出て、三日月蹴りをベイノアの脇腹に突き刺す。その後ベイノアは多彩なコンビネーションで渡部を追い込んでいく。更に畳みかけたいベイノアだが、2Rから渡部は執拗なローで牽制。ベイノアの足が止まり、手数が明らかに減っていく。
中盤以降、打ち合いは激しさを増し、ベイノアはミドル、ハイキックを織り交ぜながら強烈なワンツーで渡部を追い詰める。負けじと反撃に出る渡部、カウンターを的確に当てていくベイノア。渡部がダメージを受けた様子を見せた所に激しいラッシュを仕掛けていく。
最終ラウンド、両者最後の力を振り絞り、リング中央でどつき合う。1Rにダウンを取られ、倒しに行くしかない渡部は果敢に攻めるが、ベイノアは強烈なカウンター左フックや鋭い右ストレートで更に渡部を追い詰めていく。コーナーまで下がった渡部に顔面への右膝、右ストレート、フックの連打と大きな声で気合を入れながら全力のラッシュ。立っているのもやっとなはずの渡部は、それでも前に出て応戦。ベイノアの飛び膝、左右のフックを受けて渡部の顔面が血に染まった所で試合は終了。
試合は判定にもつれ込んだが、全体的に試合を支配したベイノアが3-0で勝利。
リング上でマイクを取り、「板橋区成増から来ました極真会館の”ブラックパンサー” ベイノアです!押忍!」「もう本当に渡部選手強くて、もちろん今迄で一番準備してきたんですけど、倒せなかったですね、めちゃめちゃ強かったです」と、めちゃめちゃ流暢な日本語で渡部へのリスペクトを表した。
初めての敗北
無敗でRISEウェルター級タイトルを獲得し、絶好調のベイノアは、RISE WORLD SERIES 2019に出場し、ムエタイの強豪選手、タップロン・ハーデス・ワークアウトと対戦。空手vsムエタイを背負った戦いとして注目を浴びるが、試合前ベイノアは
「そういう見方になりますか? 競技を背負って戦うことを考えるとプレッシャーに感じてしまうので意識はしないようにします」と答えつつ
「僕はムエタイにはない空手の技をどんどん使って翻弄して勝ちたいと思います」と続け、結局普通に意識している様子だった。
この試合の前月には”破壊兵器” と言われたベイノアの憧れの先輩、清水賢吾の引退試合の相手を務め、試合後のリングで「二代目破壊兵器のベイノアです」と宣言したベイノアだが、この強豪を相手にその実力を証明出来るのか。
2019年3月10日に行われたこの試合は呆気なく幕を閉じた。
1R2分過ぎ、パンチを出そうとベイノアが右のガードを下げたその一瞬に、ワークアウトの、一気に踏み込んだ体重と推進力を乗せた、強烈な左フックがベイノアの顔面に炸裂!
ベイノアは崩れるようにマットに倒れ、立ち上がろうとするも再びマットに崩れたところで試合はストップ。
この試合はタイトルマッチでは無かったため、王座を奪われはしなかったが、ベイノアにとってプロ初の敗戦はタイトルと同等に痛いものだっただろう。
試合後にワークアウトはマイクを取り「今度はタイトルマッチお願いします」と早くも再戦への意欲を見せた。
次戦ではJ-NET時代に運営にも携わっていたという喜入衆と対戦。
序盤は喜入衆の左フックでグラつき、危ない場面も見せたが、2R以降から徐々に盛り返し、最終的には試合の主導権を握り3-0の判定で勝利した。
リベンジのチャンス
好調を取り戻すベイノアに、タップロンへのリベンジのチャンスがやって来た。
リベンジの舞台はRISE WORLD SERIES 2019 Final。並々ならぬ覚悟を持って試合に挑むベイノア。なんと得意のマイクパフォーマンスや入場パフォーマンスを封印し、勝つことに集中して試合に挑むと言う。
「まあ入場が期待外れになったとしても、試合で取り返すのでそこは安心してください。やっぱりチャンピオンたるもの、みんなを笑顔にするヒーローでなくてはいけないので」
と、かっこよくインタビューを締めくくった。
2019年9月16日、決戦の火蓋が落とされた。
試合は非常に拮抗した混戦となり、両者決め手の無いまま試合は終了し、判定でも決着が着かず延長戦へ。
両者疲れが見え、延長戦も膠着状態となるが、ベイノアが最後の力を振り絞って放った右ハイキックがヒットしてタップロンはダウン。残り時間はラッシュを仕掛け、このラウンドを制し、ベイノアがリベンジに成功した。
喜びの涙を流したベイノアは「今日はリング上での9分間に懸けていたのでマイクの内容を考えていなかったんですが、伊藤代表のご指名でしゃべれることになりました。タップロン、本当にコップンカップ(ありがとう)。僕は幕張で勝率100%なんです。まだ2戦しかやってないですけれど。このまま勝ち続けて幕張に戻ってきたいと思います。僕は3月に負けて、大阪で滑って、最後に勝ちました。これが僕のワールドシリーズです」と、若干滑り気味になりながらも会場から祝福を受けた。
新たなるライバル
ライバルのタップロンを倒し、真のRISE王者となったベイノアは、同年12月3日に行われた シュートボクシング(SB)の2年に一度のビッグイベント「GROUND ZERO TOKYO 2019」のメインを務める。
同大会は通常のSBの枠にとどまらず、団体の垣根を超えてトップクラスの選手を招聘。1996年に第1回が行われ、時には異種格闘技戦や総合格闘技の試合なども行われた。かつてはK-1参戦前の魔裟斗が出場したこともある。
今回はキックボクサーのベイノアが刺客としてこのリングに乗り込む事になる。
迎えるのは、弱冠22歳にして30戦以上のキャリアを持ち、S-cup世界トーナメントでの優勝や、前試合ではRISEミドル級王者、イ・ソンヒョンも倒すなど、若きベテランで実力も折り紙付きの海人。
試合前、海人は「明日はSB今年最後の大会にメインで出させていただくんですが、その最後の大会でシュートボクサーがしっかり締めないと“誰が締めるんや”って話なので、明日はしっかり倒してシュートボクサーの僕が締めます」と、シュートを代表して勝利を宣言。
ベイノアは「平日にも関わらずお集まりいただいた皆様、ありがとうございます。そしてラウンドガールの皆様、なんか、いつもありがとうございます」そして自身の事を「令和のウィリー・ウィリアムス」と、熊殺しで有名な伝説の格闘家になぞらえ、芸人モードで語り始めたが、
「海人選手は過去最強の相手だと思っています。それに合わせて僕も過去最高に仕上げてきました。なので明日はどうなるか楽しみでしようがない。明日は極真とRISEと僕の故郷・成増を背負って全力で今、僕の持っているものを海人選手にぶつけます」と、試合に関しては、ファイターとしての真剣な想いを語った。
試合が始まる。1Rは互いの高度な打撃とディフェンス技術が交錯し、両者大きなダメージは無く終了。
2Rに入ると、両者の距離は縮まり、激しく打ち合い始める。ベイノアのノーモーションのパンチやキレのあるバックブローを、海人は素早い反応で見切ってかわし、ベイノアの攻撃の合間にローやボディへの膝を入れてじわじわとベイノアを削っていく。
3R、海人にコーナーに追い詰められたベイノアは形勢逆転を狙い、バックブローを放つが海人は冷静に交わしてカウンター右フック。ここからやや海人に流れが傾き、コンスタントにボディを入れられているベイノアの動きが鈍り始めて来た。海人がボディへの左フックと膝で、ベイノアのスタミナと気力を削っていき、試合の主導権を握っていく。ベイノアが気力でパンチを連打してもその隙間にきっちりとカウンターを入れ、ベイノアのペースにはさせない。海人のペースで4Rも進み勝負は最終ラウンドへ。
ポイントでリードされているベイノアは、一発逆転を狙って投げや関節を狙っていくが流石に、関節技は一朝一夕で身につくものではなく、簡単には極まらない。ボディのダメージが蓄積されているベイノアに、海人はさらにボディへの膝を次々に打ち込む。完全にボディが効いていながらも前に出るベイノア。海人はそんなベイノアのボディを更に痛めつけ、試合終了。
実力は拮抗していたが、中盤から主導権を握り続けた海人に、ベイノアが0-3で敗れた。
敗北はしたものの、有利と見られた海人を苦戦させ激戦を繰り広げた事で更に評価を上げたベイノアは、早々に立ち直って翌年の2021年2月にHIDEKIを判定で破り、王座を防衛。
しかし次戦ではあのアンディサワーに判定で勝利した大ベテラン緑川創に、二度もダウンを奪われ判定で敗れる。
道場の名をかけた勝負
ビッグネームを相手になかなか勝ちきれないベイノア、次戦では”沖縄の獣” という通り名を持つ宮城寛克と対戦。
ベイノアは極真空手全日本軽量級王者を経験しているが、宮城も沖縄の空手道場『赤雲会』で鍛えた猛者だ。試合前は「今も空手の練習はしている。今出ているジャンルはキックボクシングですけど、僕のバックボーンは空手。自分の一番の強さを発揮するにはそこは落とせない。空手の攻撃力の凄さをどんどん出してゆく」と、空手対決では負けないと息まく。
“沖縄の獣”という呼称に対しては、「獣がどれだけいるんだって話。こないだも中村(寛)選手と獣対決って、キャラかぶりもはなはだしい」と語り、続けて「しかも誕生日もたまたま一緒なんですよね。そこまでは変えろと言いませんけれども、成増(板橋区)の獣として負けられない」と、どちらが本物の獣かを決する対決への意気込みを見せた。破壊兵器なのか、ウィリー・ウィリアムスなのかブラックパンサーなのか、キャラがブレすぎな感もある。
試合当日は当時大ブレイクしていた「鬼滅の刃」の竈炭次郎のコスプレで入場し会場を沸かせる。
試合ではベイノアが積極的に攻めてダウンを取り、3Rには、鋭いワンツーからの左ハイキックが宮城にヒットすると、宮城はまたもダウン。しかし宮城はすぐに立ち上がる。
立ち上がってパンチを出しながら向かってくる宮城に、ベイノアが左のボディフック。一瞬動きが止まったところへ、が間髪入れずに極真空手ゆずりの強烈な左ハイキックを入れると、宮城は後ろに棒立ちのまま崩れ落ち、ここでレフェリーストップ。ベイノアは見事なKOで獣対決を制した。
リング上でマイクを取ると、70Kg級のトーナメントの開催をRISEの伊藤代表に要望し、さらに
「それに向けて勢いづけるためにもう一試合したいんですよ。12月31日、出たいと言ってる選手多くいると思いますが、俺が一番出たい! スケジュールに試合って書いてます。何かの間違いで紅白からオファーが出ても、出たい。出場よろしくお願いします」と大晦日のRIZIN出場もアピールした。
大晦日への出場は叶わなかったが、ベイノアのアグレッシブなファイト、エンターテイメント性、陽気で多くのファンに愛されるそのキャラクターがRIZINの目に止まり、翌年6月、念願のRIZINのリングでのデビューを果たす事になる。
RIZINデビュー
MMAの壁
ベイノアは、RIZINデビュー戦の相手に弥益 ドミネーター 聡志を指名する。
弥益はサラリーマンという本業がありながらDEEPフェザー級でタイトルを獲得、RIZINではデビュー戦でいきなりRIZINの大スター、朝倉未来と対戦し敗れはしたものの、常に仕事を優先し、サラリーマンらしさを忘れないその姿勢は多くの日本人の共感を呼び、一躍人気となった選手だ。
もちろんキャラクターだけではなく実力も本物。クレバーな試合運びでKOも一本も狙えるオールラウンダー。何をしてくるか分からない雰囲気を持ち、どんな選手にも勝機を見出してくる。
仕事で試合前会見を欠席した弥益の、長文かつビジネス用語を織り交ぜたメッセージをRIZINが発表すると、ベイノアは
「今、ドミネーター選手よりコメントをいただいたが、全体的に何を言っているのか全く分からなかった。語彙力が豊富なのかどこかの業界用語なのか分からなかった。ほめられているのかけなされているのかもよく分からなかった。自分はリングの上で戦うだけだと思っている」と、いつもは軽快に笑いをとる彼も、弥益のサラリーマン節に調子を崩してしまったようだ。
MMAのトレーニングについては「基本は極真空手の道場でやっている。キックボクシングに挑戦するときも、自分は空手の延長で出ていたので、MMAというのも特別なことをするのではなく、あくまで自分のバックボーンである空手の延長のつもりで準備をしている」と、これまでのスタイルを崩さない意向を示した。
2021年6月18日、まばゆいライトと花火と共に、これまで以上に華々しい演出の中入場するベイノア。いよいよRIZINデビューのゴングが鳴る。
両者が構えを頻繁にスイッチする、かなり複雑な間合いの読み合いが始まる。ベイノアの鋭いミドルキックがボディに入ると、弥益はグラウンドに尻もちをつき、ベイノアに手招きをする。その弥益を直立したまま見据え、深々と礼をし「押忍!」というポーズを見せるベイノア。ドミネーターは手を合わせ、まるで好きな女の子をホテルにでも誘うようにお願いのポーズを見せる。
しかし、そんな弥益に対し再び深々と礼をし「押忍!」をするベイノア。観客席からは失笑が漏れる。
それならばと打撃戦を自ら仕掛ける弥益の顔面に、「ガツン!」と音が聞こえるほどの強烈なベイノアのカウンター右フックが炸裂。弥益はグラウンドに手を付くがすぐに立ち上がる。
その後も弥益のタックルを切りながら、ハンマーの様にフックを振り回し弥益にプレッシャーをかけ続けて1R終了。
2Rに入っても強烈な打撃で弥益を圧倒していくが、弥益の決死のタックルにテイクダウンを取られ、初めてのグラウンドに焦ったかロ―プを掴んだり、リング外に逃れようとするなどと、やや逃げ腰になり、この行為にレフェリーからイエローカードが与えられる。
やはりグラウンドは完全に弥益の土俵。文字通り弥益がベイノアをドミネート(支配)する。
ラウンド終盤には、立ち上がったベイノアからの弾丸な様なパウンドやキックから、弥益は身を守るのが精一杯。弥益がベイノアの足に組みついてマットに倒したところでゴング。
最終R開始前、度重なるロープを掴む行為にレッドカードが出される。実力が拮抗しているだけに、この減点は大きい。ラウンド序盤で弥益がタックルに行きマウントを取る。ベイノアは「ハッ!」と声を上げながらエビ反りでリバースを狙うが、力まかせにひっくり返せるほどMMAは甘くない。
後半まで弥益がベイノアをドミネートし続ける。ラウンド後半でタックルに失敗した弥益に、マシンガンのようなパウンドを浴びせ、スクランブルの中でバックを取ると更にところ構わずがむしゃらにパウンドを打ち込んでいく。勝つためならなんでもするという気迫のある攻撃だ。弥益はパウンドの嵐の中でしっかりと勝機を探り、ベイノアの腕を・・・取ったところで試合終了のゴング。
非常に難しい判定となったが、スプリット判定でベイノアのRIZIN初戦での黒星が確定した。
しかしながら、試合後、弥益は「この試合はベイノア選手ありきの試合だと思っていた。主役を奪ってやろうと思っていたけど、やっぱり彼の試合でした。彼の方が強かった」とベイノアを称え、「額面通りに結果を受け止められない。次はキレイな結果を出したい」と、試合には勝っていたが勝負には負けていたという気持ちを示した。
ベイノアはグラウンド対策はしていたものの、本物のMMA選手のグラウンドテクニックを味わい、ホベルト・サトシ・ソウザの神業を目の当たりにして、本格的に柔術の技術を習得する必要性を感じ、「今後はしっかり柔術を習って、対策を立てます」そして「かならずMMAの舞台に返ってきます」と今後の展望を語った。
RIZIN初勝利
敗北したものの、格闘ファンにもRIZIN関係者にもその高いポテンシャルをアピールできたベイノアは、2011年11月20日、RIZIN32に参戦。アフリカ出身の柔術家、ロクク・ダリと対戦する。
弥益に敗北した経験から柔術にも真剣に向き合ってきたベイノア。なんとRIZIN初戦で敗れたドミネーター聡志の元に出稽古に赴き、グラウンドの練習がしたいベイノアに、弥益が直立したまま「押忍!」と、試合でやられた押忍をここで返す一幕もあった。
ともかく、必死に柔術を練習してきたベイノアは、リングの上でその成果を発揮できるのか。
試合はダリの圧倒的なフィジカルとグラウンドテクニックに翻弄される展開となり、3Rにはダリがベイノアをロープ際に追い詰め、パンチの連打からヒザを放ち強烈なプレッシャーをかける。だが、この猛攻の中、ベイノアの強烈な右フックが一閃。ダウンしたダリにパウンドの連打で追撃するとレフェリーが試合を止め、ベイノアがMMA初勝利を挙げた。
試合後の会見でフィニッシュとなった右フックについて、解説を務めていた那須川天心が「たまたま」と言っていたことを伝えられると「え? いやいや完全に狙ってました。押忍。たまたまではないです。積み重ねていたものが出たということにしてくださいよ那須天君(笑)」と苦笑い。
その後も「たまたまでは?」という質問が何度か飛んだが「完全に極真の正拳突きです。たまたまではなく」と念を押した。
ちなみに那須川とベイノアは同じ極真のチームメイトで、Youtubeで何度もコラボする程気心の知れた仲である。
次戦では、自身が熱望していた大晦日のリングについに立つことが出来たのだが、レスリングの達人、武田光司に度々テイクダウンを奪われ、ジャーマンスープレックスでマットに叩きつけられ、最後は腕ひしぎで十字で一本を取られて敗北した。
このタフな試合で左腕を負傷したベイノアだったが、インタビューでは「怪我が治り次第すぐにでも、来年は大晦日に絶対に出て、勝ちたいと思います。絶対に勝ちます」と来年に向けての強い決意を表した。
世界レベルとの激闘
RIZINでの試合を熱望するベイノアだが、なかなか声がかからず、代わりに2019年の大晦日に大激戦を繰り広げた海人との再戦が決まる。
海人はこの試合を前に「明日は世界一になる男とそうじゃない選手との差を見せるだけです。圧倒的に倒しに行きます」と自信に満ちた様子で語り、ベイノアも「対戦相手が“次元が違う”と言っているが、自分も次元が違うと思っている。どっちが上とかではなく。明日は9分間のうちにこっちの次元に相手を引きずりこんでやろうと思っている」とRIZINのリングで大きく成長したという確信を持って試合に挑む。
ゴングが鳴った瞬間からフルスロットルで打ち合いにいくベイノア、しかしその激しい攻撃の隙をしっかり見極めて海人がカウンターを入れる。ベイノアがロープ際に追い込んで大振りの左フックを放つが、それに合わせた海人の右のヘビーショットがベイノアの顔面に炸裂! ベイノアはマットに崩れる。すぐに立ち上がろうとするが、完全に目の焦点が合わず、スパゲティのように揺れる足を見てレフェリーが試合をストップ。わずか41秒、電撃KO負けで注目のリベンジマッチは幕を閉じた。
伝説のイベント「THE MATCH」へ
デビュー戦以来のKO負けを喫したベイノアだったが、その傷も癒えぬうちに、
2022年6月19日、日本中が注目した那須川天心vs武尊のアンダーカードで、K-1ワールドグランプリ・スーパーウェルター級王者の和島大海と拳を交える。
この日のメインが同じ流派の那須川天心のキックボクシングラストマッチなだけにいつも以上に気合が入る。
「何としてもチームで負けられない。我らがナステン(那須川天心)のラストマッチなので、自分だけ負けたらシャレにならないので何としてでも勝ちます」
一方和島は
「K-1代表として絶対負けられないですし、東京ドームに見合った派手なKOをして勝ちたいと思います」
と冷静に語る。
和島も空手をバックボーンに持つが、月心会という違う流派で、それぞれの流派の威信をかけた戦いが始まる、
1R、距離を取りながら細かくローやジャブを出していくベイノア。和島は単発ではあるが、強烈なキックとパンチでプレッシャーをかけていく。ラウンド終了間際、和島が強烈な左フックでベイノアの身体ごとなぎ倒すが、なんとかベイノアは立ち上がる。
2Rに入ると、和島が一気に多彩なコンビネーションや飛び膝で畳みかける。ベイノアもカウンターを合わせるが大きなダメージには繋がらない。ラウンド中盤、前に踏み込むベイノアに合わせて和島が鋭いカウンター左ストレート。これが効いたと見て和島がワンツー、フック、アッパー、膝と壮絶なラッシュを仕掛ける。和島の圧倒的なパワーの前にベイノアは防戦一方になり、ここでスタンディングダウンを取られる。そもそもこのラッシュの中で立っている事が普通ではない。
その後も和島の攻勢は続き、ベイノアも浴びせ蹴りで対抗するが流れは変わらずにゴング。
ベイノアにとっては非常に長いラウンドだった。
最終R、和島はグイグイ前に出て、前蹴り、ボディへの膝、ワンツー等でベイノアを更に追い詰めていく。それにしてもこの男は何故立っていられるのだろう。タフどころか不死身なのかとさえ思えて来る。さらに中盤で和島の強烈なハイキックがベイノアにヒットし、これには堪らずベイノアも後退。追いかけて来る和島に対し、ベイノアは極真の意地をかけて絶叫しながら、必死に反撃。ベイノアの最後まで諦めずに前に出続ける姿に、観客席から自然と拍手が沸き起こる。
その拍手に背中を押され、ベイノアは手を出し続ける。終始和島に圧倒されながらも、最後まで戦い続け、試合は終了。
誰が見ても明らかなように、判定は0-3で和島の勝利。敗れはしたが、ベイノアの心熱くさせるファイトに観衆からは惜しみない拍手と声援が送られた。
試合後インタビューでは痛烈な悔しさを露わにしていたが、今後の展望については「また大きい舞台で、ちゃんと”押忍”を見せれるようにしっかり修行を積みたいと思います。”押忍”」と、消えない闘志を見せた。
今後の試合は未だ未定だが、ベイノアの熱いファイト、気さくなキャラクター、軽妙なトークが見られる日を多くのファンが待っている。
国内で最も層が厚く、過酷な階級と言っても過言ではないフェザー級~ウェルター級で、どこまでトップファイター達に食い込んでいけるのか、まだまだ若いベイノアのこれからの成長を期待しているファンも多い事だろう。そんな“ブラックパンサー” ベイノアからはまだまだ目が離せない。
“ブラックパンサー” ベイノアの知りたいトコ!
ベイノアは実は肥満体型だった?
今では信じられないが、ベイノアは中学校あたりまでかなりの肥満体系で、マテンロウのアントニーと似たような体型であった。
小学校の卒業文集では「六年間 給食食べ過ぎ 太り過ぎ」という素晴らしい句を残しており、すでに笑いのセンスがあった事も伺える。
中学校で柔道部に入り、部活の練習の後で空手の稽古をするというハードな日常の中でシェイプアップに成功し、今では全ての男子が憧れるような究極のボディを手に入れている。
ベイノアは優等生だった!?
中3になるとベイノアは勉学にも励むようになり、そのキャラクターや成績の良さからか、生徒会長にも選ばれている。
さらに進学した高校は東京都立新宿高等学校。なんと偏差値69もある名門校である。
文武両道とは、まさにベイノアの為にあるような言葉だろう。
ベイノアはガチで性格がいい!?
ベイノアは試合前こそトラッシュトークで相手選手を小馬鹿にしたり、挑発をしたりというパフォーマンスはするが、試合後は相手をリスペクトし、弥益ドミネーター聡志の元に出稽古に赴いたり、激戦を繰り広げた和島インスタライブのコラボをするなど、SNS、Youtubeのあちこちに顔を出している。
同業にも愛されているベイノアが、多くのファンに愛されるのは、当然と言ってもいいだろう。
まとめ
ここまで”ブラックパンサー” ベイノアのストーリーを見てきたが如何だっただろうか?
我が子を思う父に無理やり道場に連れていかれ、柔道と空手の二足の草鞋をしっかり履きこなし、キックボクシングを始めてからは瞬く間に実力を伸ばし、2016年にプロデビュー。全勝でJ-NETWORKのタイトルを獲得するが、その後は世界レベルのトップファイター達と、激闘を繰り返し、現在3連敗中のベイノアは、今まさに岐路に立たされているのかもしれない。
しかし、どの試合も一つとして心で負けた試合は無い。和島大海との試合で見せた不死鳥のごとき闘志は、観る者の魂を震わせ、自然な拍手を湧き起こさせた。
ベイノアの不屈の闘志は決して消える事なく、また新たな激闘のリングへと彼を向かわせることだろう。まだまだ伸びしろがあるベイノアの更なる進化と、大きな舞台での活躍を夢見て、これからも”ブラックパンサー” ベイノアを皆さんと見守っていきたい。
※アイキャッチはRIZINの公式HPより引用